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「やっと見えてきましたね。」
歩き始めて早くも20分が経とうとした頃、ようやく麓の町の赤っぽい時計台が見えてきた。高い場所から町を見ると、赤レンガの屋根が連なって、昔家にあったドールハウスによく似ていた。
「あと10分くらいですかね。」
雪が溶けかけ、滑りやすくなった山を滑らないように一歩一歩降りていく。雪の緩んだ山は慣れていなければ降りにくいはずなのだが、ロイスは一度も滑ることなく山を下りきった。
「そういえば、君はどうやって私の家がある場所まで登って来たのですか?」
「孤児院を出てから特に行くあてもなかったので、もう山まで行って死のうかなと思っていたんです。何とか木々の中をくぐり抜けて行ったら、ずっと向こうに光が見えた気がしたんです。セントエルモの火かとも思ったのですが、最期に何かを信じた挙句、惑わされて道に迷って死ぬのもいいかと思いました。だから、光を目指して何とか山を登って行ったんです。光の下までたどり着いた時、あの時の光が、セントエルモの火ではなくて民家の光だったので驚きました。」
ロイスは訥々と語りながら、私の後をついてくる。自分の家の光が、セントエルモの火と取り違えられたというのが面白かった。ロイスは惑わされた挙句、私のような老いぼれた天文学者の元へたどり着いたらしい。何とも不運なことである。