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迷い子たちの帰還  作者: やす。


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第三章 迷い子たちの船出

遂に動き出した、「ある計画」。その魁として、選ばれる事になる二人。彼らに訪れる転機と、その決断とは?今回は、サービス!サービスぅ!!

第一節

迷い子たちの転機

 「深宇宙」それは、光の速さを超えるどころか、太陽系の外へと旅立つ航宙技術さえ、まだ持つ事の叶わない人類にとっては、木星以遠の、太陽系外縁部を指す言葉である。

 そこへと至る足掛りの為にと、宇宙開発機構が立ち上げた計画が「木星太陽化計画」と、呼ばれる一大プロジェクトであった。木星から、核融合炉の燃料として使用される、”ヘリウム3”を取り出す事で、太陽系外縁部のエネルギー問題を、一気に克服しようと言う計画で、これが実現すると、宇宙からもたらされる資源の量は、何倍にも膨れ上がる。その為地球圏は今、かつてのゴールドラッシュにも似た雰囲気に、染まりつつある。

 太一と退助は、それぞれ上司からの呼び出しを受ける。ブラインド越しの午後の光。二人は別々に呼ばれたと思っている。扉を開けた瞬間、互いの姿を見て、ほんの一瞬だけ目を見開く。上司が淡々と告げる。

「“木星太陽化計画・基礎観測フェイズ”、正式名称は、木星軌道有人探査計画。だ」

一瞬の沈黙。退助が小さく息を吐く。太一が、ほんのわずかに口角を上げる。

「……古典SF小説から、引用された名称らしいぞ。」

「発案者は、厨二病を拗らせとるのかな?」

 上司は真顔。二人は真面目な顔を保ったまま、机の下でこっそり足先が触れる。だが次の説明で空気が変わる。放射線量は致死域に近い。通信は遅延する。帰還確率は、当然100%たりえない。言葉は冷静。でも重い。

 上司が最後に言う。

「辞退する事も可能だ。明日中に、答えを出してくれ。」

部屋を出ると、夕方の光が長く伸びている。二人とも、答えは分かっている。派手な会話はいらない。

 その夜。退助は太一の部屋を訪れていた。コンビニで買ったビール。テーブルに置かれた任務資料。退助が言う。

「行くんだろ?」

太一は少しだけ笑う。

「行かない理由があるか?」

沈黙。窓の外をヘリが飛ぶ音。退助が、ふと真顔になる。

「生きて帰れないかもしれない。」

太一は即答しない。しばらくしてから、静かに言う。

「それでも行く。」

ここで感情を爆発させないのが、この二人らしい。

第二節

迷い子たちの節目

 任務に入る前の、最後の休日を使い、二人は出かける。

 朝の市役所は静かだった。平日の窓口は、並ぶ人もまばら。婚姻届を差し出すとき、太一の手は震えていない。退助も、まっすぐ前を見ている。特別な演出はない。拍手も、花束もない。職員が事務的に確認し、小さく微笑む。

「おめでとうございます。」

それだけ。それで十分だった。

 建物を出ると、冬の澄んだ空気。退助が、少し照れくさそうに言う。

「これで、法律上も太一のものだ。」

太一は鼻で笑う。

「所有物みたいに言うな。」

でも、手は自然に繋がる。強く握らない。ただ、離れない。

 そのまま二人は海へ向かう。遠い記憶の中の二人が、辿り着けなかった“約束の海”。浜辺には人影が少ない。風が冷たい。並んで座る。

「式は帰ってから、だな。」

ボソリと、太一が呟く。

「盛大に?」

「いや、静かでいい。」

退助が、少し真剣な声になる。

「太一。」

「ん?」

「宇宙で何があっても、俺は後悔しない。」

太一は黙って聞く。

「今、こうしてちゃんと隣にいる。それを選べたから。」

風の音だけが流れる。太一はゆっくり答える。

「俺もだ。」

それ以上の誓いはいらない。キスもない。派手な抱擁もない。ただ、肩が触れている。静かな誓い。

 やがて、船の中にウィルスを持ち込ませない為の、隔離期間が始まる。ガラス越しの面会。直接触れられない時間。それでも、二人の視線は揺れない。

第三節

迷い子たちの船出

 有人木星探査船「暁光」それが、太一と退助が乗り込み、木星を目指す船の名前だった。

 全長120m、最大幅:22.5m。船体中央に、直径30mのリング状の居住区画が装備されており、それが回転する事で、遠心力による0.8Gの疑似重力を生み出す。そこが航行中、乗組員の主な生活空間となる。

 船体は、指揮・操縦区画、機器・生命維持区画、居住区画、推進・放射線遮蔽区画等、幾つかのモジュールで構成されており、指揮・操縦区画以外のモジュールは、地上から分割して打ち上げられ、月軌道上にて既に組み立てが完了し、静かに二人の到着を待っている。

 打ち上げの日、太一と退助は同僚たちの見送りを受ける。エアロック前。管制主任、機関主任、医療担当。それぞれが最後のチェックを口実に、宇宙服姿の二人の顔を見る。形式はあくまで「業務」。

 管制主任が、退助に話しかける。

「予定通り、射出ウィンドウは18分後。……帰還も、予定通りで頼むぞ。」

退助は、軽く敬礼しながら答える。

「遅延は三分以内に収めます。」

太一は苦笑いしながら。

「その三分が怖いんですよ、主任。」

小さな笑い。誰も「無事で」とは言わない。

それを言えば、何かが壊れそうだから。

 医療担当が、退助の腕を叩く。

「線量計、肌身離すなよ。」

退助は、医療担当感と握手しながら

「了解。」

太一には、短く。

「お前はいつも寝不足だ、木星より自分を管理しろ。」

「……善処します。」

 最後に機関主任。

「推進系は完璧だ。だが、宇宙は完璧じゃない。」

退助がうなずく。太一が、静かに外の景色を見る。

「だから、行くんですよ。」

無言の握手。背中を叩く音。二人は振り返らない。

 ハッチが閉まる。二人は指揮・操縦・区画に乗り込む。

並列二座。シートに身体を沈める。左席に退助、右席に太一が座る。そして背後に機器の低い駆動音。

「主電源、安定。推進系温度、許容範囲。」

「姿勢制御オンライン。地上管制リンク確立。」

短い沈黙。管制の声が入る。

「暁光、打ち上げ準備最終確認。」

退助が、空を見つめながら言う

「いよいよだな。」

太一は計器を見続ける。

「行って、戻るまでが任務だぞ。」

「理屈だな。」

「お前は感覚で操縦してるからな。」

退助、わずかに笑う。

「そうかもしれん。」

カウントダウン開始。

太一の指がスイッチ上に静止。退助が小さく息を吐く。

「太一。」

「何だ?」

「生きて戻るぞ。」

一拍。

「当然だ。」

推進系点火準備。振動が伝わる。

 白光。発射。船体は、地表からゆっくり離れる。轟音。振動。地球が遠ざかる。宇宙は美しい。そして冷酷だ。

 数日後。深宇宙に向け航行中、予期せぬ微小隕石群との接触。警報。モジュールの一部が損傷。気圧低下。退助が、損傷した区画に取り残される。自動隔壁が作動し、太一とは物理的に遮断される。通信は辛うじて繋がる。

「退助、状況は?」

「大丈夫。まだ持つ」

 声は落ち着いている。だが、圧力はゆっくり下がっている。太一は指示を受けながら、必死に復旧手順を進める。冷静でなければならない。クルーとして。けれど胸の奥では、別の声が叫ぶ。

――守ると誓った。

遠い記憶の中では、守れなかったかもしれない誰か。でも今は違う。

「退助。」

「うん。」

「帰るぞ、一緒に。」

短い言葉。退助が、わずかに笑う。

「約束したもんな」

 酸素残量が減る、時間はない。太一は最終手順を実行する。手動解除。危険な操作。一歩間違えれば、全体に被害が及ぶ。でも、迷わない。ガラス越しではなく、今度は本当に手を伸ばす。

 隔壁が開く。退助が、転がるようにこちらへ入る。圧力安定。警報停止。静寂。宇宙の闇が、窓の向こうに広がる。二人はヘルメット越しに見つめ合う。

 任務中。抱き合わない。でも、手が触れる。今度は、意識して。強く。極限環境の中で、試されたのは技術だけじゃない。揺らがなかった。航行は続く。トラブルは終わらない。だが二人は知っている。これは“試練”ではない。選んだ未来の一部だ。そして必ず、帰る。海のそばで、式を挙げるために。

第四節

迷い子たちの宇宙(そら)

 深宇宙への航行は、時間の感覚を削っていく。冷凍睡眠カプセルが並ぶ区画は、薄青い照明に包まれている。どちらかが眠り、どちらかが起きる。交代制。

 退助が眠る日。太一は、透明なカプセル越しに彼を見る。静かな呼吸。閉じた瞼。手袋越しに、そっとガラスに触れる。

「いってくる。」

返事はない。でも、不思議と独りではない。数週間後。交代。

 今度は太一が眠る。冷却剤の気配が身体を包む直前、退助の顔が視界に入る。

「太一。」

「……ん?」

「起きたら、木星だ。」

太一は小さく笑う。

「ちゃんと起こせよ。」

冷却が始まる。意識が落ちる瞬間、最後に見たのは退助の優しい目だった。

 そして船は遂に、木星軌道へと至る。巨大な縞模様。圧倒的な重力の支配。太一は早速、観測機器を展開し、データを収集する為の作業に取り掛かる。退助は太一の指示に従い、補助に回る。

 作業の合間に、二人で並んで、窓越しにそれを見る。

「すごいな。」

退助の声が震える。

「来たな。」

太一の声は、低く確かだ。肩が触れる。宇宙服越しでも、温度が伝わる気がする。

 短い自由時間。無重力区画で、二人は固定ベルトを緩め、どちらからとも無く、お互いの服を脱がせ合う。

 やがて、生まれたままの姿となった太一と退助は、抱き合いながら宙に漂う。そして唇を重ねた後で、退助が言う。

「帰ったらさ、海で式、やろう。」

太一は、左腕を退助の背中に回しつつ、右手で退助の左手を握る、そして苦笑しながら。

「寒いぞ。」

 退助が、太一に抱かれながら彼に握られた左手の指を、太一の指と絡める、そして右腕を相手の腰に回し、その厚い胸板に顔をうずめる。

「じゃあ、春。」

 太一は、退助の頭を胸に抱きながら。

「人呼ぶか?」

 退助が太一の腕の中、何故かちょっと照れながら。

「……少しだけ。」

 小さな笑い。そして顔を見合わせた二人は再び、互いに唇を重ねる。極限の場所でも、未来の話ができる。それが救い。

 任務は成功する。データは地球へ送信された。帰路に就く。長い航海、再び冷凍睡眠。交代のリズムにも慣れていた。

 だから――警報が鳴ったとき、最初は誤作動かと思った。帰還軌道上。予測不能な重力乱流。木星の衛星圏外での異常なプラズマ嵐。

 船体外壁の一部損傷。エネルギー系統に波及。退助が覚醒中。太一は冷凍睡眠中。

「システム再起動……応答しろ」

警告灯が赤く点滅する。酸素循環に異常。冷凍区画への電力が不安定。退助の胸が強く打つ。最悪の場合、

冷却停止は致命的だ。

「太一!」

カプセル越しに呼ぶ。当然、応答はない。だが、時間はない。緊急解除をすれば、太一の身体に負荷がかかる。だが解除しなければ、もっと危険。退助は、迷わない。

「一緒に帰るって、言ったよな!!」

手順を実行。冷却停止。

 カプセルがゆっくりと開く。白い蒸気。太一の身体が震える。

「……退助?」

声はかすれている。

「トラブルだ。でもまだいける」

簡潔な報告。状況共有。パートナーとしてではなく、クルーとして。二人はすぐに役割に戻る。エネルギーを手動分配。不要区画の切り離し。船は、ゆっくりと姿勢を乱す。姿勢制御が不安定。

 身体が壁に打ちつけられる。血の味。それでも太一は叫ぶ。

「退助、左舷の補助回路!」

「今やってる!」

汗が浮く、呼吸が荒い。宇宙は、美しいまま冷酷だ。外は静寂、内は混乱。だが、互いの声が座標になる。

「退助。」

「いる。」

その二文字だけで、方向を失わない。船体の揺れが一瞬止まる。姿勢制御が部分復旧。だがエネルギー残量は厳しい。地球まで、まだ距離がある。警報音の合間に、ほんの一瞬の静寂。太一が息を整えながら言う。

「なあ。」

「ん?」

「式、延期になるかもな。」

退助が、苦笑する。

「バカ。」

そして、低く続ける。

「絶対、帰る。」

 約束は、未来形。船は、まだ危機の中。選択を迫られる状況が近づいている。エネルギーをどこに残すか。どの区画を切り離すか。

 そして――二人で生還できる確率は、計算上、わずかに下がっている。それでも。恐怖より先にあるのは、“隣にいる”という事実。

最大のボリュームと、サービスぅ!!で、お送り致しました、第三章でした。照れました。

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