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9/9

密着最終日

 おそらくもうこの世にいないであろう桑島(くわしま)さんの本懐(ほんかい)()げるために、私たちは駄菓子(だがし)さんへの密着取材を再開しました。


 桑島さんが聞き出した話によれば、駄菓子さんは光のチャーペンソンの教祖が実の母親であり、団体の信徒がファンとして彼を支持していることは知らないそう。本当に知らないのかどうか、駄菓子さんに確認してみます。


 この日、駄菓子さんは東京・高円寺で開催されるトークライブに参加予定。開演の二時間ほど前、控え室にやって来た駄菓子さんに、お話を伺います。


駄菓子「光のチャーペンソン……ああ、確かに、『同級生の家』に協賛してもらいましたね。開催にかかる費用の一部を出資してくださいました。代表のナカトさんともお話ししましたよ。形式的な話と言いますか、契約に関することしか話していないので、どんな方なのかまでは、わかりませんでしたけどね」


 駄菓子さんの口ぶりからして、光のチャーペンソンの活動内容やお母様のことは知らないようです。嘘をついている様子はありません。イベントに協賛してくれた団体と、その代表者ということしか把握していないと見て、間違いなさそうです。


 私たちと、故・桑島さんが(つか)んだ情報を駄菓子さんに伝えようと思いましたが、それが本当に正しいことなのか、直前で判断が(にぶ)りました。駄菓子さんが光のチャーペンソンのことや、お母様のことを知れば、強いショックを受けると思われます。ご自身の活動にこれ以上の意義を見出せず、やめてしまうかもしれません。それが正義なのでしょうか。もしナカトさんを始めとする光のチャーペンソンの関係者全員が納得して駄菓子さんを支え、その結果彼が活動でき、生活できているのならば、私たちが口出しするのは野暮(やぼ)なのかもしれません。そのサイクルを壊す必要はないのかもしれません。


 そもそも、ナカトさんと駄菓子さんが実の親子という情報は、真偽が不明。そんな曖昧なことを駄菓子さんに伝えたところで、信じてもらえない可能性も高いでしょう。


 どうするべきか迷いましたが、次に駄菓子さんが口にした言葉を聞き、私たちはこの取材を通じて知った情報を伝えることをやめました。


駄菓子「今日のトークライブは、お客さんが少人数なんですよ。だから、ライブが終わったらお客さんたちと直接お話しする時間を長めに設けてまして。ファンの方々とじっくり会話することなんてそうありませんから、すごく楽しみなんです。私が見つけた恐怖の因子と、それをもとに作ったホラーコンテンツをどう捉えてくれているのか、聞いてみたくて」


 密着中、ずっと淡々としていた駄菓子さんが笑っています。彼がここまではっきりと感情を表にするのは初めてです。ファンと話せることを、心から楽しみにしているのでしょう。やはり彼の言葉に、偽りはありません。


 駄菓子さんはホラーシーカーとして休むことなく恐怖の因子を探し続けることで、ファンの期待に真摯(しんし)に応えようとしています。そのファンたちが、顔も名前も知らぬ母親が(ひそ)かに作り出した虚像(きょぞう)だとしても、駄菓子さんの目の前にいるのならば、彼は最大限に楽しませ、怖がらせようとする。そういう意識で活動しているのです。


 駄菓子さんは真相を知らないままのほうが良い。そう判断しました。故・桑島さんの意思を尊重して、この取材記録は公開しますが、どうか駄菓子さんの目には入らないことを祈るばかりです。



<了>

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