15 影の能力
14話に不完全な物を投稿してしまいました。
正式な物は前日に投稿し直したので改めて読んでもらえると助かります。
ご迷惑をお掛けしました。(2017年11月9日)
旅の道中で魔物と闘った時から考えていた事だが、剣や槍では届かない場所―主に大型の魔物への近接攻撃が届かない事への、歯痒さから遠距離・中距離の攻撃手段が欲しいと常々思っていた。
本来ならパーティーを組んで各人が補うべき事柄だろうが残念ながら自分は一人旅ボッチ。
そして今もボッチだ。
そうなると一人で全ての距離に対応するしかない。魔法による遠距離攻撃も可能であるが、魔法自体がココぞという場面の必殺技としている。常時使用するわけではない。
それを武器により距離の問題を解決しようとしたのである。
最も、直ぐに必要と言う訳ではなかった。迷宮の魔物の情報を仕入れて攻略に必要か加味して手に入れる予定だったが、今後に何かしらの闘いに備えて武具の予定を早める事にしたのである。
重量についても旅の当初では厳しかっただろうが、体が成熟してきた今なら気力を纏わずともある程度の鉄球なら持ち運びも可能だろう。それに自分には影部屋があるので戦闘中での武装の切り替えが可能だ。
けれども、計画を立てたはいいが新しく購入を考えていた防具と合わせると今ある手持ちでは心許無い。
なら次の行動は「稼ぐ」である。
「ふっ!っは!ラアァぁ!!」
という訳で今、ロメオはその資金の為に魔物を狩っている最中だった。
「ォらッ!は!せいはあぁ!!」
この10日ばかりは、恵まれ山の中腹辺りまで足を伸ばしてギルドの依頼をこなしつつ、金になりそうな動植物を採取。今日は狩猟依頼を請け負っていた。
"クルクルグエー!"
相対するは緑色の鳥形の魔物、ガンバークイナの群れ。
飛ぶことが出来ないこの鳥形魔物は、普段は温厚だが縄張りで敵対行動を取られると群れで襲い掛かる。
縄張りを出れば襲撃は止むのだが、クエスト目標である大型種のメガンバークイナを探しているので、ロメオは彼等を狩りつつも縄張りの奥に進んでいく。
ロメオの現在の格は『名人』。
強者に一歩踏み始めた処だが身体能力においては人として標準格の『大衆』を凌駕する。
探索用の装備を着込んでも距離を走れるし、速度も出せる。
「あーっくそ!多いな!おい!」
それでも、確実に仕留める為に、気力を込めて威力を高めた一太刀を、すれ違い様に放つ事は疲労が溜まっていく。
ロメオの放つ一太刀で大凡のクイナは絶命に至る。今まで切り付けたクイナも深く切られて絶命しているだろう。魔物としては個体の強さも生命力も低い部類だが、如何せん数が多い。
今も何処にいたのか分からないが、茂みや草村の向こうから次々と集まってくる。
(切りがない!)
「やるか!もう!できるか!?」
このクイナの群れの数が分からない為、体力勝負は不利だと考え魔法で一気に勝負を決める事にした。
ガンバークイナの群を背にして加速し、距離を取る。
(太陽は充分っ!)
チラリと上空と自らの影を確認し、左手に持った剣を右手に持ち替えて振り向く。
左腕を群れに向けピンと伸ばし、手は人差し指と中指を立て、その指先を群れに向ける。目標を定めて丹田辺りに力を込める!
(供給する魔力も十分。イメージは槍。準備はいい!)
手を群れに翳したまま叫ぶ!
「陽の恩恵によって肥えた分身、リベラルシャドウ!」
そう言いうとロメオの影が白みを帯始め、グニャリと人形から崩れて質量があるかの様に地面から盛り上がる。
「影槍!」
完成とばかりに叫び、出来たのは二本の槍。先の尖ったそれは色は白いが、メリハリを付けるかのように影の縁は黒い。
影なのに白色という矛盾はさて置き、いつしかロメオの背に位置していた影はロメオの足元から生えるように彼の左前に移動していた。見方を変えれば獣の尾にも見える。
「リンクアタックっ!」
その一言を聞いて影槍がロメオと繋がる。
ロメオが左手を上下左右に動かすと、影槍もその動きをトレースするかのように追従する。二本指は立てたままだが、時折に折り曲げて槍の矛先を変える役割を持つ。
一匹、二匹と白い影が突き刺さっていく。
時には切り付け、ロメオに近付こうとする個体を払うなど実物の槍の動きとなんら変わりない。そうやって次々と命を奪っていく。
鳥の断末魔が常時聞こえてるが聞こえないフリだ。気を抜けば魔法のコントロールを失うし、魔物に情けを掛ける事は出来ない。そうなれば死ぬのは自分だ。
お金の為なので呵責の念に囚われない訳ではないが、命の闘いは既に始まっている。
心を律し、自身の戦意を維持して闘い続けた。
◇◇◇
気が付けば周囲にロメオ以外の生命は確認できない。
ふう。
と一息付いた時に、影に魔力を込めることを止める。それと同時にボトボトと、影に突き刺さっていたガンバークイナが落ちていった。
(陽の光が充分にあったとはいえ疲れるな)
ロメオの魂魄魔法である「リベラルシャドウ」
ロメオに魔法を教えてくれたエルフの曾祖母が「影の変化じゃ戦闘中には締まらないからリベラルシャドウにしましょう♪」と勝手にその名を決められたが、ロメオもその方がカッコイイと幼心に思ったので寧ろ嬉々としながら賛成した。
そしてその幼心は今でも変わらず残っている。
光源の強さによって強度が変わるリベラルシャドウは、影がきちんと形作られて初めて発動する事が出来る。
夜になると影が暗闇に溶け込むので発動は出来ないのだが、月明かりや魔石灯、炎の放つ明かりでも影は形成されるので一応は使えはする。
だが、昼間の日光と比べると影の強度と伸び縮みの移動速度は落ちてしまう。
長句の魔術詠唱によって強度と移動速度は補完出来るが、戦闘の中で詠唱中のロメオをカバーをしてくれる人がいないのだ。
なのでロメオは頑張った。
元々魔力コントロールの天賦の才を持っていたのもあるが、長きに渡る修行と実戦により短縮詠唱を身に付けたのだ。ある意味の才能による力業であり、ボッチの業でもある。
その事が魔法を使う度に改めてボッチを自覚させるため、好きな魔法であってもショックだった。
影の伸びる範囲は込める魔力によって変わる。
今回は半径5メートル内の影操作を行ったが、先程の戦闘のように、咄嗟の中では5メートルが短縮詠唱の限界である。
限界、というよりも距離を伸ばす余裕はロメオにはあったのだがそれ以上の距離は伸びなかった。影自体が拒否するような感覚が出てくるのだ。
影が意思を持つかのように、ロメオに反発する不思議な感覚。
これについて試行錯誤した結果、恐らくこれ以上は『格』を上げないと距離は伸びないだろうと思い当たった。
『名人』の体に巡られた魔法を制御する魔術ラインでは耐えきれないと、魂か本能が影に干渉して止めたのだろう。
(頭では今の魔術ラインでも出来るとは思うけど...)
無理矢理にでも影を従わせ、詠唱で距離を伸ばす事も出来ると思っているのだが、それは影に干渉した魂への反発だ。自分の魂と争う事はハッキリ言って何が起こるか分からない。
その未知は何度脳内でシミュレーションしても、成功の道筋が見えたとしても、不意に悪い想像が必ず着いてくる。
(今は触れては行けない領域だろうな。情報も少ないし)
これ以上の距離と強度を持たせるには一人では厳しいとロメオは思いつつも、今考える事柄ではないと切り替え、辺りを見渡す。
(今は狩りの最中だ。それだけに頭を働かそう)
◇◇◇
買い取り価格が低い為、仕留めたガンバークイナをそのままに周辺を探索する。群れが襲ってきたのでボス相当の大型種が近くにいることは間違いない。
そうすること数分。遠くから、くぐもった鳥の鳴き声がする。先程まで散々聞いていたガンバークイナの鳴き声に近いが、力強さを感じる。
(見つけた。あれがメガンバークイナか)
鳴き声のする方を見ると、屠ってきたガンバークイナより一際大きく、色違いのガンバークイナがキョロキョロしている。
ギルドから聞いていた通りの黄色の大きなクイナ。眷属の争う鳴き声が聴こえなくなったから安心して巣から出てきたのだろうか?ロメオにはまだ気付いていない様だ。
膝を立て、しゃがみ込んだロメオはもう一度影に魔力を込める。
但し今回は色はともかく影の姿形は変わらない。
「影部屋」
小声で、されど自身がその単語をシッカリと認識出来る様に言う。その言葉に反応した白くなった影に左手を突っ込む。
時間にすると呼吸を二度程繰り返した位だろうか?影に沈んだ手を引き揚げるとその手には素槍が握られていた。
槍と言っても装飾の類いはなく、全身が鉄で出来ている。
特殊な金属という訳でもない、簡単に言えば先の尖った金属の棒。言うなれば槍のエストック。
影への魔力供給を止め、投槍の構えをとって槍を持った左手に気力を込める。
状態によって買取値が変動する羽毛を損傷させる事になるが、確実に仕留める為に狙うは的の大きい胴体。
戦闘と魔法の使用によって荒くなった呼吸を息を吐いて無理矢理止める。そして的中のイメージを描いていく。
実戦で培った一連の動作。
繊細な気力操作によって力が増強した手で槍を握り潰すこともない。
(自分は完璧。後は...)
相手とのタイミングを合わせるだけ......
「オラァ!」
ヒュン!
と、風を切る音を置いて槍は目標へ直線に伸びて行く。勢い余ってロメオの体勢も前のめりになった。
全力の投槍から数秒の後にクイナのくぐもった声が聞こえてくる。急いでよろけた体勢を直し獲物がいた場所を見ると、そこには見事に槍が生えて横たわっているクイナ。
(当たった!)
そう確信を得ると納めていた剣を再度引き抜きながら獲物の方に走る。
◇◇◇
「近くで見るとデカいな。人よりも大きいんじゃないか?」
そんな感想を述べられたメガンバークイナは息も絶え絶えて、槍の刺さった下腹部から夥しく出血していた。辛うじて生きているが、動くことは出来ないだろう。
メガンバークイナの羽が今回依頼されたものだ。
狩猟依頼は獲物を狩って、依頼された素材を納めて達成される。
希少な魔物や需要の高い魔物ならともかく、大抵の魔物は依頼品のみを納めるにしても、依頼対象外の他の部位を含めて納めるにしても払われる料金は大して変わらない。
なので冒険者は依頼素材以外は魔石を含めて自由に扱うのが大半だ。
依頼表には羽のみ記載されており、他の部位については記載されてなかった。持ち帰る物は現地で考えればいいと思っていたのだが、この魔物に詳しくないロメオは何処を切り取ればいいのか分からない。
まさかこんなにも大きいとも思わず、最悪持ち帰ろうと考えても迷宮で両手が塞がる状態は好ましくない。
かといって影部屋に入れて丸々持ち帰っても、人の多い街中での解体作業は魔法について知られてしまうのでは無いかと危惧していた。
「ここで全てバラすものなら時間がかかりそうだしな」
羽以外の部分で何処が金になるだろうかと思案しているその時だった。
「やるじゃないか、兄ちゃん」
メガンバークイナの解体にウンウン考えていると、背後から男の低い声が掛かる。




