家出
私の人間嫌いは恒星とバイト先のコンビニで趣味の話で意気投合して以来多少は緩和されていた。でもやはり人間は嫌いだ。
「おい、きいてんのかよ」
金髪の男と黒髪ピアスの男が言い寄ってくる。
「どうしてくれるんだよ、このシミ。弁償しろよ、ええ」
夕方のバイト帰り、缶ジュースを買って道を歩いていたらこの2人の男がぶつかってきたのだ。そして自分でぶつかってきた癖に何だかんだと文句を言ってくる。
「あんたらが勝手にぶつかってきたんでしょ。知らないわよ」
「はあ、ふざけんなよ! ちょっと可愛い顔してるからって調子のんじゃねぞコラ」
金髪の男が私の胸ぐらをつかんで言った。
こいつらを倒すことは簡単だが妖術など使用してあまり目立つのも得策とは言えない。さてどうしたらいいか。
「あんまり調子乗ってっと犯すぞ、ガキ」
こんなゴミな連中に犯されてわたまらない。もう人前だろうがなんだろうがいいか。そう思って私は狐火を起こす。
「ぎゃあああ」
「熱い熱い痛い!?」
突如として自分たちの身体に発火した炎を見て男たちが熱さと痛さで悶える。
「お前何をした!?」
黒髪ピアスの男が叫ぶ。
「さようなら人間」
炎がさらに強くなり、男たちを焼き殺す。幸い周りは人通りが少なかったので直ぐにその場から去ることができた。
★
「ねえ、玉藻の元気がないように見えるんだけど、恒星何か知らない?」
夕食時、玉藻の元気のない表情を読み取ったハナが聞いた。
「俺は知らないけど、ハナは?」
「わたしも知らないなあ、あとで聞いてみるよ」
「おう、頼む」
「了解」
ハナが笑顔で言った。
★
「なんか元気ないね、何かあったの?」
廊下でハナが話しかけてきた。
「なんもないわ、いつも通りよ」
「ほんとに?」
ハナが訝しむ。
「うん、なんもないから心配しないで」
私は今できる精一杯の作り笑顔で言った。
「本当にそうならいいけど、何か心配事あったら言ってね、わたしたち親友なんだから」
「じゃあ、聞いていい」
「何?」
「人間ってなんでこんな愚かなの?」
「へ?」
★
その質問にわたし佐藤花子は思わずそんな頓狂の声を上げてしまう。
「本当に何があったの?」
「……チンピラにからまれた。あまりにうざかったから狐火の術つかちゃった」
「嘘!? その人たちはは大丈夫なの?」
「わかんない、でもあんなゴミども死んでもなんの問題もないわよ」
「そういう問題じゃないでしょ! どんな人間だって死んだ方がいい人間なんていないんだから」
「人間は愚かなの、愚者よ! ハナもあんなゴミに味方をするの!?」
「味方をするわけじゃない! でも死んでいい人間なんかいないってこと言ってるの!」
「もう知らない、裏切り者!」
「あっ、ちょっと玉藻!」
廊下を走るようにかけて玉藻が自室へ引き籠る。バタンという音が耳をつんざくように鳴り響いた。
★
「玉藻と喧嘩した」
午後10時頃白い寝間着姿のハナが俺の部屋へ来て言った。
「喧嘩したってどういこと」
「文字通りよ」
「マジか、あんなに仲いいのに」
「仲いい人間だって喧嘩するわ」
「で、どうして喧嘩した?」
「さっき玉藻が元気ないって言ったじゃない」
「うん」
「どうも玉藻、街中でチンピラにからまれたみたいで思わずその人たちに狐火の術をつかちゃったらしいの。それでその人たちは大丈夫なのって聞いたら、あんな奴ら死んでも問題ないって。それで死んでいい人間なんていないって言ったらハナはあいつらの味方するんだって部屋に引き籠ちゃって」
「なるほどな」
「どうすればいいかな」
ハナが不安気な表情を浮かべて言った。
「うーん、多分俺が玉藻のところ行っても多分ハナ以上に拒絶されると思うんだよな」
「だよね」
「まあ、試しに様子見に行ってみるか」
「うん」
玉藻の部屋の前に俺、ハナの2人で立つ。
トントンとドアをノックする。返事はなかった。
「玉藻、いるか~?」
返事がない。
試しにドアノブを回してみる。
開いた。しかし、部屋の中に玉藻はいなかった。電気はつけっぱなしだ。
テーブルの上にメモのようなものが置いてあった。
「今までありがとうございました。玉藻」
その書置きを見て俺とハナは慌てて早絵さんのところへ向かった。
「早絵さん大変だ。玉藻が家出した!」
「なんですって!?」
多分今の編次で完結します。多分……。




