ブラックコーヒーは恋の味
私には好きな人がいる。昔からずっと好き。私と彼は幼馴染。
昔ってどれ位前?と聞かれるとすぐには答えられないが、
小学校中学年のときからなのは確実。
もしかしたら幼稚園の時から好きだったかもしれない。
幼稚園の時はよく、その人のことを様付けしながら、可愛らしく追い掛け回したりしていたもんだ。
小学生の時に、私が熱があり廊下で倒れていたら、ものすごく心配をして、
手を引いて先生の所まで連れて行ってくれた彼。
クラスの人の物がなくなり、私が盗ったと疑われていて、
私が泣いていた時にかばってくれ、疑いを晴らしてくれた彼。
中学生の時だって、私は様々な彼の優しさに惹かれていた。
英語の授業中に、読めない教科書の音読を当てられてしまい、
なかなか読み始めれなくてその場に立ち尽くし困っていた私。
すると、隣の席にいた彼が少しぶっきらぼうな感じで小声で教科書を音読してくれていた。
私はその音読をもとに、彼の後に続いて交互に教科書を音読していた。
彼のおかげで私は無事に教科書を音読し終わり、着席することができた。
読み終わった後はなんだかとても恥ずかしかったが、その反面、
彼のさりげない優しさがとても心に響いていた。
もし困っていたのが私ではなくても、彼は同じことをしたのかな・・・・・・?どうなんだろ。
そんな私も彼ももう高校生。私は彼の昔から変わらない優しさに惚れている。
あまり人と接するのは苦手な彼だが、そういうところがなんだか私と似ている。
なんだか考え方も私と似ている。だから彼と一緒に意見を言い合ったりするのは安心するんだ。
そして、面倒見の良く、私の話や相談を聞いてくれる彼。
スポーツ全般を華麗にこなす彼。ブラックコーヒーが好きな彼。趣味が多彩な彼。
そういうとこも全部全部好き。
私はブラックコーヒーは好きではなかったが、
彼がよく買っているのを目にして、私も彼と同じものを飲みたいと思うようになり、
彼が自販機でコーヒーを買った同じ日に試しに私も買って飲んでみた。
正直、私には苦くて、初めて飲んだ日には残してしまった。
でも、彼が好きな物を私が嫌いなのはなんとなく嫌だったので、
また後日ブラックコーヒーにチャレンジした。
するとなんと、今度はおいしく感じた。それでもやっぱり私は甘めのコーヒーの方が好きだったが、
一緒の時間に彼と同じ物を飲んでいることがなんだか嬉しく、
私はその日から気が向いたら彼がブラックコーヒーを買う日に私も買うようにしていた。
でもなんだか、同じ物を飲んでる、と気持ち悪がられたらどうしようという気持ちもあったので、
少しだけこそこそして飲んでいた。
ある日、
「ブラックコーヒーおいしいよね」
と私と彼が飲んでいる時に彼に話しかけてみた。すると彼は
「ほんとかあ?」
と笑いながら、少し疑ったような声を発してきた。
やはり、彼には私が若干無理をして飲んでいることがバレていたのだろうか。
そう考えると少し恥ずかしいが、でも、そんな大人な味を楽しめる彼って素敵。
と私の脳内は少々脱線した方向で結論にいたっていった。
ブラックコーヒーの他にも、私は彼と同じ物を好きになろうと少しだけ頑張った。
音楽やゲームや好きなテレビ。私と彼にはジャンルは違うがゲーム好きという共通点があったので
、ゲームの貸し借りをしたりしていた。私は、私の好きなジャンルのゲームではなくても、
彼が楽しんでプレイしたことのあるゲームをプレイできることが嬉しかった。
もちろん彼の貸してくれたゲームそのものも楽しかったが、
やっぱり私にとって一番楽しいのは彼との会話。
高校の学校祭の時に、一緒に学校祭の準備をさぼって、いろんな話をしたのは良い思い出。
私も彼も、学校行事はあまり好きではなく、学校祭には非協力的だったのだ。
なんだか彼との共通点がけっこうあって私は喜ばしい気持ちである。
あと彼は自称紳士。私や女子のことを時々『お嬢さん』と呼ぶ。
お嬢さんと呼ばれるのはなんだかこそばゆいが、
お嬢さんと呼ばれる機会はないので呼ばれるのは嬉しい。
できれば、私だけに『お嬢さん』と呼んでほしいものだ。
他の女子に、彼に『お嬢さん』と呼ばれる快感を正直味あわせたくはない。
彼は自分の性格のことを暗いという。確かにそうかもしれない、と思った時もあった。
が、なんだかんだで彼の周りにはけっこう人が集まっている。
最近では異性も彼の良さに気づいたのか、彼に近づいている人が増えた気がする。
彼には一番仲が良いと思われる同性の友達がいる。
彼がその人といる時には、私には見せたことのない笑顔を向けて楽しそうに話している、気がする。
私はその人に嫉妬したりした。その人になりたいと思った時もあった。
彼とあんなに楽しそうにしていて、なんて羨ましいことだろう。
ちなみにその人は中学生の時に転校してきた人である。
その人と彼は気が合ったのか、みるみるうちに仲良くなっていっていった。
仲良くなってく様子が目に見えるほどだった。
私と彼は幼稚園の時からの幼馴染。でもその人は途中から転校してきた人。
なんで、ぽっと出のあなたの方が私より彼と仲良く接しているの?と嫉妬したこともあった。
でもその人は性格が悪いわけではないから憎めない。
むしろ良い人。まあ彼の友達だから当たり前といったら当たり前だけど。
その人にしか見せない彼の態度や言葉。私はその人のポジションがほんとにうらやましかった。
でも、そのような良い友達を引き付ける彼が魅力的、
私は女として彼と今まで以上に仲良くしていけばいい、そういう結論にいたることができた。
あと、彼のことを怒りっぽい、短気と言う人がいる。
確かに怒りっぽいのは私も感じてはいるが、
彼はいつだって正論を述べているので、苦になったことはない。
彼はどちらかというと地味なキャラなのだろうが、私にはいつも輝いて見える。
失礼かもしれないが、もしかしたら私があばたもえくぼに感じているのかもしれない。
彼は自分の思ったことや間違ったことを言える人だ。私は言えない人。
彼がそういう意見を言う時、だいたい私と考えは同じなので、いつも心の中で私は彼に拍手をする。
性格も外見も何もかも好き。彼は私の王子様そのもの
。白馬なんて似合わないだろうけど。でもそこがまたいいかもしれない。
彼は散歩も好きである。部活も休みな暇になった夏休み中は、よく散歩をしていた彼。
それを知った私は、彼が散歩をする日を見計らって、
2日間だけだけど、彼と一緒に散歩をしようと頑張って出歩いたりもしてみた。
彼に会えないかな?彼は今日も散歩してるかな?なんて思いながら自転車にまたがった。
彼は足。私は自転車。この狭い田舎町を走り回っていたらいつか彼に会えるだろう、そう信じて。
そして彼の家の前を3回くらい自転車で通りかかった私。
軽くストーカーだけど気にしにない。彼が家から出てこないかな、なんて思いながら。
しかし、散歩開始から50分くらいたっても彼と出会えない私。
今日は彼は散歩に出ないのかな、とあきらめて家に帰宅。
しようと思ったその時。彼らしき人を発見!徐々に近づくにつれ、
自転車の光でそれが彼だと確信することができた。
私は高鳴る胸を抑えつつ、ゆっくり彼に近づく。すると彼はこちらに気づき、
「誰だぁ!?」
と言ってきた。私は元気よく彼の名前を読んだ。どうやら声で私と気づいたようだ。
何してるのかと聞かれ、自転車で散歩と答えたら、歩けよと突っ込まれてしまった。
「俺、ついていこーかな」
とか笑いながら言ってきて、私の自転車についてきた。とても嬉しかった。
その後は適当な世間話をしながら2人で30分くらい歩いた。
夜に若い男女が2人で歩いて、なんだかデートみたい、と私は浮かれていた。
夏休み中の話しや他人の恋愛話をしたりしていた。そしてなんだかんだしていたら私の家の前に着いた。
「終点か?」
と聞かれ、最後にゲームを借りる約束をして
「じゃ」
と手を挙げて別れた。
あの時は、夜に少しでも一緒に2人きりでいれて嬉しかったな。
私の一番の男友達は彼。彼の一番の女友達は私。そうでありたい。
私は彼の彼女になりたいと思った時もあったが、
その反面、異性同士の仲良い友達であり続けたいという気持ちもある。
お互いが1番の異性の友達同士なら、付き合わなくてもいいとかもと思う。
もし彼に私以外の彼女ができたら、私が彼女のことで相談されたり。そんな関係でもいい。
でも、彼に彼女ができた時に、友達として祝福してあげることができるかどうかわからない。
なんだか複雑。
なんとなくだが、私と彼の関係に彼氏彼女は合わない。そういう風に思ってしまう。
そして彼は都会の大学へと進学する。今まで少人数の田舎で育ってきたのもあり、
彼が都会色に染まらないか心配だったりする。
人がたくさんいる都会へ行くと、きっと彼の良さに気づく女性だっているに違いない。
彼に彼女ができてしまう。そうも思ってしまう。そうなってしまう前に、
フラれるの覚悟で告白してみるべきだろうか?
来年度から彼を見れなくなると思うと、なんだか悲しくなってくる。
彼は私のことを、今の時代にいない優しい女子だと言ってくれたことがある。
その言葉は素直にとても嬉しかった。
だから私は、この彼が誉めてくれた性格の良い部分を変えないで、地元で彼を待ち続けていたいと思う。
そして、高校を卒業する前か、それより後か、いつか必ず彼に告白するんだ。
結果がどうであれ、私が彼に告白したことによりこの今の関係が崩れることはない、よね。
だって私達は最高の異性の友達同士なんだから。
そして私は彼のことを思いながら今日もブラックコーヒーを啜る。




