想いは空へ
「ミルクたっぷりココア」と書かれた紙パックのジュースを、音も立てず飲む、薄茶色のさらりとした髪と不健康なくらい色白な肌が印象的な少年、涼人。隣では涼人と対照的に黒髪に、少年らしく程良く日に焼けた肌の優也が「いちご牛乳」と書かれた紙パックのジュースを豪快な音を立てぐいぐい飲み干している。
優也と涼人が高校生になって初めての春休みが明日から始まる。しかし、春休み前の終業式が終わった後二人は真っ直ぐ帰る気になれず、屋上に来ていた。フェンスに寄りかかるとグラウンドからは、運動部の掛け声が聞こえてくる。
「明日から春休みだね」
「うん」
「それが終わったら二年生だ」
「そうだな」
「クラス替え……あるんだよね」
「それ何回目?」
優也は口を開く度、クラス替えについて涼人に問いかけていた。
二年生になると先ず、クラス替えというイベントが待っている。必ずしも二人がまた同じクラスになれるとは限らない。優也はそれが気がかりなのか、ずっとそわそわしている。
会えない時間と距離が、二人の気持ちを攫ってしまうかもしれないと、優也はそれを恐れていた。恋人になったとは言え、表面上、二人には何も変わらない、恋人という証が目に見えない事に、優也は不安を募らせていた。
「だって! 離れちゃったらさ、会う時間減るんだよ」
「だからって、全く会えなくなるわけじゃない」
「でも、涼人の事信じてるけどさ、なんか不安になるよ。俺女々しいかな」
「女々しいというより鬱陶しい」
普段と変わらない、厳しい涼人の言葉にずっと悩んでいた優也はがっくり肩を落とす。だが、どこか吹っ切れていた。
「悩むの止めた!」
優也は明るい声で言う。フェンスの網目に指を引っ掛け、部活動を行う生徒を眺めた後、涼人を見て笑う。
「俺叫びたい、良い? つか、叫ぶ」
「は?」
涼人の返事を待たずに、優也は空気を肺いっぱい吸い込み。吐き出した。
「俺は、涼人が好きだ!」
「お、おい! 止めろよ恥ずかしい」
「俺はずっとずっと、涼人が好きだ! 涼人が大好きだ」
「……」
すっきりしたのか、優也があどけなく笑って「ごめん」と片目を瞑る。全く悪びれた様子が窺えない。
「それにしても涼人は、不安になったりしないの? クラス離れちゃうかもしれないのに」
「俺、優也を信じてるから不安にならない」
何気ない涼人の言葉に、優也は目をキラキラさせる。涼人には、千切れんばかりに揺れる犬の尻尾が見えるような気がした。
「涼人、……ねえ、キスしたい」
「調子に乗るな」
優也が顔を寄せるが、涼人はすかさずそれを拒否する。
その時、勢いよく屋上のドアが開き、体育教師が顔を覗かせた。
「こら、屋上は立ち入り禁止だぞ、なに騒いでるんだ」
「あーあ、優也のせいでバレた」
「す、すみません」
結局、優也と涼人は屋上に入った罰として、広い体育館を二人で掃除する羽目になった。
だが、誰も居ない二人っきりの体育館で、何故か興奮した優也の押しに負け、掃除道具を片手に、二人はそっと口付けを交わした。