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密着六日目・七日目

 光のチャーペンソンに潜入中の桑島(くわしま)さんから連絡がありました。信徒は一日のうち三十分しかスマートフォンを使うことが許されていません。そのわずかな時間に、私たちへ連絡してくれたようです。「光のチャーペンソンについてわかったことがある」とのこと。メッセージのやり取りでは時間がかかってしまい、全部を伝えきれないそうなので、彼が生活する寮の裏手で深夜に落ち合うことになりました。


 夜一時。すでに寮の就寝時刻を大幅に超えていますが、桑島さんは自室を抜け出して寮の裏に来てくれました。抜け出したことが発覚したら問題になるとのことで、手早くお話を聞きます。


桑島「ここでやってる修行、見てましたよね? あいつらは全く怖くないものを怖がる練習をしてるんです! 恐怖に打ち勝つ心を手に入れるなんてのは建前で、信徒を駄菓子のファンにするために、ありふれたものでも心の底から怖がれるよう訓練してるんですよ! 間違いありません!」


 息を荒げながら、桑島さんは続けます。


桑島「信徒たちはここで三年間みっちり訓練した後に、シャバに出て駄菓子のファンをやるんです! つまり光のチャーペンソンは、駄菓子の信者養成所なんですよ! でも、信徒たちが本当に怖がっているのは、駄菓子が見つけたホラーなんかじゃない! この団体の人間に『開かれれる』ことです!」


 開かれる。道場での修行の際、代表のナラト・テルミさんが口にした言葉です。確かに、この言葉を言い渡された男性信徒は激しく動揺していました。どういうことなのでしょうか。


桑島「先輩の信徒に聞きました。『開かれる』ってのは、『腹を切り裂かれる』ことの隠語なんです。修行でミスを繰り返した信徒は、駄菓子のファンになる才能がないとみなされて、道場の地下にある手術室で腹を切り裂かれます! で、殺されて、内臓を摘出(てきしゅつ)されて、売り(さば)かれるんです! 内臓を売った金は光のチャーペンソンの活動資金の一部になっています! 信徒たちはこうなることを恐れてるんです!」


 桑島さんの口から出たのは、衝撃の話でした。光のチャーペンソンは駄菓子さんのファンを養成している。その中で、ファンとしての適性がないとみなされた信徒は内臓を摘出され、団体の活動資金にされてしまうとのこと。


 桑島さん自身、実際に見たわけではないものの、他の信徒数名から同じような話を聞き出せたため、ほぼ事実だと考えているようです。


 信徒を集め、 彼らを脅してまで駄菓子さんのファンを生み出している光のチャーペンソン。なぜそこまで駄菓子さんに肩入れしているのか。「彼の活動を支えることで入信者を増やせるから」ということ以外にも、何か理由があるように思えてきます。ただ、この理由については私たちも、桑島さんも(つか)めていません。


桑島「駄菓子と光のチャーペンソンの関係について先輩たちに聞いても、みんな知らなそうでした。たぶん、一般信徒では知り得ない、もっと深い秘密があるんでしょうね。……ナカト・テルミなら間違いなく知ってると思いますが、一般信徒はあいつに近づくことすらできません。道場での修行中以外は僕らの前に姿を見せませんし、いつもボディガードが(そば)にいます」


 私たち取材スタッフには自ら対応したナカトさん。しかしそのときも、駄菓子さんとの関係性については「単なるスポンサー」程度の話しかしていませんでした。彼女から話を聞き出すのは難しそうです。


 考え込む桑島さん。一分ほどの沈黙の後、何かをひらめきました。


桑島「明日の同じ時間に、またここで落ち合いましょう。一般信徒が知らない情報を知ってそうな奴を連れて来ます」


 そう言うと、桑島さんは「そろそろヤバいんで」と続け、寮の裏口から建物の中へ入っていきました。


 私たちも退散し、彼の言葉を信じて約束の時間を待ちます。




 翌日の夜一時。また寮の裏手へ向かいました。桑島さんは先にやって来ていた様子。その足元に、誰かが横たわっています。両手と両足を荷造り用の(ひも)で縛られ、口をガムテープで塞がれた五十代くらいの男性です。その顔には、あざや切り傷が見られます。拘束から抜け出そうともがきますが、桑島さんに腹部を蹴られ、動きを止めました。


桑島「こいつは、光のチャーペンソンの幹部です。組織のナンバースリーってところでしょうか。さっき捕まえました。こいつなら、何か知ってると思います」


 昨日、桑島さんが連れて来ると言った「一般信徒が知らない情報を知ってそうな奴」とは、団体幹部のことでした。しかし、言葉で説得して連れて来たわけではな

なさそう。桑島さんの体にも、至る所に傷があります。幹部の男性と取っ組み合いになり、強引にこの場へ連れて来たことは明らかです。


桑島「今からこいつを拷問します」


 そう言うと、桑島さんは再び男性の腹部を蹴りました。そして「絶対に大声を出すなよ」と耳打ちします。言葉にならない声を出し、激しく首を横に振る男性。今度は右側頭部を殴られました。これで桑島さんの本気度が伝わったのか、(おび)えたような目つきをして首を縦に振ります。


桑島「聞かれたことにだけ答えろ。余計なことを言えば、左手の親指の骨を折る。それでも従わなければ、次は人差し指と中指。一本ずつ増やしていく。左右の手の指を全部折ったら、次は足の指だ。わかったら、間を空けずに(まばた)きを二回しろ」


 幹部の男性は言われたとおり、瞬きを二回します。それを見て、桑島さんは男性の口に貼り付けたガムテープを乱暴に()がしました。


桑島「こっちが知りたいことはただ一つ。ホラーシーカーを名乗る駄菓子という男と、あんたら光のチャーペンソンの関係性だ。なぜあんたらは駄菓子のファンを育ててる? 殺害することをちらつかせてまで、信徒をファンに仕立て上げる理由はなんだ?」

幹部「こ、殺さないで──」


 命乞(いのちご)いをする幹部の男性。ですが、桑島さんは無視して、右足で男性の親指を踏んづけます。鈍い音が鳴りました。


 叫び声を上げようとした男性の口の中に、左のスニーカーの爪先を突っ込む桑島さん。男性は喉が詰まり、叫ぶことができません。


桑島さん「余計なことは言うな。叫び声も上げるな。今から爪先を引き抜く。同時に、質問に答えろ」


 言葉のとおり、桑島さんは爪先を男性の口から引き抜きます。男性は前屈(まえかが)みになり、嗚咽(おえつ)しながら答え始めました。


幹部「わかりました……話します……ナカト様の意思です」

桑島「駄菓子をバックアップすることで、ナカトに得があるのか?」

幹部「……おそらく、あなたが考えているような得はありません。駄菓子くんのスポンサーになることで……うちの入信者が増えています。けど……その数は信徒全体の一割未満で、大した資金源にはなってません」

桑島「なら何故?」

幹部「私も……正式な書類で確認したわけではなのですが……駄菓子くんはナカト様の息子だそうです。……母親が息子を心配して、利益なんか度外視でファンを作っているんです。私たち幹部も全員……駄菓子くんのファンとして仕立て上げられた信徒……彼が『怖い』と言ったものは、怖がらなきゃいけないんです。でないと……ナカト様に開かれてしまう……」

桑島「……本当に、そうなのか? ……たったそれだけの集まりなのか?」

幹部「嘘だと思うなら……他の幹部も拷問してみてください! みんな私と同じことを言うはずです! これが! あなたたち一般信徒には知らせていない秘密ですよ! これで満足ですか!?」


 光のチャーペンソンが駄菓子さんを支援する理由。それは、教祖のナカトさんと駄菓子さんが親子関係にあるからでした。


 この話を聞いて、一度は疑問に思った様子の桑島さん。しかし、すぐに考えを改めました。思い当たる点があるそう。


桑島「確かに、駄菓子はSNSで有名になって、そこから二、三年くらいは人気が(のぼ)り調子でした。でも飽きられたのか、一時期かなり低迷して、活動休止状態だったことがあるんです。で、そのすぐ後にホラーシーカーと名乗り始めて、またファンが急増しました。この活動休止期間をナカトが知って、息子の将来を心配して活動を支え始めた……。つなげようと思えば、話はつながりますね」


 桑島さんは元々、駄菓子さんの大ファンでした。過去の活動状況についても、よく知っています。駄菓子さんの過去と、男性幹部の話とを照らし合わせることで、納得できた様子。


 その上で、質問を加えます。


桑島「駄菓子は光のチャーペンソンがファンを作っていることを知ってるんだよな?」

幹部「……知らないはずです。ナカト様は駄菓子さんのスポンサーになる際に……彼と話したそうですが、実の親子であることは伝えなかったと、私たち幹部は聞かされています。……光のチャーペンソンの真の目的も伏せたと」

桑島「何故?」

幹部「ナカト様は……シングルマザーで、駄菓子くんを一人で育ててきました。ですが……仕事と育児の疲れから、物心つく前の彼を自宅に残し、逃げ出してしまったそうです。……駄菓子くんは児童養護施設に保護されました。おそらく両親の顔も名前も記憶にないと思います。ナカト様も、本名を隠している。……彼女の本当の名前は、私たちも聞かされていません。……きっとナカト様は、過去の自分が駄菓子くんにやってしまった仕打ちに対する罪悪感から……本人に秘密で光のチャーペンソンを設立したのだと、私は思っています」


 その回答を聞き、桑島さんは沈黙しました。駄菓子さんと光のチャーペンソン、いやナカトさんとの真の関係性は、母親が息子のために行っていた罪滅(つみほろぼ)しだったのです。駄菓子さんのことを追いかけてきた桑島さんといえど、その生い立ちについてまでは知りませんでした。


 次の言葉がなかなか見つからない桑島さん。しかし、何とか絞り出します。


桑島「だとしても、やって良いことと悪いことがある。あんたらは信徒を騙して、しかも殺してきた。……これはダメだ。絶対にやってはいけないことだ」

幹部「私たちはあ! 嘘は言ってません! 恐怖やトラウマに打ち勝つ強い心を手に入れる! そのための修行をちゃんと行っているじゃないですかあ! 何も嘘は言っていない! それに、私たちが信徒を殺している証拠があるんですかあ!? あるなら持ってきてくださいよお!」

桑島「いや、お前たちは……やってはいけないことを……もういい。もうやめだ」


 桑島さんはポケットから取り出したハサミで男性の手足を縛っていた(ひも)を切り、解放しました。そして足を震わせながら起き上がった男性に、改めて言葉を向けます。


桑島「あんたから聞いた話はすべて秘密にする。僕からは誰にも言わない。だからあんたも、ここで起きたことは誰にも言うな」


 男性は無言のまま、駆け足で立ち去りました。


 駄菓子さんと光のチャーペンソンとの関係性について、核心に近いであろう情報を聞き出せた桑島さん。しかし、男性と「聞いた話は誰にも言わない」という約束をしてしまいました。これでは、私たちの取材記録を公開することもできないのではないでしょうか。


桑島「さっきの約束は、僕とあの幹部との間で決めたことです。スタッフさんたちが約束したわけじゃない。だから、密着取材の記録を公開するのも自由ですよ。……ここまで調べたんだから、秘密は(おおやけ)にしたいというのが僕の気持ちです。もちろん強制はしません」


 物は考えようです。桑島さんの言葉に甘え、取材記録は公開しようと思います。


 さらに桑島さんは、こう続けました。


桑島「ただ、あの幹部の話が本当かどうか、確証がありません。あれだけ暴行しても、ずっと伝聞みたいな口調でしたから、真実を全て知ってるわけではないんだと思います。……やっぱり、ナカト・テルミと直接話をしないと。難しいですが、何とかしてナカトと会話する機会を見つけてみます。スタッフさんたちも、僕がナカトと接触できるよう、上手いこと根回ししてみてくれませんか? お願いします。より正確な情報を手に入れるには、ナカトに聞くほかありません」


 私たちとしても、真偽がはっきりしない情報を公開するわけにはいきません。引き続き桑島さんとともに光のチャーペンソンに接触し、ナカトさんへの取材を試みます。

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