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7 眩石



恥ずかしい思いもしたが、あの後に店内をウロウロしながら落ち着きを取り戻して、本屋で漫画の新刊に加えて数冊の本を購入した。買った際に店員の生温かい目は気恥ずかしかった。本屋で騒ぐ客なんて迷惑だろうに。むしろ注意して追い出して欲しかった。


その後は一緒に昼飯を食べて、また3日後に会うと約束し解散することになった。彼女が帰り際に、


「漆黒の魔女について知っていることを聞きたいけど、話せる時が来たら教えてね。あ!それと漫画をちゃんと返すから生き残って無いとダメだよ」と笑顔で言い残し去って行った。



心も真っ赤になるエールを貰ってニヤニヤが止まらなくなってしまい、今の顔では外を歩けなくなってしまった。そのため今日は、日も明るいが宿に戻って本を読む事にしたのだ。


買った本は「青色消失の騒動について」「るるるグリンジョン」

どちらもタイトルが気になり店員にどの様な内容か簡潔に聞いたところ、前者はテネドラル王国の識者が書いた物で、後者はグリンジョンについての簡単な解説書と教えて貰い、興味が湧いたので購入した。



前者の方が厚いので先に読もう...



『初代の眩石げんせきの20人の1人である「青虫(または青花)のテュカス」ことテュカス・ラズラリーが三年前に死んだのは世界にとって大きな衝撃だった。彼ら超越者の死はいつも衝撃を与える。特に人の極地とも言われる超越者の中でも頂点に位置し、世界を何度も変えた眩石(げんせき)の死は世界のパワーバランスを大きく変化をもたらす。


そしてそれは、必ずしも我がテネドラル王国にとっても良い変化ではなかった。

カーム帝国に所属していたテュカスの死によって混乱しているだろう帝国に対して王国軍部の貴族が名分無く「戦を!」と声高々に叫んだからである。


それでも出兵が為されなかったのは国王の反対と今回の焦点であるトュカスの子、ティガマン・ラズラリーの存在が大きい。


超越者でもあり、帝国の守護者として100年以上外敵を蹴散らしてきた彼は、死の直前のテュカスから受魂魔法により、心と魂の武器、※心魂しんこん武具と彼の魔法を受け取った。元からテュカスと同等の力があったとされるティガマンがさらに強くなったことで王国軍部は冷や水を掛けられた様に冷静になった。


あわや一触即発の事態だったが眩石の力を手に入れた男によって戦争は回避されたのである。』

※(今回は心魂武具と表記、エンボディのこと)



『上記がテュカスの死によって起きた簡単な騒動のあらましであるが、著者が言いたいのはここからだ。眩石の力を手に入れたティガマンの眩石条約の参加の経緯である。


眩石条約は以下の4つ。

1.正当な戦争への不参加。

2.眩石の技術が戦争利用に認められた場合、使用国及び組織への攻撃参加。

3.他の眩石による条約違反を確認した場合、批准者合同による攻撃参加。

4.災害指定への攻撃参加。(いわゆる眩石攻撃のこと)



帝国軍人であるティガマンの心は帝国にあると言っても良いだろう。帝位を継承する機会は何度もあったが全てフイにしている。高潔な騎士でもある彼は軍人として帝国に尽くしてきた。


帝国はこれまで他国との戦争の際に、テュカスは条約批准により戦争へは参加しなかったが、息子のティガマンは皇族の血を継く生粋の帝国人である。

そして帝国の守護者と呼ばれる程に多くの戦争に参加してきた。その彼が条約を批准することは、条約の第1項に基づき、彼の戦争への参加が激減することになる。


かと言って条約に参加しなければ、巨体な力を持つティガマンが眩石条約によって災害指定を受ける可能性が高い。

討伐には全ての眩石が参加する。普段はバラけていても災害時には共同で立ち向かうのが彼等だ。現在生存が確認されている5人の眩石が、帝国を襲うことになったはずだ。



それに対して、流石のティガマンも5人の眩石に勝てないと帝国も理解してるのだろう。また、世界中が敵に回る可能性があるのだ。



そうなると帝国の動きは早かった。と言うより既に動いていたのだ。

帝国はグリンジョンの三代目総ギルド長である眩石メンバーのアテナ・セインジィに接触しティガマンの眩石条約及び眩石の加入に成功したのである。テュカスの死から一月も経っていない。

余りにも早すぎる。




今回の一人の男の死によって起きた騒動。

帝国は国に忠誠を誓う超越者が一人いなくなったが、帝国に新たな眩石メンバーを置く事が出来た。またティガマンの息子、カルルラン・ラズラリーも最近になって超人から超越者になったと報告があった。

ティガマンの後釜であるカルルランの存在がティガマンの眩石参加を促したのもあるのだろう。

さらにはカルルランの子・カイオネルも若くして超人になったと帝国では有名だ。


ラズラリー家はこの事で、次世代が帝国の中で安泰な地位を得た。また帝国もこの件で政治力と今後の安定性を世界に見せつけたのである。



ただ、これは私の推測だが、帝国は今回の件を最初から読んでいたのではないだろうか?



テュカスの死期を知り得るや帝国はラズベリー家と画策した。

戦争騒動の前にアテナと接触しテュカスの魂を引き継ぐ予定のティガマンの眩石への参加を認めさせた。その後にテュカスの死の公表によって王国を誘発させ、新たな眩石の誕生によって黙らせる。

結果は帝国の政治力の強さの証明と安泰、名分無く騒いだ王国の信用失堕である。

勿論これは私の妄想であることは承知してもらいたい。

だがそう考えないと私の中で辻褄が合わないのだ』




以下は帝国の行動を誉めた反動か、王国の失点について貴族の悪口も含めつつ書かれていた。

そのせいで作者は王国に居られずに諸外国に亡命したと、後書きに書いてあった。




(中々、有意義な本だった。カイオさんが超人となったとは時折噂で聞いていたが、のカルルランが超越者になったとは聞いた事がなかった。テュカス様から魂を頂いて超越者になったのだろうか?まぁ...どちらにせよたま見分けに参加しなかった自分には関係の無いことだ)




本を読み終えて思考に耽ると父の事を思い出し、気分が陰鬱になる。



「次の本を読むか。夕飯の時間でも無いしな。それにやることもないし...」

気分を変える為に敢えて思考を口に出す。旅で辛い事があった時もそうやると気分が変わる時があった。





『るるるグリンジョンVol.202 溢れた都市』

これは読むというより見ると言った方がいいか。グリンジョンの精巧な地図やギルド、ウルベンの塔の画が色付きで載っている。アンジーには「自分が案内するから、それを買うのは辞めようよ」と止められたが流石に地図ぐらいは欲しかったので、泣く泣く購入した。



『グリンジョン内にあるウルベンの塔や港街であるミレトーを見学するのは鉄板であるが、他のにも楽しい名所は沢山ある。今回はそれを紹介しておこう。


先ずは最初に目にして驚いたであろうビックロード。

沢山の種族に度肝を抜かれた人は大勢いるだろう。驚かなかった人は多分天国か地獄から来たのではないだろうか?死者が集う世界もまた、多種多様な種族に溢れているだろうから。


そんなビックロードは、世界中の食べ物がいつでも堪能できると言っても過言ではないだろう。

季節に左右されない恵まれ山と、迷宮でとれた新鮮な野菜と肉に、グリンジョン周辺で実った麦やコメはグリンジョンに入る前に皆さんも見たことがあるだろう。それらによってグリンジョンは食にも溢れている。自分にあった各地の郷土料理を自分の足で探してみてはどうだろうか。



刺激も溢れるグリンジョンだがFPG(※ファイト・パーティ・ギャンブルの略)闘技場では連日、何かしらの催しを行っている。


普段見られない魔物同士や冒険者が闘う所が見られる。

運が良ければギルド最強の「八本槍の守人」の闘いも見られるかもしれない。無論、賭事も行っているが、お金の使い過ぎには注意しよう。著者も一時期嵌ってしまい借金で首が回らなくなって、同僚に呆れられてしまった。

今書いているコラムも「暇だからギャンブルに嵌るのだ」と押し付けられてしまい、その為書いているものである(最も、そのお陰でボーナスを得る事で借金を減らす事が出来たのだが)。


楽しむ程度には良いが生活が変わるまでやってしまうとやりたいことも出来なくなってしまう。読者の皆も気を付けるように。



最後に、工房巡りについて紹介しよう。

都市の南西にある工房街はいつも熱気に溢れている。

ここで人生の至玉の一品を探す事をお勧めする。食に溢れるグリンジョンの性質柄、調理器具のみを製作する工房も珍しくない。特に鉄と飯の兄弟のドワーフは、旨いご飯と酒の為には力を抜かない。中には自分で迷宮に赴き、鉄と食材を採取し、器具を製作して、料理を作るという冒険者か鍛冶師か料理人か分からない存在もいる程だ。



そんな工房街の楽しみ方は、自分に合う包丁でも鍋でも食器でも探してみる事だ。

もしくは、ビックロードで食べた料理を再現する器具を買ってもいいかもしれない。

著者のお勧めはピューラーという皮むき機だ。一度使えばもう包丁で剥く事は面倒だと思うだろう。料理に興味が無い人でも楽しめるハズだ。



番外編として美人溢れるギルド本部も紹介しておこう。

初めに断っておくが、受付嬢は誰もが見目麗しいが、声を掛けるために冒険者ギルドに来てはならない。彼女達の笑顔は常に冒険者を虜にしている。それを奪おうとすれば、冒険者達から恨みを買うかもしれない。

それでも彼女達とお近づきになれるとすれば君も冒険者になることだ!我々ギルドは常に君達を待っている。腕に自信があるのなら挑戦してみよう。』




「なんだこりゃ...」

そう言いつつも顔は笑っている。ロメオの心は、『るるるグリンジョン』を見る前のより少し軽くなっていた。






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