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数日後、僕は一人で視力検査に向かった。僕が朝早く出発することがわかっていたのだろうか、その真偽はルーカスでないとわからないが、ルーカスは前日、もう当日かもしれないが、観測の疲れが残っているだろうに、僕らの家のドアの前で僕を無表情で見送ってくれた。冬の足音が聞こえる、髪を乱す透き通った風が少し寒い朝だった気がする。とても小さなことなのに、なんだかとても心が暖かくなって、気分よく僕はドーランへと獣道を伝って山を降りた。
視力検査は、ショーンの工房でやったもののグレードアップ版だった。たくさんの技師のもとで指導を受けながらドーランの町の子供達が一斉に検査を受ける。ルーカスの言っていた通り、国家によって行われているだけあって、とても精密な検査だった。夕方になって、すべての検査を終えて、結果の紙をもらうのだが、数字ばかりで、僕には何が書いてあるのかよく分からなかった。それは他の子供たちも同じだったらしく、その場で結果の書かれた紙を紙飛行機にして飛ばしている子供もいて、年老いた技師に怒られていた。
家に帰って、ルーカスにその紙を見せると、ルーカスはため息をつきながら翻訳してくれた。
「君はやはり最高評価ですね。私よりも限界値は高いかもしれない。」
「本当ですか?」
別にルーカスに優ったからといって、何にもならないのだが、なんとなく優越感を抱いてしまう。そんな僕をルーカスは分かっているのだろう、少し笑いながら、厳しい調子で言葉を続けた。
「天文学者は普通の人よりも何倍も目を酷使する職業です。特に私や君はその天文学者の中でも早い時期から目を酷使しています。その分他の人よりも視力を失いやすいことを忘れてはいけません。私自身、もう視力は10年も持たないでしょう。」
「え…。」
まさかそんなに早いなんて。
「死なないで、死なないでください!置いていかないで...」
ロイスが珍しく取り乱しているらしい。少し面白い。死なないのは、少し難しいかもしれないから、私は何も答えなかった。私が黙っていると、少し潤んでいるようにも見える目でまっすぐ私をにらみながらルーカスは叫ぶように言葉を続けた。
「もし死んだら、もう先生がいなくなっちゃうから僕は大学に行きますよ!」
僕が麓の子供のように馬鹿みたいに叫んで、いくらお願いしても、ルーカスは口元をわずかに緩めて笑うだけで、僕がほしい言葉は何も答えてくれなかった。




