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このまま、置いてくださいと頼むことも考えたし、ほんの少し前までそうしようと思っていたが、ルーカスの顔を見て、なぜだかその一言が言えなくなった。結局眠れないままに僕は瞬くこともなく、変わらない星を一晩中見ていた。
翌朝目をさますと、ロイスは私よりも早く起きて、朝ごはんを作っていた。今日の日差しは昨日よりも暖かくて、いつもよりも日差しが眩しいわけもないのに、いつもよりも眩しく感じられた。
「半熟でお願いします。」
「半熟ですよ。」
いつも通り、普段通りのやり取りをして食事をとった後、私たちは防寒着をきて山を降りる。私の家には防寒着は2着あったが、ロイスの体の大きさに合うものがあるはずもなく、きちんとした防寒着を着せることは諦めて、私のセーターを2、3枚重ね着させた。
「雪だるまみたいですね。」
「はい…。」
ロイスは苦笑いをしながらこちらをみると、ウロウロと歩きまわり始めた。キッチンにいってみたり、暖炉を覗き込んだりと忙しそうだ。
「そろそろ行きますか。」
「はい。」
私とロイスは、雪解けが始まって、ぼんやりと霞む山を一歩一歩降りていった。木々は下の方に行くにつれて少しずつ緑が芽吹きはじめている。木の間に降り積もった白くひかる雪には大小様々な動物の足跡があちらこちらに付いていた。私たちはそれを見ながら、木に結ばれた色あせた赤いリボンを目印にして、木の間を抜けて行く。