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ルーカスが、完全に日が落ちてしまうまでに望遠鏡の調整を慌てて終えると、もう外には1つ、2つと星がその姿を現し始めていた。
ルーカスがリビングへ戻ると、案の定、ロイスが夕飯の支度をしてくれていた。
「今日はありがとうございました。君がいなかったら、ここまで彩色が終わらなかったかもしれません。」
「いえ、もとはといえばルーカスさんに僕のせいで時間を使わせてしまったのですから。」
「ルーカス、でいいですよ。別にあなたは召使いではないのですから。私の同居人です。」
「すみません。わかりました、ルーカス。」
人というものは不思議なもので、長年の習慣がわずかな時間で崩れ去っても、自分が思っていたよりも新しい習慣に慣れることができるようだ。私はここ10数年間一人で暮らし、自分のことは自分で全てやっていたのに、いつのまにか、ロイスが私のぶんまで家事をやってくれるようになっていた。人よりも鈍感な私が、自分以外の人間とうまくやっていけたことなんて今までにはなかったが、ロイスとの暮らしはなぜだか、自然に私の中で馴染んでいた。徹夜の星雲の観測が終わり、ベットへ倒れ込めばロイスがブランチを作ってくれている。自分が着色している間に、家中の家事が終わっている。最近一番驚いたのは、彩色し終わった紙を床に落としてしまった時だ。