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「それと、ルーカス…」
ロイスは勢いよく頭をぐいっと下げた。
「野菜スープが嫌いだとは知りませんでした。今までずっと夕飯を野菜スープにしてしまってすみませんでした。今夜からは何か別の料理を作りますので、お許しください。」
急になんだと思ったが、そんなことか。今更すぎて、少し笑ってしまう。
「別に君の野菜スープは美味しいので、嫌いではなかったんです。黙っていてすみません。このホットミルクの作り方は、カインにでも聞いたのですか?」
「はい。美味しかったでしょうか?」
「とても懐かしかったです。ありがとう」
そういうと、ロイスは私が初めてみるような暖かい笑顔で、嬉しそうに笑った。黄金色をした蜂蜜の入ったホットミルクは、私には勿体無いほど暖かい。
僕たちは家族として過ごした時間が普通の家族よりもはるかに短い。だから、こんな普通の日常の一コマに歪みが生まれてしまう。対話ができて、それが和解に繋がることは、とても美しいことだとは思うけれど、僕たちに限っては、対話よりも時間が必要だ。長い時間を共に過ごしてきた2人の空気感というのは、一朝一夕に得られるものではない。その二人にとってはあまりに普通のことであるのに、ソトから見れば憧憬の的だ。ルーカスのことを知りたいというよりも、ルーカスともっと長い時間を共に過ごしたい。他人と一緒に過ごしたいと思ったことなんて、初めてだった。




