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「この手紙はきみ宛ですよ?」
あるなんでもない朝のこと。ルーカスがテーブルの上にある手紙を手にとった。そういえばこの手紙は、ここに帰ってきた日にポストに入れられていたものだ。帰ってきてからバタバタしていて、つい忘れてしまっていた。
「あれ、忘れていました。読んでみます。」
ここに帰ってきてから、少なくとも3週間は経っている。僕宛の手紙なんて今まできたことがなかったから、少しどきどきしながらテーブルの上のペーパーナイフで封を切る。シュッと一筋。あっけない。それでも手紙というのはいいものだ。誰かが僕のために数分でも時間とインクを使って書いてくれたものだから。
「視力検査のお知らせ、だそうです。」
「あいつのせいですね…。」
「カインさんですか?」
ルーカスは心底嫌そうに、首を横に振った。
「あいつはそんなことはしませんよ。きみにはできれば受けて欲しくなかったのですが。役所に通達が行っているのなら仕方がありません。」
どうやらルーカスは僕に行って欲しくないらしい。僕としては、視力検査のデータがあったほうが、器具も作りやすいし、自分の正確な視力もはっきりして自分がどこまで宇宙をのぞきこめるかの目安にもなるから、検査したいと思っていたのだが。
「確かに視力検査は役立つことも多いですし、国一番の機械を使って調べますから、いい経験にもなりますが、デメリットの方が大きいのです。」
僕の考えを読んだかのようにルーカスは少し言葉を切って、ため息を一つついてから続けた。
「国家にそのデータが管理されてしまうんです。そして、見込みがありそうな子供にはしかるべき年齢になったら大学入学の案内がくる。」
ルーカスはそこで言葉を切ると、まっすぐに僕を見つめた。
「君は大学へ行きたいですか?」




