変化
断章
――は祓魔師である。祓魔師は悪魔や悪霊を祓う者だ。悪魔や悪霊は敵である。しかし、何故か祓魔師はその悪魔を祓うために悪魔を使役する。これは矛盾しているえるは思う。しかし、――家は違った。使い魔を使役せず。魔術を行使しない。使う力は神の奇跡だ。――の父は信仰心が厚いクリスチャンであった。その為――はその父の考え方を受け継いでいる。
しかし、彼女の父は相当危険な思想の持ち主であった。悪魔は全て滅ぼすべし、それが彼の考え方であった。それは信仰心が厚いというよりほぼ狂信者であった。
父を尊敬していた――は一切その考え方に疑問を持たず、数々の妖魔を狩り殺した。
★
私は人間が嫌いだ。特に陰陽師は嫌いだ。ていうか何もかもが嫌いだ。理不尽なこの世の中が嫌いだ。
なんで妖である私が人間と一緒に人間の仕事をしなければいけないのか。納得いかない。
しかし、世の中は基本的に金で回っている。金さえあれば愛さえ買えるなんてこといった人間もいる。欲しいものがあれば金を払う。人間社会の基本だ。現代に生きる妖たちも基本この掟を守らなきゃいけない。だから私は働くしかない。だからといってなんでこんな人の多い場所にしてしまったのか。大泉学園駅にあるローソン。ここが私が務めるバイト先だ。しかも寄りにもよって接客業。現在仕事探し中の私の友人の妖が働くなら接客業をやってみたいとか言っていたけどそんなこと言う者の気持ちが理解できない。
「毎度ありがとうございました」
客にお決まりのセリフを吐きながら、ああバイト早く終わんないかな、と思う。
つまらん。実につまらん。早く新しく買ったミステリー小説を読みたい。
そんなことを考えていると誰かが入店して来た。
「!?」
その顔を見た瞬間私の不機嫌度はさらに増した。
「あっ、狐神」
中原恒星が入店するなり私の姿を見つけて言った。
「気安く名前で呼ぶな」
俺は学校が引けた後の帰宅途中、少し喉が乾いたので飲み物でも買おうかとコンビニに入ると見知った顔がいたで少し驚いた。狐神玉藻がレジで接客をしていたのだ。
「接客業とは意外だな」
「……」
無視された。
まあ、いいや商品を持っていてもう1回コミュニケーションを試みてみよう。
コーラと文庫本を持ってレジへ行く。
「これください」
「ちっ」
舌打ちされた。なんか玉藻と顔を合わせると必ず舌打ちされてる気がする。
「うん?」
俺が持ってきた商品を確認するなり玉藻がそのうちの「アヤカシ探偵」と書かれた文庫本に目を止めて言った。
「どうした?」
「あんたミステリー好きなの?」
「ああ」
「そう。そうなんだ」
気のせいか今玉藻が少し笑っていたような。
「それがどうかしたか?」
「この作者の作品私も好きなのよね」
「へえ、マジか。俺もだ。ファンタジー・ミステリって感じで今までにない面白さがあるよな」
「そうそう。ミステリって言ったら基本的に科学的に証明していく作品が多いけどこの作者の作品はそれを覆してるわよね」
玉藻が楽しそうに言う。こんなに彼女が笑ってる姿を見るのは初めてだった。新しい彼女の一面を見つけて俺は嬉しくなった。
ここまで趣味が合う人にであったのは初めてだった。だから私は嬉しかった。そしてその気持ちに気付いた時私の心中は凄く複雑だった。嫌いだった人間と趣味が合う。そんな状況に私は困惑する。
いや趣味が合うからと言って仲良くなれるとは限らないわ。でもようやく同じ趣味の人に出会えたことに嬉しさがこみ上げてくる。ぐう、どうしたらいいのよ。
悶々と頭の中で悩む。彼と話したい。大好きなミステリの話をしたい。でもあいつは陰陽師だ。あいつは私の敵だ。だから仲良くはできない。でも話したい。全く、めんどくさい。ひとの……いやあやかしの心ってなんてめんどくさいんだろう。
断章
妖の少女は絶望の淵で怯えていた。辺りは暗く電灯一つない暗黒の世界。まるで現実ではないどこかのようだ。黒い人影が妖の少女を追いかけてくる。人影からは殺気が満ちている。妖の少女を殺そうとしてるのだ。
「そして彼らを惑わしていた悪魔は火と硫黄の湖や投げ込まれた。そこは野獣と偽預言者の両方がすでにいるところであった。彼らは昼も夜も限りなく永久に責め苦に会うのである」
新約聖書「ヨハネの黙示録」にある聖句が聞こえる。女の声だった。必死で走る妖の少女に地獄の炎が迫りくる。炎が一匹の龍のように妖の少女に向かって突き進む。
私が何をした。普通に日常を過ごしてただけじゃないか。なのにどうしてこんな目に合ってる、妖の少女は悲しさでいっぱいになった。
自らの神通力で結界を張る。しかし、直ぐ破られた。
炎が見えない結界を破り、妖の少女に襲いかかった。
その濁流が妖の少女の身体を飲み込む。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
妖の少女の身体を地獄の熱さの炎が焼き尽くす。大絶叫が周囲全体に轟いた。
だが誰かが駆けつけてくる気配は全くない。暗いとはいえこの周囲には民家が多くある。本来であれば聞こえないはずはない。
しかし、辺り一帯には結界が張られていた。
妖の少女は熱さと痛さで地面にもんどりをうち転げまわったあげく。全ての意識を永久に凍結させた。
祓魔師の少女から凶気の笑みがこぼれる。
妖狩りこれほど楽しいものはない。妖は悪だ。悪を一匹殺したって殺人にはならない、わたしは正義の行いをしてるのだ。だから罪に問われることはない。妖は全て悪だ。殺していい存在なのだ。
少女は間違った正義感に浸りきった思想に溺れながら”もの”を殺すという危ない娯楽を楽しんだ。




