哲子の手から魔法
私はみかかさんの指示でいくるみちゃんと周囲の探索に出かけることになった。先程一度開けた扉から再度表に出る。やはり扉の外は東陽町ではなかった!!
「わぁ、本当に田舎だYO!」いくるみちゃんも感心している。山の緑色にいくるみちゃんのショッキングピンク色の髪の毛がドギツイ。
私たちは制服姿に特製ガラケーを持って建物周りをぐるっと回ってみた。
「怪しいもの見当たらないね」
「本当にここは異世界なのかなぁ?」「そうだね~ここが異世界という証拠を探そう!」
アジトの周りに建物が全く無い時点で異常事態なのだが。
「哲子ちゃん、あれ」
「何か見つかったの?」いくるみちゃんが指差す先に目をやると。そこにはスライムが居た。それもドラクエ風の。
「いくるみちゃん、スライムなら東陽町にも居るじゃん」実は居るのである。ふかがわの手先として。
『哲子、いくるみはスライムが苦手でな。悪いが早急に対処してもらいたい』そうみかかさんから通信が入った。そういえば、いくるみちゃんは顔面蒼白させ、目の焦点があっていない。
「そうだった」
私は特製ケータイのアンテナを引き伸ばし肥大化したアンテナの先をボヨンボヨンさせてスライムをやっつけようと準備したが、思い直してそれを止め、スライムに人差し指を向けてこう叫んだ。
「ファイヤー」指の先から小さな火の玉が飛び出しスライムの近くにヒットした。
「やった、やっぱりここは異世界みたい」飛び跳ねて喜ぶ私。スライムはその隙に逃げちゃった。
私は隣に具合悪そうにしゃがみ込むいくるみちゃんに肩を貸してアジトに戻った。普段なら介護のいくるみちゃん達が担架を持って駆けつけてくるのだが、さっきのスライムが影響しているのだろう誰も来ないではないか。アジトを中へと進みいくるみちゃんをソファーに横たえる。みかかさんがオシボリを差し出す。
「ありがとうです」
「哲子!魔法に浮かれるのもいいが、もっといくるみに気を使え」
「すみません」いくるみちゃんはふかばすに入った直後の研修でスライムに襲われ死にかけている。先輩の手によってロボットいくるみちゃんズとしてパワーアップした訳だが、スライムはドラえもんにおけるネズミの如くアレなのである。
「哲子、魔法が使えたんだって」先輩がやって来て私の手を取っていろいろな方向から眺める。
「いた、ちょっ先輩手をひねらないでください」
「ややっゴメン」そう言って開放してくれる。
「しかしこれは厄介だね」
「確かに」
「えっ魔法ですよ?便利じゃないですか〜」
「あのね、哲子。あなた火気厳禁のところに近づけない」
「そう、何かの拍子に魔法が発動しないとも限らないからな」
「これからは不燃素材に囲まれて暮らしなさい」
「そっそんなぁ」浮かれていた私は突然現実に引き戻された。
「そこでこんなものを用意しました〜」先輩がてへぺろをしながら私に指輪を見せる。
「そ、それは」藁にもすがる思いで私は。
「手を出して」
手を出すと先輩が私の人差し指にシルバーの指輪を付けてくれた。
「この指輪を付けていれば魔法は発動しないはず。安全装置って訳」
「本当ですか!?」私がその場で安全装置が効いているか試そうとしたら。
「外でやってね」みかかさんにそう言われた。
私は表に出て、
「ファイヤー!ファイヤー!」と上下左右に思いっきり魔法を発動させたが今度は全く指先から火の玉が飛び出なかった。
「おっ成功みたいだね」
「ありがとうございます、先輩!」
「どういたしまして〜」
「どういうしくみなんですか?これ」
「???」
「で、ここが異世界っていうのはわかったでしょ?みかか」誤魔化したな。
「ええ、これは認めざるをえないわね」異世界だよおお。