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23 槍玉



「おう。良く来たね。いらっしゃい」

一度しか顔を合わせていないにも関わらず、武器工房から顔を見せる長躯の若いドワーフの女性、カーリンは愛想良く出迎えてくれた。



彼女は着いてこいと、招き入れる仕草をしながら店の奥に入っていく。その気軽さに戸惑いながらも店の客間に案内された。




自分がゲタックジョー・タナーという胡散臭い男と出会ってからの最大の幸運と言えるのは、彼女とえにしを持つことが出来たことだろう。



武器ある所にドワーフあり。

その言葉通り鍛冶業はドワーフの専業と言っても過言ではない。種族、職業の垣根が弱くなった現代でさえも「鍛冶と言えばドワーフ」と誰もが連想するだろう。


それは昔からある英雄譚でも変わらない。

物語の英雄が一生物の武器を入手するパターンで大まかに分けると、精霊や神による授与、秘境探索での入手、そして知己となったドワーフによるオーダーメイドの三通り。に入る位にドワーフと鍛冶の結びつきは強い。


この背は高く、細身ではあるが、火への耐性の証である赤褐の肌を持つ彼女は紛れもなくドワーフだ。しかも腕の良い鍛冶師の一族であるとくれば、彼女に御呼ばれされただけでも物凄くテンションが上がってしまうのは仕方ないだろう。なのだが....



「エデビスは.....まだ少しおかしなトコロはあるけど、今後の迷宮探索に支障は無いってセナケイも言ってたから安心しな」


お茶を出しながら語り掛ける彼女の顔に曇りは見えない。けれど弟の名を出した一瞬であるが、お茶を入れる手が震えたのが見えてしまった。

それでも気丈であろうとする彼女に、身内の不幸?に(さいな)まれているタイミングで武器製作を依頼するのは少しばかり気が引けてしまう。


まったくねぇ、冒険者がそんな顔するんじゃないよ。アタシに冒険者のなんたるかを豪語したのはアンタだろ?安くで良い武器が手に入るハナシだってのにさ...もう少し喜びなって。本当にエデビスは大丈夫なんだ。それに、これからも皆で潜るんだろ?ならアタシの武器で弟を守ってくれよ」


決定事項だ。そう言わんばかりに笑顔で押し切ろうとする彼女に観念して頷く他なかった。



カーリン・ドワコ・テッソーフテン。

テッソーフテン家は『ドワコ』というドワーフの中でも珍しい貴族称号を持つ鍛冶の一族であり、鉄遊びに本気になるドワーフの中でも突出した鍛冶の腕を持つ一族。

現在に至るまで多くの英雄に武器を提供してきた氏族で別名『頑固のテッソーフテン』。

今日はハイとなったエデビスを送り届けた際に「御礼に格安で打ってやる」と言われて、悪いと思いながらも内から来る嬉しさに負けてノコノコやって来たのだ。



「アンタが前に言ってたけど武器と防具が欲しいんだって?」


「そうですね。防具はともかく、武器は遠くから重みのある一撃を与えるヤツが欲しくて」


「気力はどっちが得意なんだい?籠める方?それとも纏う方かい?加治屋としちゃあ気力を使わなきゃ運べない武器はオススメしないよ。というかまともな店なら格や気力操作の確認を取らないと売らないだろうさ」


「まぁ、どちらも出来ますけど」

「へえ。ならどんなものにするか考えようじゃないか。魔剣も選択肢に入れなきゃね」

感嘆したように笑うカーリン。


強制的に肉体を超起動させる、俗に言う強化の技術である『気術』の戦闘への運用としては二通りある。


1つは身体に『纏い』もしくは『巡らす』といった、自身の体を強化して身体機能を高める方法だ。

自身の体の頑強さを上げて身を守る、素早く動く、硬い拳の一撃を放つ。攻撃と防御どちらにも応用することが出来て、前にオークとの闘いで行った足の強化による急激な加速も、肉を断った力任せの剣撃もコレだ。



もう1つは武具に気力を『籠める』ことで、武具その物を強化する方法。

気力を手持ちの武器に籠めて、強固な敵に対して武器の性能以上の一撃を与える時か、または防具の守備力を高める時に行う。何かと繊細な気力操作を必要とするが、特異な武具の能力を引き出して発動させる、武器の切れ味を上げる事が出来る等と爆発的な力。上手く決めれば戦況の一押しに、不利をひっくり返すことができる。



気力のこういった要素が『格』や『点』の数に差がある者同士の戦闘で番狂わせの原因の一つである。




勿論デメリットもある。『籠め』は武具へ、『纏い』は体への負担が大きいのだ。

気力を籠めて物質に干渉するよりも自身の体に纏う方が、気力操作の観点からすると容易ではある。

ただし、負荷が許容を超えると『籠め』は武具の破損で済むが、『纏い』は最悪の場合、取り返しかつかなくなるのだ。



実際に何人か手足に障害が残った者も見たことがある。酷いものだと誰かの補助が常に必要になった者もいた。


だからこそ、酒場でツマミ代わりの自慢話に花を咲かせる者達も、鍛冶屋を前にしては頭が上がらない。武器の製作過程で少しでも良いモノを造ろうと、自身の能力をさらけ出している事が多いからだ。


そういう面から良い鍛冶屋は口が堅いとされているが、顧客の敵対勢力に情報を寄越せと脅されても口を割らなかったという逸話を持つテッソーフテンの者への信頼は折紙つきだった。



二人は資金から実現できる範囲を埋め合わせていく。

ロメオが図面に形や注釈を書き入れて、カーリンがロメオの出せる金額と実力から枠内の素材を決める。



「こんなモンかな?だけどまぁ、良くも思いついたねぇ。確かに見た目はヘンテコリンだけど戦闘じゃ有効なハズだよ。完成を待ってな」



長い時間を取られたけれど、どうにか望む形となった。

どんな物であれ、名のあるドワーフによる武器のオーダーメイドなんて一種のステータスだ。既製品ではない自分だけの武器、旅のころから長く構想していた物が実現する事実に胸が躍る。


カーリンも未知への挑戦に、テンションが沸き立ったのか上機嫌のまま世間話に興じる。


「それにしてもロメオはアレに付き合わなかったんだって?セナケイから聞いたよ。どうやら好きな子がいるみたいじゃないか?偉いねぇ」


「別に好きって訳じゃ...」


「ハイハイ、わかってるから。良いことじゃないか?照れんなって!なぁ~」

したり顔で自分の肩に拳でグリグリしてくる彼女が鬱陶(うっとお)しい。美人にやられて満更じゃない自分がいるけど、あの時の事は恥ずかしくて女性に知られたくない。さらに言えばやられっぱなしは好きではない。


「そう言うカーリンはどうなんですか?」


「はん!アタシにそんなん居るわけないじゃあないか!」

薄目で返した俺に言葉にヤレヤレと、なんて事無くそう言う彼女だが、その上擦って大きくなった声といい腕を組んでソッポを向く仕草に....わかりやすい反応に、冷やかしの一つでも入れたくなる。



「ほんとぉ~に?実はジョーの事が好きだったりしてー」


「バ、バッカッ野郎ッ!なんでアイツのことなんか?!」

.....ほんの冗談のツモリだったんだけど、何て解りやすい反応だろうか。褐色の肌の上からでも、みるみる赤くなっているのが丸分かりだ。というか実際にこんな(ウブ)な反応されると返しに困る。


「な、なんなのさ、その眼は?違うぞ!アイツは昔馴染みというかただの腐れ縁さ!」


(これはアレだ。幼馴染とかいう家族公認のラブコメじゃあないか...)


カラッとしていた性格の女性が魅せる乙女の反応に、今の自分は死んだ目をしているのだろう。他人のノロケ程見ていて楽しいものではない。


軽い気持ちで聞くんじゃ無かった。そしてそんな羨ましいボジションに居るにも関わらず、彼女を置いて夜の冒険に熱心なゲタックジョーはやはり死んでしまえと思う。



「お姉ちゃーん。私の彫刻道具見当たらないんだけど知らなーい?」

と、そこに女の子の声が聞こえると共に、客間の入口からカーリンと良く似た女の子がヒョッコリ顔を見せる。


「あぁ、ミコット!良いところに!....じゃなくて、私も探してやるよ。ロメオ、悪いけどまた今度な!」

彼女がエデビスが言っていた妹か、何て思っていると背中をグイグイ押されて有無を言わさず客間から追い出された。



大分失礼な客の扱いだが、彼女の名誉のために何も言わずに出ていく事が懸命だろう。このまま攻めると武器も作ってくれなくなるかもしれないし、他人の恋路という藪にも突っ込みたくない。


少しばかりの不快感と切なさを抱えながら、狼狽する姉と、その姉を諌める妹に別れを言って工房を後にした。





書いている内は気がつかなかったのですが、読み直すと疲れる場面が多いなと感じました。

そのため助長過ぎる場面を削り、簡易な表現を挿入したので5000文字くらいは減ったんじゃないかと思います。

今後は更にスリムにして、戦闘シーンを増やせれたらと思ってます。


次の更新は朝倉を更新してからの予定です。数日以内にはやる予定です。


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