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以前だったら、もうそのスケッチには床に降り積もったほこりや泥がべっとりとついてしまうから、もう一度書き直さなければいけなかった。しかし、そう思って私のスケッチを拾い上げて裏面を見ても、ほこりひとつついていないのである。万年ほこりが溜まっていた床が綺麗になったことにすら気がつかなかったほど、ロイスとの暮らしは私にとって自然になっていたことにひどく驚いた。ただし、時間に余裕が生まれれば、それだけ、別のことをする時間が増えるというわけではない。なぜだか、今までやっていた作業に対してかかる時間が増えてしまって、いつもと同じことを終わらせると、結局同じような時間になってしまうのだ。
「いつもありがとうございます。床も私の知らないうちに綺麗にしてくれて。」
「いえ。」
ある夕食の時にロイスにいうと、ロイスが口角をわずかに持ち上げて、ひくりと一瞬笑ったような気がした。いつものように柔らかい髪の毛をゆっくりと撫でるときも、もしかしたら笑っているのかもしれない。私が撫でている時は、ロイスは顔を伏せてしまって、こちらからは表情を伺えないのだ。
冬は夜でもよく晴れることが多いため、私の観測も必然的に多くなり、ロイスのことを半ば放置することが多かった。二人揃って何かを見たり、話したりするのは夕食の時ぐらいだったが、私が何も言わなくても、ロイスは一度も家事をサボらなかった。