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居鯉の夢  作者: 茂瀬草太
居鯉の夢
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―秋の章―

(山裾の 紅葉狩り行く 鯉魚の風)




風が強い、今年の風祭りは失敗したかもしらんな。お爺様の重たい声が落ちる。山の裾に鯉なぞ住まわせたから山神がお怒りなのだとお婆様が言う。けれど、山を歩く彼の背中は誰より一番山に映えているとは終ぞ言えなかった。



赤い衣を纏った山の裾野で鹿を追い掛ける。お爺様たちが兎を狩る音が谺して届く。絵師様が木陰で絵を描いている。見慣れた皮膚下の鯉が音に驚いては跳ね上がっていた。



山の実りが良かった年に、山の神に感謝を込めて祭が行われる。山で生まれた蚕の繭から作った衣に山で実った実や花で色を付ける。捧げ物は村の田畑で出来た稲。昔は花嫁が一人ずつ納められていたそうだけど、厄災が起きてからはなくなったと聞いた。



夏の強い陽射しも弱まり、冬ならではの少し冷たい空気が混ざった日。微睡む視界で絵師様が庭の柿を取っていた。食べる前に干して甘くするのだと言う前に、絵師様は柿をかじる。蛙がひっくり返る様な声が聞こえた。



捏ねた小豆で荒く搗いた餅を包む。お萩と言えば、牡丹餅に似ていると言われた。春に食べれば牡丹餅、秋に食べればお萩と言えば屁理屈だと返される。口をぱくぱくとさせる鯉の姿がまるで男の心の内を現してる様だった。



菊を漬けた酒を片手に、随分と機嫌の良い男が出迎えてくれた。お爺様に貰ったと言う。山で拾った栗を庭で焼けば、良い香りだと男が笑う。居鯉は酔った様に酒を持つ手で遊んでいた。



満ちた月を背負う山を眺め、芒と団子を飾る。つい先日収穫したばかりの米を搗いて作った団子だ。月に照らされて泳ぐ居鯉が薄く色付き、かつて男が話してくれた月女の物語が浮かんだ。



秋も盛りを過ぎ、日夜寒さが目立ち始める。山の衣が落ちきる前の頃、絵師様は絵に没頭することが多くなった。鬼気迫るその姿は、まるで見たくない何かを見ない為に無理矢理塞いでる様にも見えるし、いつかふと消えてしまう様にも見えた。

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