水曜日 ~店員の目、汚れる目~
完璧なる拒否権を発動した俺は、何事も無くあの場から去り、帰宅した。
専業である母親が作る晩御飯を食べ、自室に戻り宿題を終わらせつつ、スマホを
適当にイジり、線でのやりとりが終わった後、床へとついた。
河川敷での事で、多少の興奮は当然の如くある。
津崎が「いや~あるんだね~不思議って」なんて言った事も今なら頷けるだろう。
だが、奴が彼らと共にある事を選んだように。
俺はこのいつもの生活を選んだ。
喰う、寝る、動く。
これだけでいいではないか。
うむ、
ビバ!!日常!!お帰り!俺!
津崎が朝からおかしい。
いや、いつもおかしいのだが今日は、挙動が不審である。
そんな彼の行動を見て、クラスも騒がしかった。
「津崎の奴大丈夫か?朝玄関前で会った時バラの花束持ってたぞ?」
と級友から声がかかり
「津崎君ね、さっきトイレで何かの発声練習?してたよ?」
と、女子から目撃情報を受け、
「津崎が英語の小テストで満点を取った。どうなっている?」
職員室に呼び出される。
「津崎が!」
「津崎が!!」
「津崎が!!!」
「津崎が!!!!」
もう津崎の話題で持ちきりだった。
主に俺の方へと。
なんだろうこいつら。
俺を津崎担当だと勘違いしているのだろうか。
やめてほしい。
奴は確かに友人の一人ではあるが、彼の全てを知っている訳ではなく、
彼の面倒を見ている訳でもない。
今朝クラスで会った時は、昨日の件もあって気まずい思いをした。
が、そんなのは俺の方だけだったらしく。
「おはよう!!なぁ~聞いてくれよ~!」
いつものようにこんな感じで五月蠅かったのだ。
まぁこいつのこういう所が、こいつのキャラらしいと言えばキャラらしい。
五月蠅い奴だが嫌われるタイプではないそんな奴なのだ。
五月蠅い事に定評があり、やや変わっている事に定評がある。
それをもってしても、奴の挙動は周りの目から見たらおかしかったのだろう。
部活に青春の汗を流しに行く級友を見送りつつ、さて今日も・・・・、
「なん・・・だと・・・」
身構えたのだが、津崎の奴は既に何処にもおらず、その衝撃からか、
つい条件反射でリアクションを取ってしまった。
いやいやこれが普通。
昨日が異常。
少しばかり俺も毒されている。
いかんいかん。
この学校には少なくない人数の帰宅部がいる。
やれバイトだの塾だのデートだの、それぞれが帰路につくこの時間は、
校舎から校門まで伸びる道に結構な人数が集中する。
その中には当然俺も含まれている。
スマホをいじりつつ、線でやりとりをしながら帰る。
ドンっと、誰かにぶつかった。
「あ、すいません」
と、ぶつかった相手に反射で謝る。
やりとりで夢中になってしまっていたようだ。
「いや、こっちこそごめんごめん」
見た事もない人だった。
「いや、校門にすげーのがいてさ。ビックリして二度見しちまってたわ」
と、そそくさと彼は行ってしまう。
校門前・・・?
何があるんだろうと、目を向けた。
なるほど、あれは二度見もしたくなるだろう。
この高校とは違う制服の女子高生がそこにいた。
平均以上の容姿は確かに目を引くものがある。
それだけで通行人に、二度見させるは恐らくできない。
なぜ二度見したのか、
その女子高生は”バラの花束”を引っ提げ、他校の校門中央に堂々と陣取って、
道行く人間を選別するかの様に見渡しているからだ。
津崎に呪いの呪文をかけたくなる。
あいつは知っていたのだ。
こいつが来るのを知っていたのだ。
そこに立っていたのは紛れもなく、魚仁美だった。
「やっときたわね!!待ってたわ!!」
「ひとちがいっすわー」
華麗にスルー
「ま・って・た・わ!」
やめろ腕を離せ。
言うとおりにするから離すんだ!
とりあえずここから離れよう!わかった!話し合おう離して離れよう
周囲の視線を物凄く感じる。その目には好奇心しか宿ってるように見えない。
何せ目の前にいるのは他校の女子。しかもバラの花束付き。
なんだろうやめてくれないだろうか。
「お前には羞恥心というものがないの?普通違う高校の門で我がもの顔で
ど真ん中に立つのすげーよ!」
「あのくらい全然大した事ないじゃない、褒め言葉になってないわよ」
褒めたつもりはないし、褒め言葉ですらない。
だめだこいつ。
やっぱりこいつ俺はダメである。
だって日本語通じないもの。ある種の電波的な者を感じてしまいます。
いいからついてきなさいと、さもないとずぶ濡れにするわよ。と脅され
連れてこられたのは、
「いらっしゃいませー。2名様ですね、奥へどうぞ」
やっぱりガ○トだった。
接客したのは昨日の店員ではなく、冷ややかな目で見られる事も無い。
いい笑顔の素敵な女性だ。
とりあえず食べ物を注文し、セットでドリンクバーを頼む。
「単刀直入に言うわ。なんでアンタ断るの?」
「むしろこっちが聞きたい、何故そこまで拘る」
「はぁ?・・・知ってるでしょ。だからよ!」
「いや、知ってはいるよ。でも俺には津崎みたい事はできないんだが?」
「そんなの知ってるわよ!でも・・・それでもいいのよ!!」
「俺は良くないんだよ!俺には俺の人生がある、ほっといてくれ」
「お待たせしました。カルボナーラです」
と、魚が頼んだカルボナーラが運ばれてきた。
「うぅ・・・」
「いや、そんな恨めしい目で見ても無駄だから。ノーはノー。断じて否だ!」
「信じらんない!こんな可愛い子が言ってるのよ!?普通断らないと思うわ!!」
「いやそんな事ないから。人間無理なもんは無理なんだよ!ちゃんとあの時も
答えただろう!?い・や・だってな!」
「お待たせしました。チキンカレーです」
ドンっと音をたてて、俺が注文したチキンカレーが目の前に置かれた。
あれ?なんかちょっとカレーこぼれたんだけど、どういうことなの。
講義の視線を向けると、店員は既に去って行っていく途中で、
「最っ低」
ボソっと言ったつもりだろうが良く聞こえていた。
え?何が?
なんだろうとてつもなく妙な誤解を与えたのではないか。
あの可愛らしい笑顔は何処へいってしまったのだろう?
飲み物を取りに行こうとして、数ある視線に気づいた。
周りにいる客が一斉に元の位置に姿勢を正すのが見えた。
・・・・・・・。
「最低だな・・・アイツ」
「なにもこんな所で何度も振らなくたっていいのに・・・」
「あの女の子可愛いのに・・・もったいない・・・」
「うらやまけしからん」
「ッチ」
・・・・・・。
もっとヒソヒソと喋れや!!!!!
木曜日は木曜日に投稿