俺は考えすぎる葦である
「魚ちゃんの前でかっこつけたかったんす・・・・・」
「まぁ気持ちはわからんでもないな」
「頼れる男を演じたかったんす・・・・・」
「颯爽とレシートを奪っていくお前は輝いていたとは思うな」
「お金・・・・無かったんす」
「全て台無しっ!!なんなの!?お前のその無駄なアピの為に
こそこそとお金を渡す俺!マジ優しすぎる!!甘やかしすぎてる!?」
そんなやりとりの間に、無言のフォローで残りの連中を引きつけ、
店を出るやいなや、
「ガム食べない?」
とガムを薦めてきたと思うと、ガムと一緒に野口さんを2人程さりげなく忍びこませ
受け取らず負えないような雰囲気をやんわりと作り出す葉向さんの紳士っぷり
津崎の残念さを改めて実感し、葉向さんへの頭の上がらなさが、さらに上昇
する一幕だった。
はてさて、所変わって
近場の河川敷まで歩いてきていた。
ここを通る人間なんてのは犬の散歩、もしくは健康増進の為にジョギングに
勤しんでいる人くらいなものだろう。
日が沈むまでにはまた時間的に早く、近隣学校の下校ピークには遅いくらい
そんな微妙な時間になっていたのだ。
そんな中、男女8名の年齢がばらばらな上に一人シスターがいる
そのような集団はやけに目立つんじゃないかと、辺りを見回してみたが、
さほど視線は感じない。
どうやら皆生きるのに必死なようだ。
ここに来るまでに色々、もう物凄く頭を使い色々と考えていた。
気づいたら河川敷についていたと言っても過言ではない。
道中で覚えいるのは、ほぼ”斎場彗の顔”くらいである。
何を考えていたのか。
決まっている。
この集団のメンバーそれぞれにあてはまる能力についてだ。
【指から火を出せる】
【水を出せる】
【下から上に風を起こせる】
【髪の毛から砂が出る】
【カバンから砂が出る】
【頭から光を放てる】
【墨汁並みに真っ黒になる】
内、2つはもう判明していた。
目の前で火を出して見せた、津崎健次郎。
津崎の話から水を出せると言っていた、魚仁美。
あ、3つだった。
俺の冴えわたる第6感が告げているのだ。
風を起こせるのは山田先輩だと。
決して
名乗りがアレだった上、”魚、彗の両名がやたらチラチラと
山田先輩の進行方向を気にし、時折そのスカートを抑えるような仕草”を
行っていた。
決してそのような事で、断定した訳ではない。
正直最低です山田先輩。
さてさて、残るのは
【髪の毛から砂が出る】
【カバンから砂が出る】
【頭から光を放てる】
【墨汁並みに真っ黒になる】
の4つである。
はっきり言おう。
全くわからなかった。
斎場愁の存在が俺の消去法を邪魔する最大の壁なのだ。
彼を初めて見た瞬間、丸刈りの影響からか「あぁ、この子が光を放つやつか」
なんて事を考えていた。
しかし、その後の自己紹介ので双子の妹・彗の存在が出てきたのである。
砂関係の能力が2つある時点で、これは双子特有ではないか。
なんて疑問が浮かび上がり、俺の中の『丸刈りによる光放射説』は否決の道を
辿った。
だが、である。
だがしかしである。
その『双子は砂説』も歩いている内に瓦解していた。
というのも、愁は”カバンを持っていなかったのだ”
今から能力を俺に披露しくれるという話の中、能力的に必要不可欠である
カバンがないとはどういう事なのだろうか。
妹の彗の方はカバンを持っているが、まさか、彼女が【カバンから砂を出す】方
であり、愁の方が【髪から砂が出る】方なのだろうか。
否である。
津崎は今朝にこう言っていた。
(髪の毛ワシャワシャってやったら砂が出てくる人とか!)
と、
彼の素晴らしい丸刈りをどうやってワシャワシャするのだろうか
できるわけがないのだ。
どっちかというとゴシゴシだろう。
という事はやはり【頭から光が出る】方なのだろうか・・・・?
確かめてみればいいのではないか。
ようは、髪をワシャワシャすればいい。
髪を思いっきりワシャワシャしてみるのだ。
どうせなら彗の方をワシャワシャとやってみたいが、そんな事すると某漫画の
クマみたいな末路が待っているに違いない。
ならば、丸刈りの彼の頭をワシャワシャすればいい。
ワシャワシャする程髪の毛はないが、とりあえずワシャワシャすれば
全てが解決するそんな気がする。
よし、思ったが吉日である。
すかさず近寄りつつ、頭に手を伸ばそうと・・・・・・、
してやめた。
思いっきり妹・彗と目が合い、そこには一瞬の間が生まれていた。
いや君の頭をやろうとしたわけじゃないよ?兄貴の方だよ?
なんでそんな悲しそうな顔をするのかな?
やめてそんな目!山田先輩を見るような目で見ないで!?
どうやら深みにはまっていたらしい。
俺とした事が、色々と混乱していたようだ。
むりやり確かめようとするなんて、紳士として、人生の先輩として
あるまじき行為であった。
そう・・・・人間は考える葦なのだ。
考える事ができる素晴らしい生き物なのだ。
物理的ではなく、知的に解決するべきなのだ。
彗の方には、持っていたアメちゃんで許して貰う事として。
斎場兄妹の事は後で考える事にしたのだ。
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