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5 ウルベンの塔



ギルドを出てあれやこれに思いを馳せている内に塔の前の広場に着いた。

広場では冒険者以外の多くの人も集まっている。



青空集会所と言うべきか、そこでは待ち合わせをしている冒険者や、その冒険者相手に攻略の為のアイテムを販売している商人が見られる。あーだこうだと値下げの舌戦が激しい。


武器を持った冒険者に迫るのは怖いものがあるだろうに、販売人はものともせずに(おだ)てたり安さを自慢したり口上手く在庫を減らしていく。これが迷宮都市の商人なのだろうと感心する。



街人の格好している自分にまで回復アイテムを売り込もうとする商人をあしらいつつ、人垣を通り過ぎて塔を見上げる。塔への入口は幅広い階段を登らないとたどり着けない造りになっていて、階段の高さも民家の屋根ぐらいあるだろうか?まるで神殿の様だ。



正面に地下に降りる階段と、左右には上に向かう湾曲(わんきょく)した階段。内装と言うべきか、彫刻や修飾された様子は無いが、剥き出しの素材からは剛健(ごうけん)な力強さを感じる。


それにしても...吊るされているという大槍はこの上なのだろうか?



多くの人が行き交っても充分にゆとりがある程に、階段の歩幅が広く造られている様で、実際に今から地下に向かうだろう冒険者達は、その身に纏う装備や大荷物を運ぶことに関しての(わずら)わしさを持っていないらしい。



対照的に上に登る階段は自分と同じく、軽装で向かう者が多い。まるで何処かに買い物に行く気軽さだ。

武装した冒険者が周囲に大勢いるのにも関わらず彼らが明るいのは、今から世界有数の観光地に向かうのを、楽しみにしているからだろうか。


(今日は上に上がるけど、いつかは俺も難易度が高いとされる塔の地下に行ってやる!)

そんな風に今から地下に向かう冒険者に羨望(せんぼう)の念を送りつつも集団に混じって階段を登る。




周囲からは楽しそうな会話が聞こえてくる中で、黙々と登りながら思考に更け込む。


(旅の大半は一人だったから個人行動は慣れてるけど、大勢いる中での一人は寂しいな。特に周りが楽しそうだと、尚更だ)


こんな時は旅で培った自己完結の思考が役に立つ。暇や寂しさから考え事をしながら歩くという、特技が出来るようになった。というより癖になったというべきか.....やはり友達を作ろう。



そんな答えを導いている内に階段が途切れる。辿りついた場所は室内にも関わらず昼間と変わらない明るさの広いフロア。そこでは誰もが上を見上げている。聞こえていた話し声もいつの間にか「はぁ~」や「凄ぇ」等の感嘆になっていて会話をしている者は少ない。

時折、首を上に固定しすぎて揉み作業をしている者もいる。



ッ!!

ロメオもフロアに着いた瞬間に目を見開いて驚いている。


下の武骨な階層と違い、このフロアの壁一面には文字や模様、さらには壁画の彫刻が施されて白い光を帯びている。室内でこのフロアが明るいのも彫刻の光によるものだ。それが見渡す限り続いている。途切れている様子はない。


そして遥か先の上空には、首を真上にしないと見えない程の場所にある黄金の槍。

距離があるのにも関わらずそれが槍だと分かるのはその巨大さ故だ。「イージスの大槍」と呼ばれているが、大槍では物足りない、巨槍と改名した方がいい。それ程に大きい。



『金色輝く黄金の槍は迷宮の魔物が地上に(いず)る時に落とされる』という、都市グリンジョンの安全装置として名高い。()の槍は、この都市を守る槍でもあり楯でもあるのだ。




この槍は聞いた話によると、無数の鎖にらせん状に巻かれて吊るされているらしい。ここからではその様な鎖が見えないが、見上げて探していると、塔壁をよく見ると所々に出っ張りや四角い穴が見られる。

噂には聞いていたが上に認められた貴族や魔道師が行けるとされる部屋があるのは本当なのだろう。実際に何人かは警備兵の許可を得て封鎖された階段から上に登っていくのが見えた。




だけど俺が一番驚いたのは槍ではなく、満遍なく施された壁の彫刻だった。


(これは!全てが魔法の術式なのかっ!)



塔の内装に合う様に施された彫刻が魔法術式だと分かると、驚愕を禁じ得ない。


(見える範囲全てに細かく彫られている彫刻が術式だなんて...あんな高い所までビッシリだ。さすがサディ・K・トパーズ。本当に凄い。マジ凄い)


内心でこの塔の製作者に尊敬の念を覚える。

魔法については曾祖母に教わったが、今の自分が壁に彫られた彫刻の10㎡を真似して同じ物を作ろうとしても年単位は掛かるだろうと見た。対してトパーズは100年でこの塔を作りあげたという。


そんな自分と比べて過去の英雄にさらに畏敬(いけい)の念を抱く。


(さっきまで此処に来ることはそうないと思っていたけど、撤回しよう。壁の術式を見にまた来たくなったな)



この都市での楽しみが増えたと思い、壁を見ながら喜ぶロメオ。ニヤケながら壁に夢中という、ちょっと危ない人になった。もっとも本人は芸術品を愛でる感覚だが。


そんなちょっと危ない人に、背後から笑いを含んだ声が掛かる。



「ね。凄いでしょ?」


「ええ、こんなの見たことない」


興奮しているロメオは振り返らずに答える。相手もそれを知ってそのまま話を続ける。


「特にどんな所が気になった?」



「術式なのに、建築物の壁の彫刻としても両立させるセンスは凄いと思いました。来た人の目も楽しませて、さらに術式の見た所劣化が殆どない。術式保全はもちろんですが見るための彫刻のためでしょうか?それに後世の人が調整出来る様に術式の一部を剥ぎ取っても...魔力の伝導率が下がってしまうけれど、問題は無いでしょう。何か問題があっても全体を改める必要が無く、問題の部分を修正するだけで良い...漆黒の魔女の素晴らしさを改めて思いました。ただどうして中はこんなにも煌びやかなのに塔の外壁は野晒しなのでしょうか?こんなに人を楽しませる事が出来た彼女がッ....!」




ここでようやく後ろを振り向く。そこには丈の短いシャツにジャケットを着たへそが丸出し金髪の美女。


背丈は旅で伸びた身長が、細かい高さは知らないが、今現在自分は170㎝後半はあるであろうロメオは推測する。そんな自分より少し小さいので女性にしては高い身長なのだろう。何より胸も大きい。




肩まで掛かる金色のショートカット。ロメオの反応が面白かったのか、顔はニヤニヤしている。

全体的に黄色の服装に身を包んだ彼女は、その可愛らしい顔から見える笑顔は人に安心を与え、おへその見える引き締まったお腹と相まって彼女が明るい人だと連想させられる。


そこまでは良かったのだが、彼女、下のズボンが極端に短いのである。



ホットパンツというものだろうか。これも彼女の見えるお腹と相まって素肌の見える範囲が広く感じさせる。

要は露出度が高いのだ。


ズボンより上を見れば少女が、全体を見れば遊びなれた女性だ。


胸も大きく、素肌をさらけ出したお腹も太もも目にしてはイケないと思い、顔だけを見ようと努力する。



そんな彼女の可愛らしい顔に青年を赤くさせ、舌を麻痺させる。


「えっ、...あの..あ.」


「それで外壁がどうしたの?塔の外側が緑色の理由」


自分のオタク気質な面を見られた事と、美女に詰められることによってテンパるロメオ。饒舌が止まった事が、さらに彼女には可笑しかったのだろう。顔は二ヤけている。



それでも聞かれたので何処からか持ってきた勇気で答えることにする。魔法や歴史が好きなのと、冒険者以外の誰かと話すのを望んでいたからだ。その前に先ずは.....



(ひとまず落ち着こう)


頭を必死にクールダウンさせる。


(彼女はイヤラシイ格好をしているわけではなく動きやすい格好をしている...!そう、ただの暑がりなんだ。だから変な目で見てはいけない!そう、特に足!)


完全に熱を除く事は出来なかった。というより悪化した。

仕方ないので、彼女の隣の空虚に視線を持っていき、話始める。


「あー、壁が緑色の理由が分からないんですよ。内装は見栄えよくこんなにも力を入れているのに、外壁は苔であのようになったと聞いています。内壁のように美術に力を入れるなら、外壁も何かしら手を入れるだろうにそのままなのがどうにも...ただ、この都市グリンジョンの名も緑色の塔と、その下のダンジョンから来ていて、その名が広く根付いたことを踏まえて、名前に合わせて塔の外壁をそのままにしているとか」


抜けてない緊張から若干早口で説明したロメオは、これが通説ですよね?と確認する様に女性を見ずに言う。女性も顔はそのままで、そうねと頷く。


「でもですね。この場所では言い辛いのですが...実はその塔の魔女が極度のめんどくさがりで、最低限のやることをやったら後は放置したという話も聞いたこともありまして」



最高の魔女、頭の腐った人間と言われたとか。

と、歯切れ悪く呟く。



特に最後の蔑称は、偉人の悪口をその(ゆかり)の地で言ってるのだ。


言いたくなかった。けれども、情報のソースが実際に会ったことがあると言われている曾祖父からだ。

至高の魔導師として高名を馳せている彼女と、敬愛する曾祖父では身内が勝った。なのでロメオはこれが真実だと思っている。


だから渾名あだなだろうと塔の製作者の悪口を言ってしまったのだ。



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