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13 マールは気付かない



「あの人はね。どっ童貞なのよ!」


「...えっーと?」

(コイツは急に何言ってるんだ?)


顔を赤くしたマールが、ソッポを向いて突拍子の無いことを言い始める。

ロメオもそういう会話をあまりしたことが無く、言った女の子も恥ずかしそうにするので、二人してタジタジとなった。




◇◇◇




約束した『動物ベンチ』で合流した二人は会話もそこそこに、誰にも聞かれたくないからと喫茶店等の会話を楽しむ場所に寄らずに、近くにある人の少ない階段に向かった。



座った処でキョロキョロと周りを確認したマールは返答に困る事を話始めたのだ。




「つまりはっ、そう言う事をシた事がないの!キレイな体なの!」

顔をさらに赤くし早口で巻くしたてる。

そんな大声で言うと人に...


「おいおい、マールちゃん。だったら俺とやるかぁ?」



聴こえていたのだろう、通りがかった冒険者風の男女三人組の一人から唐突に声が掛かる。野婢やひな事を言う男にロメオは警戒するが、


「うるさいっ!私はいいの!ってか私のことじゃないし!」


どっかいけ!


そう言うと顔を真っ赤にしながら立ち上がり、今にも噛みつく様に唸り声を出して威嚇する。


そんなマールを見てゲラゲラと笑いながら冒険者三人組は通り過ぎて行った。




(からかっただけか。それにしても)


マールが言いたいのはおそらくエルガンさんの事だろう。だとしたら親近感がグッと上がる。エルガンさんと、確信はないがマールにも。

(仲間がいる!)

そう思うとロメオは顔がニヤけてしまった。まずいと思いつつ直ぐ様戻そうとするもそれを彼女に見られてしまう。

「何よ?」

「い、イヤ、何でもない」


赤色のスカートの(すそ)を押さえつつ腰を降ろした彼女は、ニヤけ顔だが内心の焦燥を出さないロメオを見ても、嫌悪ではなく先程のやりとりを見られて恥ずかしげな表情をするだけだった。



(バレてない!セーフ!)



ロメオのニヤケ面を見てぐぬぬと悔しながらも、大袈裟な咳払いをして話を続ける。



「まぁ、そのせいで彼との間に子供を儲けて力を手に入れようとする人が多いのも解るでしょ?」



そう言われてハッとする。

この世界に存在する受魂魔法。自分の力を誰かに引き継がせる事が出来る魔法のことを。受魂魔法は愛と絆や、血の繋がりが強い程に受け継がれる力が大きくなる言われている。



人は死が近付くにつれて何かを残したくなる。自分の功績を歴史に刻みたいと望む事もあれば、自身の死後に残された者たちへの安寧の為に力を残そうとする事も。

取り敢えず何かを、有形無形なぞ構わない、なんでも良い。

主に貴族は地位と権力を、商人は財力を、闘争に身を置く者は闘う力を、それぞれに残そうとするだろう。



貴族や商人とは違い、個人の持つ力が個人の能力に大きく依存する冒険者は一代だけの盛隆で終える者が多い。冒険の途中で死ぬ事もある。たとえ命を掛けた仕事で大金を手に入れてもあぶく銭に変えてしまう者が殆どだ。次代への財を残せたり、仮に偉業を認められて爵位を叙勲じょくんされても上級社会を生き残る為の権謀能力を持つ者は一握りだろう。


そんな冒険者が死に際に残した者への数少ない置き土産として、自身が持つ力を贈る事がある。その力を引き継がせる時に使用するのが受魂魔法である。眩石げんせきが発見し、普及に尽力した魔法。



親が子にせ(・)る(・)事が多いことから、愛や絆が関与していると言われるが不明な点が多い。愛や絆が確証を持って関与がある言えず、失敗することもあるからだ。傾向から赤の他人よりも夫婦や親友、それ以上に血の繋がりのある者が、力を受け取れる確立が高いというだけだ。



この受魂魔法の普及によって貴族の様に冒険者も複数の異性と正式な関係を持つことが多くなり、また冒険者稼業の引退後に高待遇で貴族に雇われる事も多くなった。

力を引き継ぐ際にも、冒険者の強い力を一人の子供の未完の『器』、成熟していない『魂』に全てを注ぐ事は出来ないので長子以外の子にも力を分け与えるケースが多く、それでも力が余る者は「勿体ない」と嘆き、一人二人と配偶者を増やして、多くの子に力を分け与えていった。

所謂いわゆるハーレム文化の黎明(れいめい)期である。



その「勿体ない」と言った冒険者が嫌々なのか建前なのかは分からないが、ハーレムは冒険者を目指す者、特に男性を色々と熱くさせたのは間違いない。ハーレムはいつしか冒険者を目指す者の一攫千金と肩を並べる夢の一つとなった。



勿論、配偶者やパトロンとなった貴族にも恩恵があった。

力を持った我が子の選択肢は広い。

親の様に冒険者になったとしても、ただのルーキーよりは死ぬ可能性は低く、安定を求めて囲ってくれた貴族の下でその家の騎士に成り得る事も可能だ。庶民が新たに家をおこして成り上がることもある。


貴族も幼い頃から自家に忠誠心を持つ騎士を得ることも出来るし、血や風習に囚われなければ冒険者に当てた我が子によって力その物を家に取り入れる事も出来た。

無論、必ず受魂魔法が成功するとは限らないので血を取り入れても結果は次世代にならないと分からず、

受魂魔法の成功率を上げようと、形に見えない愛や絆を育む事に四苦八苦する事もある。

それでも貴族の子孫に力と長寿を持たせたいという思いが冒険者の引退後の生活にもいろどりを持たせているのは確かである。



ツマリは強くて綺麗な体の男は女性にとって最高の物件なのだ。



「あの人のクランには女性しかいないのに誰ともそう言う話は聞かないのよ。クラン以外でもそういう話を聞かないし」


「えっとさ、何であの人がそう言う人だって広まってるの?」

普通は恥ずかしくて隠すんじゃないか?荒くれ者が多い冒険者の中でなら尚更で、凄くバカにされると思う。



「それがねぇ、以前、何の前触れも無く堂々と『女性と関係を持った事は無い』って自分で言ったのよ!ギルドの受付のまん前でさ!もうビックリ!その場の皆が『何言ってんだコイツ』って顔になって黙ったの。ギルドがあんなに静まり返ったのも初めてだと思うわ」


「えっ!?何言ってんのあの人」


「そうそうそんな顔。説教中だったレッター先輩もあんぐりしてたし。あの人の堂々宣言よりも正面にいた山羊やぎ族が大きく口を開けてたからさぁ。私はソッチにビックリしたよ!知ってた?山羊族って動物の山羊と違って上顎から歯が生えてるんだよ」



(エルガンさんの宣言は謎だけど、正面って...マール。君は初めて会った時も怒られてたけど、その時も怒られていたのか...)

彼女の会話を聞いて思わず憐憫を持った目でマールを見てしまう。

その視線を話が逸れた事を注意されたと思ったマールはやや不機嫌になりながらも話を戻した。ロメオは相づちを打たなかったせいでマールの表情が変わった事に気付くが、悪いと思いつつ彼女が話を再開したため黙っておくことにした。



「...まぁ確かに宣言当初は笑い物にされていたケド、言った本人が堂々としているから誰もあの人の周囲でこの話はしなくなったしね。それに本人が温厚とは言え仮にも超越者だし」



「そりゃあ確かに」

揉め事になれば絶対に負けるだろうし。手加減さたとしても死ぬかもしれない。


「それでもグリンジョンでのトップクラスのA級冒険者、名声もお金も沢山あるだろうし、顔もいいじゃない?そんな優良物件が綺麗な状態である。ハーレムはおろか恋人が居ないから誰もが狙ってるのよ。むしろ今では初めてを狙おうと躍起やっきになってる人も出て来てさ」


「それでもモテるって...何やってもモテそうだ。凄く羨ましいよ」


「もぅ、落ち込まない落ち込まない!ともかく、女の人で嫌ってる人なんて居ないんじゃない?それこそ小さな女の子は本の中の英雄に憧れる様に、大人の女の人は愛と打算に燃えているみたいだし。ただ、そこまでは良かったんだけど...」

大事な事を今から言うぞとばかりに間を作るマール。


「あまりにも浮いた話が無いから、男色って噂も広まった処から大変な事になったの」



「男色?まぁ何も無いならそういう噂は立つのかな?でもそれくらいは冗談の範疇はんちゅうじゃないの?」



「残念ながらそこに馬鹿な人達が絡んで来たのよ。『モザ薔薇の女』って人達が」


「モザ薔薇ってあの?」


「そ。知ってたの?」


「名前だけね」


モザ薔薇の女。

グリンジョンの噂としてその名を聞いた事があった。都市の影に潜む謎の集団。活動内容はよく分からないが、旅の途中で被害者と名乗ってた冒険者が詳しく話さずに関わるなと死にそうな顔で言っていた集団。


『被害者を出すくらいだから録な組織ではないんだろう』とロメオの中ではそんな認識だ。




「モザ薔薇の活動は男と男の恋の物語を普及を目指してるの。そんな彼女達にエルガン・ロンタルはご馳走だったのよ」


「はぁ?恋の物語ぃ?男同士の?」

話が予期せぬ内容に飛んで行った事に、間の抜けた返事をするロメオ。


逆に彼女達の身は危険ではないのだろうか。グリンジョンではどうか知らないが、帝国ではそのたぐいの書物は発禁だったし、所持するだけで拘束される事もある。風紀を乱す内容は他国でもその様な政策を執っている国が多いだろう。

それにターゲットになった相手が(マーク)持ちの場合、報復内容は暴力だ。

謎だと思っていた集団が随分とアホな活動をしていると思い、思わず抜けた返事になってしまう。



「馬鹿みたいと思うでしょ?でもね大真面目なのよ、『裸の紳士』っていう2つ名と、見た目のカッコ良さと性格、そしてあの宣言が彼女達の琴線に触れたみたい。特に宣言の「女性と関係を」って処がポイントらしいけど。モザ薔薇はターゲットを本にでも漫画にでもして本人のお構い無しに発行するのよ」


「えぇ...」

随分と勝手な行動にハタ迷惑だと思いつつ、とりあえず今気になる事を聞く。


「...マールもかなり詳しくない?もしかして...」

そう言いながら疑いの目を向ける。


「違うわよ!同僚のエルフがモザ薔薇の隠れファンなの!話でたまたま知っただけだから!」

目を見開いて、怒りの形相で必死に否定するマール。隠してたのにバラされてしまう同僚を可哀想だとロメオは思うがマールの話を聞き続ける。



「全く!と・に・か・く!言いたい事は別にあるの!彼女達の構成員が誰か分からないし、ギルドは彼女達に介入する気が無いのよ。過去にね、物語の登場人物になった事に怒ってモザ薔薇を倒すって息巻いてた人達が何度か出て来たの。でも彼等はだいたい数日後には消えた。旅立ったとか迷宮に潜ったとか無しにね。中には超人や超越者も居たにも関わらずに」


「えっ!マジ!?」

思った以上に過激。さらに力もあることに驚く。


「マジマジよ。そして後日に決まって彼等の体の細部の特徴が事細かに書かれた本が出版されるの。それに...なんでそんなルートを持っているのか知らないケド各国の闇市にも流出して世界中に広げられるの」


「えぇ...」



「恐ろしいのはモザ薔薇作品に一定の需要がある事よ。そのファンが目となり耳となりネタになりそうな男の人を随時モザ薔薇に報告してるの」


「えぇ...」




最悪じゃないか。

目を付けた事に文句を言おうなら超人はおろか超越者にも実力行使も辞さない。そして誰も戻ってこない。それどころか負けたら死後に痴態を晒されてしまう。

それを恐れて文句を言わなかったら社会的に、そして男として尊厳が無くなってしまう。

理不尽極まりない。


ギャグみたいな奴等と思ってたらギャングみたいな集団だった。




「さて問題です!そんな中ギルドにキラキラした目でエルガン・ロンタルに憧れた男の子が現れました!そして出会った事を自慢げに語ったのです!そこを運悪くモザ薔薇ファンの受付嬢に見られてしまいました!彼はどうなるのでしょうか?」


突然マールは口調を変え、楽しげに言う。だが目は笑っていない。



「いやいや、キラキラって...」

確かにテンションが上がっていたのは認める。だけどそんな気持ちは抱いては無い。男として目指す情景として尊敬しているだけだ。

失敬だなと思いながらも、マールの隣にいたエルフの受付嬢が赤くなっていたのを思い出して言葉を遮った。


(あの人かぁーー!)

何であんな美人が、なんて考えている暇はない。先程は可哀想なんて思ったが今は逆に怒りが沸いてくる。



「分かった?あの場で話さなかった理由。男の人は人の多い所でエルガンについて話さないの。妬みであれ、賞賛であってもね。モザ薔薇にかかれば、どんな形でも『想い』があればエルガン・ロンタルとの『絡み』になってしまう。特に憧れなんて大好物なんじゃないかな?一応エミリアは釘を刺して置いたから大丈夫だとは思うケド...あの場にいた他の人は分からないから」


うって変わって真面目な、というより神妙な顔になったマールの言葉にゾッとする。


自分がターゲットになるかもしれないという焦りから、エルフへの怒りを余所よそにマールにすがる様に疑問をぶつける。


「で、でもさ!どうして彼女達はそこまで権力を持ってるの?死人が出たならギルドも黙ってないだろ?」


『何かあったらギルドに』の合言葉を胸に、ぶつけた質問を聞いてもギルド職員マールの顔は神妙なまま。逆に質問を返されてしまう。


「アンナマリー・ゴールドって知ってる?」


「勿論さ!黄金の魔女と呼ばれた二代目ギル...」

嫌な予感がして言葉を途中で止めたが、その予感にマールが止めを刺した。


「その彼女がモザ薔薇の女の首領と言われているのよ」





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