はじまり
それはある冬の日のことだった。天文学者のルーカスは、一人の少年を見つける。その日は風もほとんどなく、朝まで降っていた雪が止み、はりつめたような青空が広がっていた。
その少年は、凍えるような寒空の下、一人で崩れかけの塀にもたれて立っていた。その光景は、あまりにも彼が微動だにしないものだから、一枚の絵のようにルーカスの目には写った。悪趣味な絵だ。絵の中の少年は夏服のような薄手の服しか纏っていなかった。彼のむき出しになった指は、真っ赤を通り越して、真っ白になっていて、周りの雪に溶け込んでしまっていて、茶色の濡れそぼった髪の毛には、べちゃりとした雪が降り積もっていた。
「君。そこで何してるんですか。せめて、橋の下にでも行ったらどうです?」
「結構です。」
その子は、家出した少年にしては声に覇気がなく、孤児にしては言葉遣いが美しかった。彼の小さな声は、吹き付ける風にかき消されそうになっていた。こんな孤児から、言葉すら奪おうとする自然は、なんと酷いことを行うのか。
「そんなわけにはいかないでしょう。君、手足が全部もげてしまってもいいのかい?もう働くこともできなくなりますよ。それとも冬に命まで持っていかれるつもりですか?」
「もういいんですよ。」
ルーカスは、思わず押し黙ってしまった。