表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

密着零日目

 今回、私たちが駄菓子(だがし)さんに密着取材することにしたきっかけは、ある男性からのメールでした。桑島秀則(くわしまひでのり)さん、三十八歳、独身。彼から、このようなメールが届いたのです。


“ホラーシーカーとかいう意味不明な肩書きを名乗り、ホラー界の革命児みたいなツラをしてる駄菓子(だがし)の言ってること、やってることが全く理解できません。あいつが見つけた恐怖の因子とやらを怖いだなんて微塵(みじん)も思えません。普通に考えて怖い要素がありません。なのに大勢のファンがいます。おかしいと思います。駄菓子の裏には何らかの力が働いているとしか考えられません。調査していただきたいです。”


 桑島さんは、駄菓子さんのアンチファン。彼のホラーシーカとしての活動を否定的に見ています。そんな桑島さんから依頼をもらったのでした。


 駄菓子さんに取材をする前日、桑島さんと実際に会ってお話を伺っていました。東京都内にある公園で桑島さんと待ち合わせ。青いチェック柄のワイシャツにベージュのチノパン姿で、柔和(にゅうわ)な顔つきをした方がやって来ました。桑島さんです。誰かのアンチファンをやるような、攻撃的な雰囲気は感じません。しかし、ベンチに座ってお話を聞き始めると一変。駄菓子さんに対する憎悪とも思える言葉を口にし始めました。


桑島「この前やってた『同級生の家』とかいうイベント、僕も行きましたけど、何も怖くなかった。ただの家でしたよ。あれのどこが怖いんですか? 固定電話が鎖鎌(くさりがま)になるだの、小麦粉と線香の火がそろえば粉塵爆発(ふんじんばくはつ)が起こせるだのと解説がありましたけど、こじつにもほどがある。そんな状況、ありえないでしょ。あれはホラーイベントでも何でもなくて、駄菓子という勘違い男の現代アート展覧会です。しかも本人だけが満足してて客を楽しませる気がないタイプの、タチの悪いアート展」


 発言からして、桑島さんが駄菓子さんに抱いている怒りや憎しみの感情は、かなり強い様子。何がそこまで彼を駆り立てているのでしょうか。


桑島「僕、元から駄菓子のアンチだったわけじゃないんです。むしろ大ファンでした。あいつが出した小説は全部買ってましたし、YouTubeにアップされた動画は全部見てます。一年くらい前までは、すごく楽しんで応援してたんですよ。でも、駄菓子が変な方向に進み始めたというか、だんだん怖い要素を感じられなくなってきて。なのにあいつ、『これこそがホラーだ』みたいなことを、いろんなインタビューで言いふらしてるんです。ファンの間でも『駄菓子のホラーを理解できない人間は感覚がずれてる』みたいな空気が強まってきて。ネットにちょっとでも不満を書き込むと、駄菓子の熱狂的なファンに粘着されて、袋叩きにされて。僕もその被害者の一人です。次第に、駄菓子のやることなすことすべてに腹が立つようになりました」


 桑島さんは、いわゆる「反転アンチ」でした。ファンとして好意的な想いを駄菓子さんに向けていたからこそ、その反動で否定的な意見も強まってしまった。加えて、熱狂的なファンに攻撃されたことで、彼らが支持する駄菓子さんのことを、より嫌うようになってしまったのです。


桑島「駄菓子を過剰に持ち上げる風潮も理解できません。確かにあいつは斬新なことをやってるとは思います。ホラー界隈(かいわい)に新しい風を吹かせようとしてるってことは認めます。けど、それが怖いかどうかは別の話だと思うんですよ。珍しいことと怖いことは必ずしもイコールじゃない。ホラーファンが評価すべきなのは、物珍しさではなく恐ろしさでしょ? あいつのファンどもは、そこを履き違えてますよ」


 駄菓子さんの取り組みは斬新ではあるものの、怖いとは思えない。そんな彼を熱心に支援するファンの在り方にも、桑島さんは苦言を(てい)します。


 そんな桑島さんが思い至った考えが、メールにあった一文。「駄菓子の裏には何らかの力が働いている」ということでした。一見すると桑島さんの妄想に思えますが、しっかりとした根拠があるそう。


桑島「これまで、駄菓子のファンの意見はネットでしか見たことがありませんでした。そのほとんどが匿名で投稿されたものでしたから、ファンの顔は見えません。でも『同級生の家』はリアルイベントなので、駄菓子のファンの顔が見られるチャンスでした。だから、どんなナンセンス野郎どもが来るのか見てやろうと思って、開催から一ヶ月間、毎日通ったんです。そしたら、来場客の八、九割が同じ人だったんですよ。同じ人が何度もイベントに来てたんです。たぶん、駄菓子が手配したサクラだと思います」


 累計八万人が来場した『同級生の家』。そのほとんどがサクラだったのではないかと、桑島さんは予想していました。来場客を撮影したという写真を見せてもらったところ、確かに同じ人が別の日時に、服装を変えてイベントに来ていたようです。一人、二人ではなく、百人以上もの写真を、桑島さんは撮影していました。


桑島「駄菓子のファンは、たぶん数百人がせいぜいで、そいつらが結託して万単位のファンを演じてるんだと思います。お金かなんかを握らされたエキストラなんですよ。SNSに駄菓子を賞賛するコメントを書いてる連中も、同じ人間がアカウントをいくつも作って別人になりすましてるんです。そうに違いありません」


 暴論のように聞こえる桑島さんの話ですが、イベント会場で撮影した来場客の写真があります。完全に否定することはできません。


桑島「お金を握らされてるってのは僕の憶測です。もしかしたら駄菓子に洗脳されてるのかもしれません。いずれにせよ、何かしらの方法で強制されてるんだと思います。じゃなきゃ、あいつの自己満活動(じこまんかつどう)を賞賛する意味がわかりません。ファンたちが自発的に支えてるとは、どうしても思えないんです。だから、駄菓子が裏で何をやってるのか調べてほしいんです」


 そう懇願(こんがん)する桑島さんの依頼を受け入れ、私たちは駄菓子さんに取材することを決めました。桑島さんが考えているような何かが、駄菓子さんの裏に(ひそ)んでいるのでしょうか。


 後日、駄菓子さんに改めてお話を伺う機会を作っていただきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ