正義の味方?
初めまして、外道男です
ハーメルンにて投稿していました
遅筆なので期待はしないでください
●
鏡の前に立ち、私は身だしなみを整える
髭は左右に切り揃えている。生まれながらに立ち癖のある頭髪は、誰が見ても
怒髪天と称する程に空を衝いている。・・・おっと、埃が着いていた。
特注のスーツの紺色に真っ赤なネクタイが映える。
これで完璧。準備を終えて玄関に立つ。
出る前に息子、真事に一声掛けておく。
「それでは、行ってくる」
「あ、親父、晩飯スパゲティにする予定だけど、味何が良い?」
ふむ、スパゲティか。
「・・ミートソースで頼む」
まあ、真事の作る料理はどんな味でも旨いが。声に出さぬ笑みを作る。
了解、と返事をもらい今度こそ家を出た。
●
PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi
お昼時の休憩を告げる音が鳴り響く。
長く書類と向き合っていた者達は各自休憩を取り始める。
弁当をつつくもの、同僚と談笑するもの、未だ書類に向かうもの等様々だ。
私が眉間を揉み解していると部下の高木が湯呑みを二つ持って来た。
「課長、もう目がお疲れっすか?あ、緑茶で良いっすかね」
湯呑みを受け取り一口飲む。
「馬鹿を言うな、これしきで疲れるものか。私はまだ若いよ」
「49はさすがに若くないっすよ」
「やかましいわ」
失礼な奴め。カラカラと笑うその額にデコピンをかます。
額を押さえて悶絶しているが無視する。
高木は数秒痛みに悶えた後立ち直った。
「っと、そういえば、こないだ良い店見つけたんすよ。今晩とかにいかないっすか?」
と言い、高木が手で酌の形を作る。少々考え、しかし
「・・・だめだ。今晩は息子と食べるのでな」
家に帰れば真事とスパゲティが待っている。当然、食べたいのである。
長い間、二人で暮らし、家の事も任せていたことで真事の家庭スキルは大幅に
上昇している。特に料理の腕は飛び抜けて上達し、今なら何を作っても
私の胃袋を掴んで離さない。
だめだったかー、といつの間にか周囲に来ていた私の課のメンバーが落胆の声を出す。
「まさかお前達、私一人に奢ってもらおうだなんて思っちゃあいねえだろうな」
「・・・・・」
皆が口を真横に結ぶ。
まさかの図星かよ。流石に分かり易過ぎやしないだろうか。
ばれたか、と小さく口にした高木にはデコピンをプレゼントしてやった。
「息子さんって言うと・・真事君ですっけ。良い子っすよねえ」
と高木。うむ、そうであろうそうであろう。
「こないだスーパーで見かけましたよ。卵特売セールで血眼になってましたね。
おばちゃん達に吹き飛ばされてましたけど・・」
と伊藤。むう、セール時の御婦人方は歴戦の強者に劣らぬ。真事には荷が重かったか。
「歩道橋でおばあさん背負ってましたよ。困っている人を放って置けないのは
課長譲りですかね」
と和田。流石だ真事。私は感激している。
「うむ、教育の賜であるな。私の若い頃に瓜二つであるわ」
「・・・・・・」
何故か全員黙ってしまった。ややあって、
「それは無いっすよ~」
と、手を顔の前で振る高木。他の奴等も苦笑いを浮かべている。解せぬ。
とりあえず高木にデコピンを叩き込んでおくとする。
●
ドアノブを捻り屋上に入る。金網のフェンス近く設置されたベンチに座り一息吐く。
晴天の下、燦燦と降り注ぐ日光は植木鉢の花々にかかっている。花は伊藤が心の
癒しにと置いていったものだ。現在では屋上中央は小さなガーデンへと変貌している。
晴れの日は、こうして屋上で寛ぐのが至福の時間だ。
ここから屋上の花々や街の景色を眺めれば私の心も和むというものだ。
・・・あっ、誰だ煙草の吸い殻ポイ捨てしやがった野郎は。
「まったくっ、マナーがなってねえな。」
吸い殻を灰皿に突っ込んだ時であった。
WARNING!WARNING!BOOOOM!BOOOOM!
私の“正義センサー”が何か問題事の発生を捉えた。
――――何事だ?如何なる問題が発生した!?
“センサー”が反応する時は、決まって人が助けを求めた時か、悪事を働いた者がいる時だ。
急ぎ感覚を研ぎ澄まし、街で何が起こっているかを把握する。
――――銀行強盗・・だと・・!
よくもまあ平穏を脅かす者共が現れるものだ。自然とこめかみに青筋が立つ。
―――落ち着け、冷静になれ私。
ともあれ、見過ごす事は出来んな。準備運動をしておくとしよう。
●
「あの、高木さん、課長は何処に居るか分かりますか」
「課長っすか、多分屋上でまったりしてんじゃないっすかね」
「ありがとうございます」
鈴木進は課のリーダー、正生善鬼を探していた。
役所で働き始めて2年目の、まだ経験の浅い鈴木は分からないことを課長に質問したかった。
『おう鈴木、いいか、分からん事があったら私を頼れ。あんまり些細な事で頼って
来るなよ、そんときゃデコピンだ。』
初対面の時、長身で強面の正生に竦み上がっていた彼に正生が掛けた言葉である。
話してみると、非常に気さくで面倒見がよく、周囲の人望も厚い人だとわかった。
屋上に出た鈴木が見たのは紺色のスーツの後姿であった。
金網のフェンスより頭一つ分高い巨躯、後ろから見ても目立っている逆立ったクセっ毛、
間違いなく正生である。そうして話し掛けようとして、
「あ、課ちょ」
「ぬぅるああああああ!!」
「・・・・え?」
何だ今のは。若干の煙が立った屋上で鈴木がそう思考したのも当然と言えるだろう。
彼は自身の目を疑った。
目の前にいた課長が強烈なシャウトと共に跳んだ、否、飛んだのだ。
それは鳥の飛翔のように見事な軌跡を引いた。
しばらく呆然として澄んだ空を鈴木は眺めていた。
そして絶叫した。
●
「む、誰か居たのか」
今しがた誰かに話し掛けられた気もするが構うまい。
風圧で髪がはためく。早くマスクを着用せねば。
・・・しかしこのマスク、自作の品ながらなんとも無骨。
やや触角にも似た頭部の突起などが昔観ていた『マスクド飛蝗』を想起させる。
「3km先、車で移動中か。まだ、警察は気付いてないようだなあ。
・・・堂々と正面から行くか。」
マスク装着完了。目標まで残り5カウント。
5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0。
「ぬうぅるああああ!!」
突入!!!
●
作戦は完璧のはずであった。
始まりは友人の傍迷惑な一言であった。
―そうだ、銀行強盗をしよう―
日常生活で口に出せば嘲りと笑いに流されるようなくだらぬ戯言であっただろう。
しかし、俺を含めその夜に集まったメンバーは、深夜の変に勢いのついたテンションか、
酒を飲み交わし心地良く舌も回りだした反動か、はたまた其の両方かは定かではないが、
口火を切った友人をはじめ俺達は銀行強盗という言葉の響きに
さながら玩具を与えられた子どもの様に目を輝かせたのだ。
暇を持て余していた俺達は一度火が点いただけで完全にその気になった。
銀行強盗をするからには当然リターン、大金を確実に手に入れなければならない。
そこで強盗の作戦参謀には俺が指名された。
妥当な判断だろう。いつものメンバーでつるむ時は俺が頭脳役であったし、
俺は他のメンバーに比べて身体能力はからきしだった。適材適所というヤツだ。
生来の凝り性であった俺は下準備を徹底した。
日取り、逃走の足、逃走経路まで調べてメンバーと話し合った。
拳銃を早い段階で入手できたのは嬉しい誤算であった。
念を入れて整備した上で試射もしたので暴発の心配も無いだろう。
そして当日、上手くいった。
目指したのは警察に捉えられない電撃戦。
警察に囲まれて銀行内に篭城など御免だ。
顔は縁日のお面で隠し、先手を打って監視カメラを破壊した。
銀行を出たとき警察が居ないことを確認し内心でガッツポーズを取った。
他のメンバーも緊張していたのだろう、
言い出しっぺのあいつ以外は車に乗り込むと深い息を吐いた。
少々の計算違いは盗み出した金の量だ。欲を言えば多めに欲しかった。
バッグをもっと大きめにしておくべきだったか、おそらく五千万前後だろう。
これでは山分けしても一人当たり一千万程度か。
いや、そもそも悪銭なのだ。
日々に燻っていたろくでなしには過ぎた金と言える。
ともかく、歓喜の声に包まれる車の中で、
人生を賭けた一種のギャンブルに勝利した俺は口の端を僅かに上げる。
その時だった。それは唐突に訪れた。
車の助手席に座る俺は太陽に影が落ちたのを視認する。
鳥かと思い凝視していると影は形を大きくし真っ直ぐにこちらに落ちてくる。
この異変には運転していた仲間も気付いた。
しかし、更なる異常が待っていた。
それは鳥と呼ぶにはあまりにも大きく、晴れた空よりも青い紺を纏っていた。
どこかのコミックで見た前傾タックルの構えを取ったそれは、
人であった。
「―――ぬうぅぅるあぁぁああああ!!」
瞬時、車が横転した。
●
「ぬん、吾輩が目を光らせるこの街で、
銀行強盗などという悪事を働こうとは笑止千万、一体全体どういう了見であるか」
「な、何だ手前は!?」
「いいかぁ、耳かっぽじってよく聞けぇい。
吾輩は、通りすがりの、正義の味方だ!」
「・・・・・・・・・・・・何だって?」
「・・・すまん、嘘を吐いた。吾輩は別に通りすがりではない。」
「いや、そこじゃねえよ!」
「ともかく、少しばかり話をしようではないか。
貴様ら、自首する気はないか?心を入れ替えて、だ。
今ならまだ人生リスタート出来るが、どうする?」
「ふ、ふざけんな!!此処まで来て諦められるわけ、ねえだろうが!!」
「な、何で銃が効かねんだよ!?」
「ぬぅん・・・街の平和を護るヒーローである吾輩に、
たかだか銃弾ごとき効くわきゃねえだろう!」
「あ、ありえねえだろ!?」
「チッチッチッ、正義の味方を舐めてもらっては困る」
「・・マジであんた何者だよ」
「おっと失敬、忘れる所であった、名乗りがまだであったなあ、良ぉく聞いておれい。
吾輩は、正義の使者、平和の守護神!ガーディアン・ジャスティス!
である。さぁ、吾輩が優しい内に自首を」
「う、撃てえ!」
「ぬあ!!・・聞く耳持たず、か。イイだろう!
貴様らに、この吾輩直々に、正義・平和・仁義・道徳の何たるか!
その身に刻んでくれるわぁ!!ぬうぅるあああああ!!!」
「うわあああ!」
~~~~~
監視カメラの映像はここで途切れている。
●
現場に到着した警察官が発見したのは、
荒縄で簀巻きにされた銀行強盗犯五人組と横転した車両、
バッグに詰められた現金約五千万円、
そして現場から飛び去る紺色の影であった。
●
「・・・はあ」
昼の休憩時間も終わり間近。
課内で鈴木進は緑茶を啜り息を吐いた。吐息に含まれる感情は困惑のみ。
先刻、自分の上司である正生が叫びながら空へ飛び上がるという鮮烈な光景を目の当たりに
した彼は、誰も居ない屋上でひとしきり驚きの声を上げた後、訳も分からず仕事場に戻って
来たのだ。
「おう?ススム、どした何か悩みか」
そんな彼の様子を気にした同課の和田義治が声を掛ける。
「え!?・・ええっとですね・・・」
「・・・・・・うん?」
話し掛けられ鈴木は体全体が跳ね上がったような錯覚に陥る。
答えるべきは先程目撃した屋上での一件だろう。
しかし、此処で鈴木が危惧したのは当然ながら信じてもらえるか否かであった。
課長が空に飛んで行った、
という言を信じる方より世迷言と切り捨てられる方の可能性が高いだろう。
もし、下手に痛い人認定などされようものならメンタル面の弱い鈴木には二度と
職場に顔を出せなくなるという確信があった。
だが、見なかった事には出来ないし、なにより嘘も吐きたくない。
鈴木は隠し事の出来ない男であった。
思考をまとめ直し、髭を撫でつけている和田に向きを正す。
覚悟は決めた。そして言葉を放つ。
「あのですね、課長が、飛んでったんです、その・・・空を」
●
自分の発言に鈴木は、課の全員の視線が自分に集中したことを肌で感じた。
―――これは、不味い・・・・・・!
まさか空気が凍りつくとは思っていなかった彼は冷や汗を流す。
鈴木は最悪の未来を想像し思考が停止する。
それを他所に課の全員は示し合わせたかのように視線を交わし、そして、
「あ~、なるほど」
全員が同じ台詞を発した。
「・・・・・・・・・・え?」
思考停止から立ち直った鈴木は皆の取った反応に唖然とする。
自分の理解を超えた出来事について他の皆が納得している今の状況は、
彼を二度目の困惑に誘うには十分だった。
・・・いや、そもそもさっきの説明だけでどうして理解できるんだ?
「あ、あの、どういう事なんですか?」
皆の知る真実を問う。
「そういやお前さん、こっち来て二月も経ってないか。
ならアレを知らんのも仕方ないよな」
和田の返答に鈴木は更に疑問を重ねる。
「アレというのは・・・?」
「私の時も君みたいにあわてたなぁ」
「いやあ、自分も初めて見たときはマジにビビッたっすよ」
「・・ははッ、ヘイジはな、慌て過ぎて階段から転げ落ちてな、
でっけえタンコブこさえてんだ。お前が一番傑作だったぜヘイジ」
「ちょっ、それは蒸し返さない約束っすよ!?今でも恥ずいんすから!」
まるで学生時代の思い出を語り合うかのようにその場の皆は言葉を交わす。
話の流れに思考が追いつかず置いてけぼりにされた鈴木が不意に思い出したのは
奇しくも課長、正生の言葉であった。
それは彼が現在の課に異動してから直ぐの事。
正生が別件と伝え出て行く事があったので、
気になった鈴木はその訳を本人に尋ねたのだった。
すると正生は浅く目を細めて鈴木の肩に手を置き言った。
『ふふ、人助けだ。なあ鈴木、徳のある生き方しろよ。
そうだな、さしづめ・・一日一善ってな。ファイト』
今思うとアレも何か関係があったのだろうか。
鈴木の意識が場を離れている内に思い出話にも区切りがついたのか、
和田が彼に向き直る。
「そうさな、お前さんが見た事を説明するとだな・・」
「はい」
頷いた鈴木に初老の男は答える。
「課長は正義の味方なんだよ。時々、別件で居なかったろ?あれはそういうことだ」
鈴木の思考は再び停止した。
「・・・・・へ?・・今、正義の味方って、え??」
飛び出して来たのはフィクションの中でしか聞き慣れぬような荒唐無稽な言葉であった。
しかし、その荒唐無稽な言葉は意外なほど抵抗も無く鈴木の心中にはまった。
先程に思い出した課長の言葉もパズルのピースの如く噛み合っているようにも思う。
更に話は続く。
「ヒーロー、とも言えるか?お前さん、昔に特撮とか見てなかったか。
ほら、あれだ、『マスクド飛蝗』とか『ウルトラ団』とかそんなん」
「ああ、俺の世代はもう昭和飛蝗が終わってたっすねー。あ、それとも鈴木君はアニメ派っすか、
『怒雷門』は今も放送してるし、『奇行戦士ランダム』は面白かったっすね」
「高木君、それ正義の味方関係無い奴じゃない?」
「でだススム、課長はまあ、あんな性格だろう?
人が困っているのを見過ごせない。なんでか知らんが人が困ってたりすると分かるんだそうだ。
正義の味方ってのは的を射てるだろ」
鈴木はやっと一連の出来事を理解した。
課長が不在だった事も、空を飛んでいった事も、全ては人助けに行っていた、という訳だ。
理解できても納得する事は難しい。しかし、
・・・課長らしいや。
課の中では最も課長と付き合いの短い鈴木でもそう思ってしまうぐらい
人助けをする正生の姿は違和感が無い。それだけ周囲の人間は正生の人柄を尊敬している。
「いっつも凄い声出しながら飛んでくっすよね」
「市役所の隠し名物だもんね」
―――声出してる時点で隠す気ないんじゃ・・・
そもそも去年見かけなかったのが不思議なくらいである。
アレが役所内で周知の事実である事に鈴木は驚くが、
一人で抱え込んで悩む必要が無かったと分かり安堵の息を零す。
そんな様子を見て和田は小さく笑い
自らの肩を回しながら課の全員に告げる。
「よし、課長もちっとばかし遅れるだろうし、早めに業務再開すっか。
それでいいか、お前等?」
各自が了承の言葉を返した。
●
PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi
鳴り響いたアラームは午後の業務開始の合図だ。
しかし、この場の全ての人員は数分前から仕事を再開したので既に忙しなく動いていた。
アラームから数分が経った後、課長、正生が戻ってきた。
「すまんな皆、少々遅れた。トラブル等は起こってねえか?」
「おう、大丈夫だぜ課長」
「ええ!課長が抜けてても大して変わら・・あいたあっす!!」
ふざけて発言しようとした高木にデコピンがぶち込まれ、場を笑いが包む。
仕事の手は停滞させないが、和気藹々とした雰囲気は崩さないのがこの課の日常である。
「あらら?課長、どうしたんすかこれ?スーツが穴ぼこだらけっすけど」
デコピンから復活した高木が発見したのは、正生の紺色のスーツにいくつか開いた穴だ。
正生は紺のスーツを脱ぎ折りたたみながら椅子に座る。
「ぬぅ、僅かばかり被弾してな、このスーツも駄目にしてしまったか・・。
さあて皆!今日はそれほどやる事無いのでパパッと仕事終わらせて帰るかあ!」
「はい!」
正生の呼び掛けに全員が頷きを作る。
同じく返事をした鈴木は課長の言葉を咀嚼し、
・・・・あれ?被弾って何だ?ああ、うん。聞かなくて良いよな、きっと。
直ぐに仕事に思考を切り替えた。知らないほうが良い事もある。
今日一日で随分と成長した鈴木は、そう断じた。
正生はどこかすっきりとしたような顔つきだった。
●
業務終了後、課の皆に別れを告げ私は帰路についていた。
本日は銀行強盗犯に正義の良さを伝え非常に満足している。
ただ、銃弾は見事にスーツを貫いてしまった、
こうして特注のスーツ百十八号はその生涯を終えた、合掌。
そういえば、鈴木が私の人助けの事を知ったらしい。
飛ぶ瞬間を目撃したそうだ、確かに誰かが話し掛けてきたときに飛んだ記憶がある。
別れ際、鈴木は神妙な面持ちで近づいて来たかと思えば、
『あ、あの、・・・おっ応援してます!!』
と言ってきた。
あいつは少々硬いところがあるが紛れも無い本心から出た言葉だろう。
・・・思い返せば、誰かの後押しを言葉で受けたのは久しぶりだな。
鈴木には感謝せねばなるまい。
と、思考している内に家の前に来ていた。真事は帰っているようだ。
「ただいま」
「おかえりー」
返事は台所から聞こえてきた。
香しい晩ご飯の匂いが漂ってきている。
耐え切れなくなった私はテーブルに直行する。
「My dear child 真事ぉ、父さんは腹が減りました。さあ飯だ飯!
スパゲティはぁ、ミートソースはどこだあ?!」
「ストップだ親父、落ち着こうか。先に洗面所で手洗いうがいだろ?」
真事に諌められ席に着こうとするのを中断する。
むう、いかんな。我が子の料理を前にして昂ってしまったか。父さん反省。
一旦洗面所で手洗いうがいを済ませリビングに戻る。
テレビが夕方のニュース番組を映している。
《―――本日昼頃、市内の銀行に強盗が入っていたことが分かりました。事件が起こったのは―――》
「物騒だな」
ニュースを目で追っていた真事はそう言葉を零す。
《―――犯行グループは市内を逃走中に事故を起こした所を取り押さえられたとの事です。―――》
「・・平和が一番、だね」
続く報道に安堵交じりの声を出す真事に同意する。
「うむ。さ、飯を食おう」
目の前に盛られたスパゲティの芳香に親子揃って顔を緩ませる。
私も真事も良く食べるほうなので量は他所に比べてかなり多い筈だ。
少し粉チーズを振り掛けて準備は整った。顔の前に手を合わす。
全ての食材と平和に、そして我が家のコック真事に感謝を、さて、
「「いただきます」」
と言うわけで、プロローグのような物でした
軽く説明タイム
正生 善鬼 まさき よしき
市役所勤務 49歳 身長210cm
悪事を感じ取ると常識の壁を破って参上する
強力若本