番外編一 フォスター 魂の入れ物創り
ウィルが、まだ地球で頑張って生きていた頃のお話。
神界のとある一室でのお話です。
一部、修正しました。
「ほう? その魂の身体は、我の思い通りにして良いと言うのだな?」
神界のとある一室。呼び出されたフォスターは、目の前に存在する神に妖しい笑みを向けていた。
「ぐぬぬ……。それで、その方が治療を受けると申すなら仕方があるまい」
「二言は無いな?」
「う……うむ。余程の無理難題を申付けぬ限り、不問としよう」
上擦った声で返答をする神の顔色は悪い。どんな無理を言い出すか恐ろしくて仕方がないようだ。フォスターは、クククッと笑い右手を前に翳す。
「時の神を呼べ」
空間にフォスターが声を掛けると『承知しました』と他者の声が響く。
「何をする気だ?」
「我の創る身体が老いることなど許さぬ。身体の時間を止める」
「なんと! 人とは老いて死ぬ、それを繰り返す者ぞ! ヒッ!」
叫び声を上げる神をひと睨みして黙らせると、フォスターは何も無い空間に人型の物体を生み出した。
「ふむ。青年は、生意気そうで気に食わぬな。そう、少年と青年の中間……。うむ、厳ついのも好みではない。そういえば、地球という世界の文化に男の娘という物があったな。まあ、よく分からぬ文化ではあるが、女性の様に美しい少年が存在しても支障はあるまい。それにしても、不思議な文化よ」
出来上がっていく身体を見て、フォスターの前に存在する神は頭を抱えてしまう。確かに心が囚われる程、美しいのだ。但し、肉体は少年だった。
「フォ、フォスターよ。それでは、帰って来た魂が余りにも哀れな事にならぬだろうか?」
「勿論、哀れな事にならぬように考慮している。美しい身体の何所が悪いと申すのだ?」
美しい身体が悪いとは思わないが、その身体の持ち主は男性だ。それも、二十代後半の男性なのだ。部屋の片隅に設置された水鏡に映る地球という世界。そこに映し出された青年に目を向ける。
顔立ちは整っている青年だが、生気がなく顔色も悪い。仕事に追われ、手入れをされていない青年の姿に、憐れみすら感じる。
「あの姿を見て、憐れだと思わぬのか?」
「何故、そのような事を思わねばならぬ? 異界へ放り出された魂は、普通の魂より疲労する。そんなものは、分かりきった事だろう」
「その疲労した魂に、そんな酷な身体に入れと申すのか?」
「そんなに酷いか?」
丁度、呼び出されて入ってきた時の神が空に浮かぶ身体を見つけ、覗き込んでいた。
「ねえ。この変なのって何? 新しい種族?」
「いや。フォスターの治療に付き合ってもらう魂の身体だ」
「……え。それ、本当の話だったの? って、これって人間用? 本気で!」
途端に騒がしくなる室内に、フォスターは眉を寄せる。嫌っている訳ではないが、騒がしすぎるのだ。時の神は、フォスターが不機嫌になっても気にする様子がない。
「それにしても、フォスターの人間嫌いって、こんなに酷いんだ」
「どういう意味だ?」
「えー。だって、時間を止めても、こんな身体だったら、直ぐに死んじゃうよー。人間の精神って脆いから、尚更じゃないかなぁ。使われる魂君が可哀想だよー」
クルクルと表情を変える時の神にフォスターは考え込んだ。
「分かんないかな? 見た目だけ良くても、意味がないってことさ。こんなにか弱そうな見た目なら、肉体も強化してあげなくちゃ。色んな声や音を聴く耳を、闇でも見通せる目を、僅かな匂いでも嗅ぎ分けられる鼻を、誰よりも早く駆けることが出来る脚を、どんな攻撃を受けても耐えられる腕を」
「ふむ、肉体強化ならば容易いことよ」
時の神に寄って、次々と追加されていく項目に、フォスターは頷いて手を加えていく。
「後はねえ、綺麗より可愛い感じの方が、人間界では反発されないよ? ほらほら、中性的な感じで、可愛かったら良いと思わない? ミステリアスな感じもするしさ。そんな感じだったら、フォスターと同じように長い髪が似合いそうだよね」
「それは……。いいかもしれぬ」
「目は翡翠かなぁ。それでもってクリクリした感じって、どう? そんな子に見上げられたらキュンとしない?」
「うむ。似合うであろう。よし早速――――」
時の神に諭され、空に浮かぶ身体を創り直していく。その後ろでは諦めたように、治療を持ちかけた神が、フォスターと時の神を見ていた。
「うんうん。これだったら、凄く良い感じだよ。ところでさ、肝心の魂君は魔力持ちなの? それとも普通?」
「我は、聞いていないぞ」
「だよねー」
時の神は部屋の片隅にある水鏡に手を翳し、呪文を唱え始める。すると青年の姿に重なるように摩訶不思議な色が付いた。
「……この子、すげー」
「何がだ?」
「だって、この魂君の持つ魔力って――――」
「そう。素晴らしく魔力の高い持ち主なのだ。だからこそ、フォスターの治療に適した魂なのだよ」
今まで黙って見ていた神が横から口を挟み、時の神を睨みつける。
「(……まあ、いいか。それはそれで面白そうだし)。うん、凄いよー。じゃあ、魔力の器も大きな物を準備しなくちゃならないね」
「ふむ。どれほどだ?」
どうやら、身体を弄るフォスターは気付かなかったらしい。
「うーんとね、めちゃくちゃ大きいのがいいな」
「それでは、分からぬ」
「小さいと大変なことになるよー」
「どうなるというのだ?」
「えー。身体が耐え切れなくて、内側からボーン!と爆発するよ。身体も魂君も木端微塵で何も残んないね」
時の神が返した言葉に、流石のフォスターも青褪めていく。
「せっかく、ここまで創り上げた身体が破壊されるのは堪らぬわ」
「でしょー? だから、魔力の器も、フォスターが創れる最上級の器にしとなきゃ」
それからも、魂がアルトディニアへ還るまで、フォスターの試行錯誤は続くのであった。
本編、明日の投稿分を一話書き上げたので、頭からデリートされない内に書きました。パソコンでは消えてしまいましたが、まだ頭には残っている!
何時か書きたいと思っていたお話でした。ウィル君の身体創り。フォスターが一人で創っていたら……。恐ろしいことになっていたと思います。時の神様に感謝です!
偶に、此方でも番外編として投稿できたらいいなと考えております。まずは、本編を何とかしなければ……。
お読みくださり、ありがとうございました。