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密着四日目

 駄菓子(だがし)さんと桑島(くわしま)さんの対談から五日後。東京都内の書店で、駄菓子さんの新作ホラー小説『足のないミミズ』の発売記念サイン会が行われました。平日午前中の開催でしたが、駄菓子さんのサインを求めてやって来たファンの数は、なんと二百五十人。二年ぶりの新作とあって、ファンの期待はとても大きいようです。


男性ファン「ずっと楽しみにしてました! でも、駄菓子さんの小説は夜に読むと怖くて眠れなくなってしまうので、新作も必ず明るい時間に読みます!」


女性ファン「駄菓子さんは天才です! 普通に生きてたんじゃ絶対に気づかない恐怖を見つけ出す、天才的な視点を持っていると思います!」


 あまりの盛況っぷりに、駄菓子さんご本人にお話を聞ける時間はありませんでした。サイン会の後は、ご本人が監修したホラー映画の試写会に行くそうです。


 同日午後、桑島さんから連絡がありました。駄菓子さんが企画・プロデュースした『同級生の家』について、「あること」に気がついたので話がしたいとのこと。


 桑島さんに指定された公園で、彼と再会。最後に見た桑島さんは、駄菓子さんに論破(ろんぱ)されたことで我を失っていましたが、今日はどこか喜んでいるように見えます。にやつく桑島さんの表情は、彼が気づいたという「あること」と関係があるのでしょうか。


桑島「これを見てください」


 そう言って桑島さんが差し出したのは、『同級生の家』のパンフレット。


桑島「裏面の下のほう、小さく協賛企業が書いてあるの、わかります? 『同級生の家』に出資した企業の名前が並んでるんですけど、そこに一つだけ、宗教団体があるんです」


 桑島さんが言うには、記載されている企業名のうち、「光のチャーペンソン」というものが宗教団体なのだそう。この団体は単なる協賛企業の一つではなく、駄菓子さんとより深い関係性があるのではないかと、桑島さんは予想しています。


 次に彼が見せてくれたスマートフォンには、光のチャーペンソンのホームページが表示されていました。活動内容を見ると、信徒たちは「自身が持つ恐怖心やトラウマを克服する」ことを目標に日々修行をしているそう。確かに宗教団体のようです。


 桑島さんが「あること」に気づいたのは、トップページを見た瞬間だと言います。そこには、どこかの高原で信徒と思われる男女二十人ほどが、横一列に並んで笑顔を浮かべている写真が掲載されていました。


桑島「この写真に写っている人たちのうち、十一人が『同級生の家』に来てたんです。僕が撮影した、何度も来場していた客の写真、前に見せたじゃないですか? あのとき撮った人が、十一人もこの団体に入ってるんですよ。これ、偶然だと思います?」


 駄菓子さんのファンがサクラではないかと疑い、桑島さんが撮影した『同級生の家』の来場者およそ百人の写真。そのうち十一人が、光のチェーペンソンのホームページの写真に写っていたのです。


桑島「トップページだけじゃありません。こっちのページにある写真の人も、あとこのインタビューに答えている人も、みんな『同級生の家』に何度も来てたリピーターなんですよ」


 実際に桑島さんが撮影した写真と比べてみると、間違いなく同一人物。他のページには、午前中に行われた駄菓子さんのサイン会でお話を聞いた男女が写っている写真もありました。桑島さんの言うように、偶然と言う言葉で片付けるにはあまりにも共通点が多いように思います。


 『同級生の家』に協賛していた団体の信徒が、来場客として複数回、足を運んでいた。そして、駄菓子さんに関する他のイベントにも参加している。このことから桑島さんは、ある仮説を立てました。


桑島「この光のチャーペンソンとやらの信徒が駄菓子のファンを演じてるんですよ。たぶん、この団体そのものが駄菓子と関係していて、信徒をファンに仕立ててる。そういうことだと思います。やっぱり駄菓子は、ファンをでっち上げてたんです」


 しかし、光のチャーペンソンのホームページをいくら見ても、駄菓子さんと関係があるというような文言は記載されていません。他のサイトも探ってみますが、やはり関係性を示す情報は見つかりませんでした。


桑島「イベントに協賛している唯一の宗教団体って時点で違和感があるのに、駄菓子との関係性が全く見えないのが逆に怪しく感じますね。隠蔽(いんぺい)している感じがします。……駄菓子は公表してないけど、光のチャーペンソンの信徒なのかも。いや、だとしたら、たった一人の信徒に団体が手厚く支援しすぎな気もする……。駄菓子が光のチャーペンソンの宣伝なんかをしてるわけでもないし……。信徒をあいつのファンに仕立てるメリットが団体側にあるのか……?」


 頭をひねりますが、答えは出てきません。そこで、より確かなヒントを掴むために、桑島さんはある作戦を考えました。


桑島「僕、光のチャーペンソンに入信します。内部に入り込めば、ネットに出ていない情報を得られるはずです。もちろん、心から信仰するわけじゃないですよ。あくまで潜入です。ただ、僕一人だとできないことも多いと思うので、スタッフさんも光のチャーペンソンに接触してもらえますか? 僕とつながっていることは伏せて、光のチャーペンソンに密着取材するという(てい)で。そうすれば、僕とはまた別の角度から探れるはずです」


 桑島さんが光のチャーペンソンへ潜入する。そして私たちが団体に密着取材を行う。こうして二つの方向から駄菓子さんと光のチャーペンソンの関係を探ろうと言うのです。


桑島「団体が信徒に隠していることを、スタッフさんには話すかもしれない。逆に取材だからとスタッフさんの前で猫を被っても、信徒には本性を表すかもしれない。こうやって二つの角度をカバーすれば、光のチャーペンソンの実態を丸裸にできると思います。駄菓子との関係性についても、尻尾を出すんじゃないかと。……絶対に暴いてやります。駄菓子の裏の顔を。あの屁理屈小僧の泣き顔を見るのが、今から楽しみです」


 桑島さんの決心は硬いようで、早速ホームページの質問フォームから入信に必要な手続きについて問い合わせを始めていました。


 私たちにとって、今回の取材の目的は謎多きホラーシーカー・駄菓子さんの正体に迫ること。駄菓子さんについて何か一つでも情報が得られるなら、取材しないという選択肢はありません。そもそも駄菓子さんの密着取材をすると決めたのは、桑島さんの依頼があったからこそ。そこで桑島さんの作戦に協力することにしました。


 しかしホームページには、光のチャーペンソンに入った信徒たちは、団体が所有する施設にて共同生活をすると記載されています。その期間、仕事をすることも、外出することもできないようです。桑島さんも、入信すれば生活がかなり制限されてしまいますが、お仕事などは大丈夫なのでしょうか。


桑島「心配ありません。僕、無職なんで」

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