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僕が何もできないままに、ルーカスは肺から血を吐くかのように言葉を叩きつけた。
「何ができたのでしょうね。何度やり直したいと思ったかわかりません。ジョンに恩返しをしたくても、これまでのほとんどを失った私には何もできなかった。そして、その中でたった一つ残ったものは、天文学だけでした。だから、私はいまだに天文学にしがみついているんです。」
ルーカスは息を吐ききってもなお、空気を肺から無理やり吐いて、彼の心臓あたりをぎゅっと握りしめながら、涙に濡れて真っ赤になった目で僕を見つめた。
「君にはこんな思いをして欲しくない。お願いだから…。」
今まで聞いたことのないほど、ルーカスの声も目も、酷く掠れていた。
「はい。」
ルーカスの涙をどうやったら止められる?ルーカスの傷はあまりに深すぎて、僕は何を言えばいいのかさえ分からなかった。こんなことを言わせてすみません、だろうか。それとも、そんなに自分を責めないで、だろうか。そんな最低な言葉を吐くくらいならいっそ黙っていたほうがいいと思った。ただ一つわかるのは、ルーカスはきっと僕が大学へ行ったら、ひどく悲しむということ。ルーカスを悲しませるくらいなら、そんな場所、行かない方がましだ。
僕が今からルーカスへ吐く言葉は彼と僕との予定調和。
「大学にはいきません。ルーカスからもっと学びたいこともありますし、僕にはここの設備で十分です。」
彼の視線が少し緩む。
「そうですか。」
ルーカスの発した言葉は短かったけれど、ルーカスのシャツを握る力が少し緩んだように見えた。もしかしたら、そうあってほしいと願っただけで、本当は違うのかもしれないが。




