出逢う
(語り部に 追憶囀る 墨綴り)
山の麓には居鯉に取り憑かれた絵師が住んでいるらしい。お婆様たちが噂をしていた。居鯉が何なのかと聞けば、過去に罪を犯した者の身の内に巣食う妖と言う。お爺様は無言で険しい顔をしていた。
居鯉は深い悩みを持ち、生きる事に苦しむ者に寄り添い、共に生きていく憑き物と聞く。異なる様ではあるが憑かれた者は一様にして美しいが、短命である。お爺様は声を潜めて悲しげに言った。
お爺様に連れられ、麓の庵に行く。其処には見慣れぬ白い鬼が居た。お爺様は身の内に居鯉を飼う者だと言った。彼は遠い海の向こうから来たという。明日から彼の身の回りの世話をする役目を頂いた。
彼に住まう鯉の事を「居鯉」と言うのだという。現実に人生を翻弄されている人間に住まうらしい。赤と黒が鮮やかな鯉は、どうみても錦鯉にしか見えない。男の目元で漂う尾ひれが、夕日に照らされて優雅に揺れていた。
この国の外から来た鯉を皮膚に住まわせる男は、周りと比べて随分と背が高い。あと、目の色も違う。男は濁った色だと言うけれど、男の目には花が咲いているのだ。とても色鮮やかな美しい花だ。その花は男が死なない限り、ずっと咲き続けるのだろう。