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トラブルメイカース 1

長くストップしておりましたが再開。



ーーーーーーー


目を覚まして

準備して

朝日に叫べ


Part1 グッモーニン



ーーーーーーー



「むぎゃっ、いてて」


衝突。

目覚めと共に寝床(ベッド)から転がり落ちた猫見光姫(ねこみみつき)は、頭から床に受け止められた。

光姫の好みの問題で無理に二段に改造されたベッドは柵が無い為に、寝相の悪い光姫は高確率で墜落による目覚めを味わっている。


床から顔を上げた光姫は、大きく欠伸をしてキッチンへと向かう。

炊飯ジャーから、予め炊いておいた白米をよそい、その上に鰹節と少量の醤油を垂らす。

かき混ぜれば、即席おかかごはんの出来上がりだ。


「うまうま」


食卓に並ぶのはおかかごはんと麦茶、それ以外の用意は無い。

単純に、用意をしていないだけで、嫌いな食べ物があるわけでは無い。

敢えて言えば、極端に好きな食べ物に比重が傾いているのだ。

その最たる好物が鰹節だ。


正直、鰹節と白米が有れば問題は無い、と光姫は思う。

そんな事を、先日に、光姫の朝の様子を見に来た世話焼きな友人、真事(まこと)に告げた所、ハリセンで(はた)かれた後、ほうれん草のお浸しと味噌汁を作ってから光姫に説教をする、という妙な光景が出来上がった。

結局、何故(なぜ)叱られたか理解できない光姫だったが、そういう物なのだと納得しておいた。栄養バランスとか一汁三菜とか言われても、良く分からないのだ。


「ぽちっと」


朝食を食べ終えた光姫は、テレビの電源を入れる。

このテレビ、光姫の保護者外道(そとみち)が1年程前に、「壊れたから、やる」と無茶な理由で押し付けてきた物だが、光姫が斜め45度の角度から手刀を見舞うと、立ち所に息を吹き返し、それから使用している物である。

その時の外道は、珍しく目を見開いていた事を覚えている。


ちょうどテレビでは、ニュース番組の占いコーナーが始まっていた。


「おっ!一位だ!」


見ると、光姫の生まれの星座が一位となっている。


《今日のあなたはとってもラッキー!

友人との関係も上手くいくでしょう。

落とし物を届けると更に運気がupするかも?》


「ほほーう」


一通り見終わった光姫は、歯みがきを済ませ制服を着込む。


「さーて、ギンちゃんとこ行こっと!」


光姫はアパートを飛び出す。

目指すは、学校。

だがその前に、友人銀二(ぎんじ)の家に行こう。



⚫︎



午前7時。

けたたましく鐘の音が鳴り響く。

地中の蝉でさえも叩き起こす勢いで響く金属音は、秒刻みでその音を増している。


「〜っ!ああもう、やかましいわっ!」


30秒を経過し、未だに鳴り止まない目覚まし時計に我慢の限界を迎え、布団からのそりと顔を出した鹿羽銀二(しかばねぎんじ)は時計に平手を叩き付けて止めた。


「あーくそっ、完全に目ェ覚めたわ。ホンマ不良品ちゃうかコレ?」


役目には忠実なんやけどなあ、とぼやく銀二の手に収まる赤の目覚まし時計は、数ヶ月前に雑貨屋で安く買い叩いた物だ。しかし、使い始めて一ヶ月が過ぎた後、徐々に調子が悪くなり、今では火災報知機に匹敵する音量を枕元で流すので、普段寝起きが悪い銀二に取っては、助かり半分迷惑半分と言った所である。


「人がええ感じで夢見とる時に・・・あれ、どんな夢やったっけ?」


良くある事だ。

夢を見ていた事は覚えているのだが、詳細が思い出せない。

夢の場所は銀二にも覚えのある現実の風景の差し込みで、己の家の敷地内だった。

だが、


ーーー火事やったなぁ。


そこら中から火と黒煙の立ち上る光景は殺伐としていた。

つくづく縁起の悪い夢を見たものだと思うが、何故、唐突にそんな夢をみたのか。


「まさか、お前の所為やないやろな・・・」


己を叩き起こした火災報知機(仮)を睨み付けた銀二は、

本当にそんな気がしてきたので時計を枕元に放り投げる。

布団を軽く畳んでしまうと、窓を開けて朝日を部屋に取り込む。


「んん、気持ち悪い」


柔らかい朝の風を受け止めるが、どうにも不快感がある。

熱い夢を見た影響か、身体がかなり汗ばんでいるのだ。


「水浴びよ」


こんな時は、冷水でだるさを吹き飛ばすに限る。

そう思い、部屋を出た。

廊下を少し進んでいくと向かいから来た男がこちらを見て頭を下げる。

家で面倒を見ている、若衆の一人だ。


「おはようございます銀さん。どちらへ?」


「おはようさん、テツ。これから朝風呂行こ思てな、テツは?」


「自分は黒田の兄さんに銀さん起こすようにと言われまして。風呂に行くなら兄さんに伝えときます」


「おう、頼んだで」


若衆と別れた銀二は、洗面所に入る。

ここは、一人用の風呂場で、主に銀二などの鹿羽家の者が使用する場だ。

洗濯カゴに寝巻きを押し込み、風呂場に入ると蓋を開く。


「なんや、もう水張っとるやん」


家の人間は気が利いている。

そんな感慨を持って浴槽に洗面器を入れた。



⚫︎



鹿羽家。

府熊市北東部に位置する住宅地。

その中で最も広く、石塀に囲まれた屋敷である。

百世帯は存在する住宅地の(およ)そ三割を占める敷地を有する鹿羽家は、遡れば17世紀から続いているとされる武士の家系である。


7時を過ぎ、屋敷の人間が朝の準備を急ぐ喧騒が聴こえ始める。

その中に、質の違う音が鳴った。


数秒置きに風を切る鋭く重い音が響く場は、庭園。

石を敷きつめた日本式の庭園、その中央に立つ男が一人。

男が片手に持つ木刀は黒檀の、重量を増した物だ。

常人ならば両手で振って尚よろめく重さのそれを片手で、

且つ屋敷内に届く程の風切りを起こす男の腕力は尋常ではない。

木刀を振るう度に、朝陽に晒した上半身から汗が散り、雪を思わせる白髪が揺れる。


鋭い、刀のような雰囲気を纏う男の名は、鹿羽白羅(しかばねはくら)

鹿羽家の現当主であり、激動の時代から家を守り抜いた伝説多き男である。

白羅は、齢70にして老いてなお盛んを体現するかの如く木刀を振るう。

芯の通った筋骨隆々な体躯は現役であった頃と遜色ない物である。




白羅は、日々の日課である両手と片手の素振りを終え、腰に下げたタオルで汗を拭う。


「ふー・・・ん?何や・・・?」


息を整えていると、慌ただしく廊下を踏みしめる音が近付いて来る。

屋敷にいる若衆が自分を呼びに来たのかと思っていたが、


「こらあジジイ!朝から湯船に熱湯張るなってなんべんも言うとるやろ!」


廊下の角から姿を見せたのは白羅の孫、銀二だ。

先程まで風呂を浴びていたのか、濡れた灰髪を拭きもせず肌も赤く染まっている。


「朝からキャンキャン(やかま)しいのう銀二

儂が入ろう思て湯張るのに文句でもあるんかい」


「大有りや!冬でもないこの蒸し暑い朝に水浴びようとして頭からクソ熱い湯浴びる身になれや!

大体ジジイの湯は熱すぎて誰も入れへんやろが!」


「熱いのが好みやからなぁ。それに、確かめもせず入ろうとしたお前も悪いやろ」


暫く睨み合っていた両者だが、銀二が、まぁええわ、と会話を切って流した。

そのまま庭園に踏み入ると、熱湯を浴びた体を冷ますため散策を始めた。


「今日もまた鍛錬かいな。ようやるわ」


少しして、手近な岩に座り込んだ銀二は白羅に視線を移す。

汗ばんだ老体の筋肉質な肉体には数多の切創と銃創が残っている。

戦後の緩やかな衰退から白羅の尽力により持ち直した鹿羽家は、白羅の意向により自警団として機能する事で府熊の治安維持に努めてきた。

自分の理想を成すために、半世紀以上常に退くことなく戦ってきた白羅の身体を見れば、

(はがね)や龍などの二つ名が付く理由も自ずと納得できる。


「まあ、こればっかりは十代からの習慣やからな。どや、お前もやらんか?」


「やらんよ」


・・・こいつは。


「朝から疲れる事はしとうないからな」


即座に返される拒否の言葉、銀二はいつも通りのにやけ顔だ。

白羅は内心で大きく憤慨する。

己の孫、銀二はどうにも鍛錬や努力を厭う良くない性がある。

白羅も何かにつけては銀二に武道を勧めるのだが、孫は乗り気でないようだ。

確かに、現在の鹿羽家は武家であった頃の武道奨励は薄れているが、だからと言って露骨に孫が武道から離れていくのは白羅としても看過できる問題ではない。


・・・ええもん(素質)持っとるんやけどなぁ・・・。


武道という面で見れば、銀二の持つ才覚は歴代随一であり、それこそ自分でさえも抜かれ得る、と白羅は考えている。それだけ光る物を持ちながら、銀二はあれこれと理由を付けては断ってばかり。


生来の押しの強さで意見を通してきた白羅は、もやもやとした感情を抱えている訳で。

端的に言えば、そろそろストレスが爆発しそうであった。


「本気になれば、どうや?」


そうだ。

必要に迫られれば是が非でも武道を覚えたくなるのではないだろうか。

多少、身の危険を感じればその気になるに違いない。


「ん?今なんてーー」


やはり、祖父として、武人として、己が喝を入れるべきであった。

それをせずして、孫の武道離れを謗ろうなどと言語道断。

(おもむろ)に肩を回し、呆けた顔の孫に向きを直す。

距離、凡そ30m弱。


「銀二ィ・・・!」


「あ、なんかマズい予感が!」


銀二は動きを体に入れようとするが、もう遅い。


「歯ァ食いしばれやぁッ!!」


白羅は、己の手に持つ木刀を銀二目掛けて投げ付けた。



⚫︎



「うげっ!?」


白羅が自分に向けて、練習用の木刀を容赦無く投げ抜いたのを、銀二は見ていた。


・・・殺す気かクソジジイッ・・・!?


己に迫る木刀は弾丸の如く速度を落とさず進む。

全盛期には、ヒグマを殴り飛ばした、などの伝説を持つ祖父だ。

当然、飛来する木刀は、致命となり得る物である事は疑いようもない。


取るべき行動は、回避一択。

しかし、銀二は割と深く岩に腰を下ろしていて、且つ、白羅の凶行に対し後手に回ってしまった。

木刀の速度を考えると、回避行動を遂げるより先に激突する方が早い。


・・・避けられん!せやったら・・・!


防いだ所でただでは済まない。ならば、迎え撃つしかない。

クソジジイの思惑に乗せられているようで癪だが、覚悟を決める。

だが、どう対処する。

これが己の友人である万年ジャージ少女や猫耳問題児なら、拳で叩き落とす事も可能なのだろうが、自分には無理だ。


・・・これしか無いか!


己の手に握る物に流し目を向ける。

庭園を散策している間に拾った、丸みのある小石だ。

大きさとしては少々物足りないが、文句を言う時間は無い。

右目を閉じ、左の眼を大きく開く。

今から行うのは自身の‘得意芸’。必要なのは観察だ。

集中を限界まで高める。

見据えるのは己に迫る黒檀の木刀。風を裂く音が銀二の耳に届いている。


・・・捉えた!


「うおりゃあ!!」


左腕をしならせて丸石を投擲する。

白羅の木刀投擲からこの間、約1秒半。


脳味噌まで筋肉で出来ているであろう祖父が、こうやって銀二に恐るべき試練を課す事は幼少期から頻繁にあった。

怪我の功名(そのおかげ)、とは少し違うか。

白羅の無茶振りが今の銀二の反応力を培った。培ってしまった。


銀二の投げた小石は、真っ直ぐに木刀の軌道上に乗り、正確に木刀の先端部に激突した。

しかし、速度、重量共に勝る木刀は小石を物ともせず撃ち落とした。

それでも、


ーーー軸がズレた!


小石で木刀は落とせない、そんな事は分かっている。

ぶつける事にこそ意味は有った。

小石が先端部にぶつかった衝撃が、銀二に向いていた軌道に誤差を生じさせたのだ。


「うおぉっ!?」


軌道が若干変化した木刀は、銀二の肩を僅かに掠め、庭園の木にぶつかり落ちた。

木刀を一瞥して銀二は息を吐いた。

恐らくだが、手を抜いて投げたに違いない。

本気を出せば、木刀が木に刺さる事もあり得た筈。

手心を加えようという良心はあるのだろうが、当たればどの道死んでいた。

何か一つでも悪態をつかないと気が済まない。


「このっクソジジイ!何さらす、はぁっ!?」


首を回して白羅の姿を追うと、既に、己の目前で拳を振り上げていた。

おかしい。

あれだけ距離があったというのに。

ほんの4秒足らずで詰めたのか、孫を殴るために?


「祖父の愛情パンチ!!」


「アホ抜かせぇっ!!」


迫る拳骨を、半ば岩を蹴り飛ばす形で転がり回避する。

回避に間を置かず、岩を砕き割る轟音が鳴り響いた。

銀二は少し考えたが、愛情という単語と目前の凶行は一向に繋がらない。

やはり、おかしい。

言わずもがな、祖父の頭が。


「はぁ、はぁ!ジジイ、これが孫にする事か!?」


「はっはっは、やるやないか銀二。褒めたるわ」


「こ、このクソジジイ、反省もせんと高笑いかっ!もう許さんで!」


狙いを付けて投げた石が鼻頭に直撃した事で白羅が逆ギレ、そのまま石を投げ交わす事、数十秒。

両者、自身の足下に石が無くなった事で休戦とした。


「のお、銀二。府熊には危険な輩もよう出る、知らん訳無いやろ」


あご髭を撫で上げながら白羅は問う。

銀二は問いに、せやな、と返しながら手で顔を扇ぐ。

地元に強い睨みを利かせる白羅の存在を以ってしても、府熊の危険度は高いと言わざるを得ない。

いくら抑止力があろうと止まらない。

誰が言ったか‘馬鹿騒ぎの土地’・‘酔っ払いの国’。

府熊とは、そう言う場所だ。


「芸は身につく言うやろ。いざという時の為に鍛えとって損は無いで?」


「ジジイと(ちご)うて穏やかに生きとるから必要無いわな、うん」


「こんの馬鹿孫!言うに事欠いて儂の非難とはええ度胸やのう!」


白羅の不意打ち気味に投げた石が銀二の顔を捉え、再び石を投げ合う。

投げ合いは、屋敷から呼びに来た者が仲裁に入るまで続いた。



⚪︎



屋敷の大座敷には、ほぼ全ての人間が集結していた。

その多くが精悍で粗野な雰囲気を持った男達だが、今はしっかりと机に向かい正座をしている。

机には、板前経験のある若衆が調理した和食が一杯に並ぶ。


鹿羽家の食事は、朝食のみ全員で取る決まりがあった。

香しい匂いが立ち上るが、まだ手は付けない。

一同の視線は上座に向いている。

不動尊の描かれた掛け軸と日本刀が飾るその前に、

黒の着物に灰の袴を着た当主白羅、その隣に私服の銀二が居る。


「おう、おはようさん、お前ら」


「おはようございます、(かしら)!」


一同の声は、食卓の全てを震わせた。

怒号にも似たあまりの声量に、庭先に止まっていた鳥は一斉に逃げ出し、麗かな朝の空気は吹き飛んでしまった。


気合が入っているのは咎めないが、少々うるさい。

鹿羽の屋敷で面倒を見ている者達は、白羅に心酔している者ばかりだ。

括りに入れるとするならば、全員が鹿羽家の道場門下生な訳で。

その殆どは血気盛んで単純な者達である。


「銀二、いつもの頼むわ」


「あいよ」


白羅の言葉に応じて、一同に向けて言葉を放つ。


「腹減っとる?」

「押忍!!」

「便所済ませた?」

「押忍!!」

「手洗いうがいは?」

「バッチリです!!」


凄まじい声量に耳を塞ぎたいが、こんな物は慣れだ。

ほな、と一声を入れて銀二は顔の前で柏手(かしわで)を打つ。

そして、


「いただきまーす」

「頂きます!」


最後は、隣の白羅も合わせて叫び、頭を下げる。

鹿羽家の朝食の始まりである。


・・・毎朝これやる必要あるんか?


銀二は思うが、すぐに疑問を放棄した。

朝食の礼はずっと銀二が任されている物で、日常の一部と化している。

屋敷の人間の習慣にもなっているので、今更辞めるのも憚られるのだ。

いや、そもそも、この礼をしようと言い出したのは自分では無かったか?


一度、自分の過去を思い出そうとすると気にはなるが、家の過保護な連中が何かと懐かしんだりするので、恥ずかしくて口には出さなかった。


取り留めない思考も程々に。

左手に黒塗り箸を持った銀二は、手始めに胡瓜の酢の物をつつきだした。



⚪︎



食事の終わり際、汁物の残りを飲み干した白羅が、銀二に喋りかけた。


「忘れとったわ銀二。今、府熊で他所の奴がクスリばら撒いとる。気ィ付けとけや」


それは、銀二に対しての言葉というより、

場の全員に呼びかける声量であったように思う。

実際、先程までの朝食の喧騒がピタリと止まっている。


「・・・なんやと?どっから出とるんや?」


まさか、ヤクザだろうか。

この府熊でヤクザが幅を利かしていたのは昔の事だと思っていたが。


「まだ掴めとらんわ。こないだ偶々売人に話し掛けられて分かった事やからな。その売人締め上げたんやが、何の事情も知らんチンピラやった。素性の知らん奴に売って貰いました、ってなぁ」


血の気の多い身内に締め上げられたチンピラには同情するが、まあ、自業自得だろう。


「儂らの地元で好き勝手やらかす身の程知らずや。根元からぶち抜いたらんとな」


白羅は、己の気概を言葉にして拳に力が入る。

同時に、その手に持っていた赤塗り箸が白羅の握力に耐え切れる筈も無く粉砕された。


「あ」


「あーあ、物は大事にせえや」


赤箸の破片を拾いながら白羅を睨むと、少しバツが悪そうに肩をすくめた。

相変わらず祖父は不器用だ。

しかし、だからこそ安心する。


「まぁ、ジジイに目付けられたんや、この件も早くに解決するやろ」


不器用な祖父が、関わった問題をそのままにする事はない。


鹿羽白羅。

今は、かの‘正義の味方’にその座を譲ったが、

全盛期には‘府熊の守護神’と呼ばれていた男である。


銀二の言葉を受けて、白羅は哄笑した。


「ハッハッハ!分かっとるやないか銀二!

儂らを舐めたらどうなるか、骨まで叩きこまんとな!

おうっ!お前らも分かっとるな!」


「目に物見せてやりましょうや、頭!」


呼び掛けに、男衆の一人が反応し、続いて全員が口々に気合の言葉を吐き出し始めた。

やかましいなぁ、と銀二は耳に指を入れるが、顔は笑みだ。

銀二はこの喧騒が嫌いでは無い。

こうした喧騒も鹿羽家のありふれた光景の一つだ。

とは言え、あまりに騒がしいと場を鎮める者が必要になる。

そろそろか、と一同に向けて口を出そうとした銀二だが、自身より先に動いている人物がいた。

家の男衆の中でも、比較的落ち着きのあるリーダー的存在。

黒田比呂彦である。


「騒ぐんじゃねえ、てめえら。気合を出す場は此処でじゃねえだろ」


黒田の一喝で一同は見事に姿勢を正した。

一喝で統制が取れる辺り、黒田も他の連中も流石だ、と銀二は内心で賞賛を送る。

場が落ち着いた事を確認した黒田は、白羅に目配せをした。


「よし、気合は十分やな。各自、町の様子には気配っとけ。銀二、お前もな」


「はいよ」


一同の返事を聞いた白羅は、大きく柏手を打つ。


「ほな、ごちそうさん!」





長くなりそうなので一旦区切ります。




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