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冬童話

雪の妖精ココちゃん

作者: 白波

 朝、窓を開けると一面雪景色がひろがっていました。

 夜中のうちにふった雪が町を真っ白にそめていたのです。


「わーすごーい!」


 この町を見下ろす崖の上に建つ家に住む妖精の女の子ココは笑顔でそこからの風景を見ていました。


「ねぇ! ママ! せっかくだから、町まで行こうよ!」

「ダメよ。ママはお仕事なんだから!」


 テーブルに向かったままのお母さんからの答えに女の子はつまらなそうな表情を浮かべました。


「ほら、ココ。今日は家でおとなしくしていなさい」

「やだ! 町に遊びに行くの!」

「だーめ。ココも雪の結晶作るの手伝いなさい」

「やだ! 遊びに行くの!」


 ココはお母さんの服の端をつかみ、引っ張ります。


「ねぇ行こうよ!」

「ダメと言ったらダメって言っているでしょう? ママは忙しいの」

「もういいもん! 一人で行くもん!」

「あぁちょっと! ココ!」


 ココは上着を着て家を飛び出しました。



 *



 家を出たココは町へと下る坂道を駆け抜けて行きます。

 雪が深く積もる森を抜けて、真っ白な草原を抜け、凍った池の横を抜ければ町はすぐそこです。


「あっココだ」


 池のそばで雪だるまを作っていた男の子がココの方を見て指を差しました。


「ほんとだ! ココちゃんだ!」


 男の子の声をきっかけにたくさんの子供たちが集まってきます。


「ココちゃんだ!」

「ココちゃん遊ぼう!」

「ねぇココちゃん!」

「そうね。一緒に遊びましょう」


 ココは子供たちにそう返事をして一緒に遊び始めました。


 ココがふぅと息を吹きかければ、池の氷はさらに厚くなり、うっすらと積もっていた雪の量はかまくらや雪だるまを作れるぐらいに増え、子供たちはそれを使って、雪合戦をしたり、雪だるまを作って遊び始めました。


「ココちゃん。こっちに雪追加!」

「はいはーい」


 ココは子供たちに頼まれるまま次々と雪を追加していきます。

 気づけばそこらじゅうに雪が積もり、気づけば町中が深い雪に覆われ始めていました。


 しかし、子供たちもココもそのことには全く気付かずに遊び続けます。


 それからしばらくして、子供たちが遊んでいるところに突然大人の声が聞こえてきました。


「あぁ! やはりココの仕業か!」


 突然、そんなことを言われたココはきょとんとして大人たちの方を向きました。


「どういうこと?」


 ココが聞くと、大人たちはココを取り囲みます。


「どうもこうもないよ。お前が雪をたくさん降らせたせいで迷惑しているんだ!」


 ココは大人たちがどうして迷惑しているのか理解できません。

 なぜなら、子供たちは喜んで雪で遊んでいたからです。


「どうして雪がたくさん振ると困るの?」

「そりゃ歩きづらいし、家だって雪がたくさん積もると壊れることがあるんだ。だからだよ」

「ええっそんなことがあるの!」

「あるから言っているんだ」


 ココは驚きました。自分が降らせた雪がそんな風になるとは全く思っていませんでした。


「どうしましょう……私、雪は降らせられるけれど溶かすことはできないの」

「えっそうなの?」


 ココは雪に関することなら何でもできると思っていた子供たちは驚きました。


「じゃあどうするんだよ」


 誰かがそう言います。


「どうしよう……」


 ココはとても困ってしまいました。

 雪は春になると溶けるのですが、それはずっと先の話です。


「どうしよう。どうしよう……」


 困惑するココを前に大人も子供も困り果てました。

 その時です。


「まったく、だから町へ遊びに行かないでっていったのよ」

「ママ!」


 声のした方を見ると、ココのお母さんが手を組んで立っていました。


「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもあなたが心配だから降りてきたの。ほら、雪を元に戻すから手伝って」

「でも、どうするの?」

「うーん。そうねー少し早いかもしれないけれど、ちょっと春の妖精さんを起こしてきましょうか。それで少しだけ働いてもらったらすぐに寝てもらえばいいかな。うん。ココもちゃんと来なさい」


 そういうと、お母さんは春の妖精さんが住んでいる森に向かって歩き始めます。


「あぁ待って! すぐに戻るから待っていてね!」


 ココは子供たちに手を振ってすぐにお母さんの後を追って森の中へと入っていきました。




 *




 森の奥、その場所だけは雪がなく、春の花が咲き乱れている。


「やっと着いた……」


 春の妖精さんは意外と森の奥に住んでいるので来るだけでも大変です。


 ココは一年中花が咲き誇っている木の根元にある春の妖精の家の扉をたたきます。


「妖精さん妖精さん。春の妖精さんちょっといい?」


 ココが声をかけたからしばらくすると、ガチャリという音が鳴り、扉が開きました。


「なんだよ? まだ冬だろう?」


 扉の向こうから出てきた春の妖精は眠そうに目をこすりながらココたちをキッとにらみます。


「ごめんなさい春の妖精さん。ちょっと頼みたいことがあるの」

「えっ? まだ冬だって言ってるじゃん。用事があるなら、春にしてって言ってるの」

「うん。それは分かるんだけど、ほんとに少しだけだから。ちょっと雪を降らせすぎちゃって適当に雪が解ける程度に春にしてほしいだけだから」

「えっ? 別にいいでしょ。とにかく春まで寝るからね」


 そういうと、春の妖精は扉をバタンと閉めてしまいました。


「困ったなぁ……」


 ココがしゅんと落ち込んでいると、お母さんは彼女の肩をトントンとたたきました。


「そんなこともないみたいよ」

「えっ?」


 ココがお母さんの指差す方を見てみると、そこには桜の形をした春のカケラが落ちていました。


「それを使えば、雪がちょうどいいぐらいの状態に戻るんじゃないの?」

「わぁ! ありがとう春の妖精さん!」


 ココは春の妖精にお礼を言って町の方へと駆け戻ります。


「こらこらココ待ちなさい! 春の妖精さんありがとうね」


 お母さんは春の妖精にお礼を言ってココの背中を追いかけていきました。




 *




 ココが町に帰ると、子供たちや大人が今か今かとココの帰りを待っていました。


「みんな! 春の妖精さんから春のカケラをもらってきたから、これで元に戻せるよ!」


 ココがそういうと、どこからともなく拍手の音が聴こえます。


「うん。たくさんの雪がなくなっちゃうのは惜しいけれど、仕方ないのかな?」

「うん。そうだね」


 子供たちのそんな話が聞こえてくると、ココは思わず雪を解かすのをためらってしまいました。


「ココ。ここはいったん解かしておいて、他の人の迷惑にならないところで雪を降らせればいいんじゃないの? そこに遊びに来てもらえばいいじゃない」


 迷っているココにお母さんがそう声をかけます。


「そうか。そうだよね。うんそうしよう!」


 ココはそう言って、春のカケラを町の方へと向けました。


「春のカケラよ。この雪を解かして!」


 ココがそういうと、春のカケラがオレンジ色に光り、町をふわっと包み込みます。


 すると、どっさりと積もっていた雪はみるみる解けていき、ココが来る前のうっすらと積もっているぐらいまで戻りました。


「はい。これで元通り」


 ココがそういうと、わぁっと大人たちの歓声が上がります。


 その横で子供たちはちょっとがっかりしています。


「ねぇ! みんなに迷惑にならない町はずれの平原で遊びましょう?」


 ココがそう提案すると、暗かった子供たちの顔がパッと明るくなります。


「やったやった! さっそく遊ぼう!」


 ココと子供たちは仲良く手をつないで平原の方へと走り出します。


「みんな! 暗くなる前に帰ってきてね!」

「うん! わかった!」


 その後もココは毎年冬になると町はずれで子供たちと雪で遊ぶようになりましたとさ。

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