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密着二日目

 駄菓子(だがし)さんの自宅にお邪魔しました。十畳ほどのワンルームで、壁や天井、床が真っ黒に塗られています。マンションの一室ですが、駄菓子さんが購入してアレンジしたのだそう。照明はなく、光源(こうげん)は窓から入る月明かりだけです。服も髪も黒一色の駄菓子さん。この部屋の中では、少し気を抜くとどこにいるのかわからなくなってしまいます。家具もほとんどありません。作業用に使っているというローテーブルとノートパソコン、そして部屋の中心に置かれたバナナのみ。


駄菓子「殺風景(さっぷうけい)な部屋に、一つだけ置かれたバナナ。もしここに二人の人間を監禁したらどうなるか……。おそらく十五時間もすれば二人とも()え始め、このバナナを奪い合うでしょう。片方はノートパソコンを、もう片方は机を武器にして、相手を撲殺しようとする。しかし、相手を殺したところで得られるものはバナナ一本のみ。無事にこの部屋から脱出できたとしても、今度は刑務所行きになる……。これ、怖いでしょ? 客人(きゃくじん)が、ついこういう妄想をしてしまう空間にしたかったんです」


 自分が暮らす部屋をも恐怖の発信地にしてしまう駄菓子さん。彼の活動には(こう)()もありません。根っからのホラーシーカーなのです。しかし、実際にこの部屋で暮らすとなると、かなり生活しづらそうに思えます。食事をするときや寝るときなどは、どうしているのでしょうか。


駄菓子「ご飯は立って食べます。ご飯というか、ゼリーですけどね。三食全部ゼリーです。どんな生き物も、食事中は(すき)が生まれます。その隙に、思わぬ恐怖が襲ってくるかもしれません。なので、食事の時間は極力短くしています。寝るときは座って、壁にもたれかかります。横になることはないですね。食事の時間以上に寝ているときは隙だらけです。いつ何に襲われてもおかしくありませんから、すぐ反撃できるよう武士の寝方を真似しています。この世界は『恐怖』であふれているのでね」


 ホラーシーカーに安息(あんそく)の時間はありません。駄菓子さんはこのような生活を五年以上続けているそう。


 これほど徹底している駄菓子さんに対して、心苦しいものの、先日桑島(くわしま)さんから依頼されたことを聞いてみます。駄菓子さんを支えているファンのほとんどがサクラではないか、ということについて。


駄菓子「なるほど。私のファンが仕込みで、全員私が催眠術か何かで思考を操っている、みたいな。面白いですけど、そんなことができたら、もっとたくさんの人を操ってファンにしますよ。お金を払ってファンをやらせるっていうのも、現実的じゃありませんね。仮に百人に毎月一万円ずつ払って私のファンをやらせたとしたら、月に百万円の出費が発生する。流石に痛すぎます。そんな経済状態だったら、とっくのとうに破産してますよ。残念ながら、桑島さんという方が考えているような裏はありません。ファンの方は、私が見つけた恐怖の因子、それをベースに作った作品を純粋に怖がってくれているんだと思います。ありがたい話です」


 桑島さんの予想は、駄菓子さんに真っ向から否定されてしまいました。では、桑島さんが撮影した、同じお客さんが日時を変えて『同級生の家』に何度も来場していたことはどうなのでしょう。


駄菓子「そういうこともあると思います。リピーターというやつですね。『同級生の家』の来場者数八万人は『累計』なので、複数回来てくださったお客様もその都度カウントしています。新規のお客様のみの数字ではありません。それに、桑島さんという方が調査したのは一ヶ月間のみなんですよね? 『同級生の家』は三ヶ月間開催しました。もし一ヶ月間のリピーター率が高かったとしても、残り二ヶ月間のデータもないと、イベント期間中に訪れたお客様の八、九割がリピーターだったと断言しようがないと思います」


 理路整然(りろせいぜん)と話す駄菓子さん。桑島さんとは対照的です。口調や雰囲気だけでなく、その言葉の内容も、駄菓子さんのほうが正しいことを言っているように感じさせます。


 桑島さんが、駄菓子さんを憎むあまり事実無根(じじつむこん)の批判をしている。そう考えるほうが自然なのかもしれません。しかし、桑島さんにそう伝えても、納得してくれないでしょう。彼が駄菓子さんを語る様子には、鬼気迫るものがありました。理屈を並べても、その怒りの矛を収めてくれるとは思えません。


 駄菓子さんにも、桑島さんの様子を伝えます。すると、駄菓子さんの口から驚きの提案が飛び出しました。


駄菓子「私が直接、桑島さんと話しますよ。そうじゃないと、納得してくれない気がします。もちろんオンラインではなく、オフラインの場で」


 自身のアンチファンである桑島さんと、直接話をすると言うのです。アンチファンの目の前に、憎しみを向けられている張本人が顔を出す……。何が起きるかわかりません。最悪のケースに発展する場合もあるでしょう。駄菓子さんは、そのリスクを承知で桑島さんと会うつもりなのでしょうか。


駄菓子「わかっています。でも私は本気ですよ。面白いじゃないですか。アンチと会う機会なんてそうそうありませんし、私のことをどう思っているのか、ご本人の口から聞いてみたいです。その対話の中から、また新しい恐怖の因子を見つけられれば儲け物ですね」


 どうやら、駄菓子さんに二言はないようです。ホラーシーカーとしての勘が、アンチファンである桑島さんと会うことで何かしらの発見があると(ささや)いているのかもしれません。


 その場で、桑島さんにメッセージアプリで連絡を入れました。桑島さんからの返事も「ぜひ会って話したい」とのこと。


 双方のスケジュールを聞き、三日後にレンタル会議室で対談することが決定しました。

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