エピソード4ー疑問
冒険者パーティー〈スワン〉は、小さな街を拠点に活動する実力派パーティだ。彼らは日々、魔物討伐をこなしながら穏やかな日常を送っていた。しかし最近、Dモンスターの出現頻度が明らかに異常だった。本来は辺境にのみ現れる危険種が、街の近くで立て続けに発見されているのだ。。
そんな中、スワンのメンバーは薄い不安を抱え始めていた。世界のどこかで、見えない歯車が狂い始めているのではないか――。
その予感は、ある突然の襲撃と、リオの成長をきっかけに、確かな「異変」へと姿を現していくことになる。
「スワンの皆様、急なDモンスターの討伐ありがとうございました。私は予定がありますので、これで失礼いたします」
ギルドマスターのフェンネルは淡々と言うと、ギルド奥の扉へ消えていった。
場には軽い緊張だけが残る。
コツ、コツ、コツ……
「申し訳ない……みんなでダークバスを食べてしまって、証拠が骨しか残っていないんです」
ロウガが頭をかきながら言うと、受付嬢はにこやかに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。Dモンスターを“食べてしまった”報告は初めてでしたが……スワンの皆さんですし」
メンバーは気まずそうに笑い、ロウガの背後に隠れるように肩をすくめていた。
新しい討伐依頼を受けるか相談していたその時だった。
――ドゴォン! バーン!
「きゃああっ!」
「逃げろー!」
「助けてくれ!」
街の外から悲鳴と地鳴りが押し寄せた。
「なにが起きているんだ!?」
リオは驚きギルドの外へ飛び出した。
その目に飛び込んできたのは、商店街の向こう側で跳ね回る“巨大な影”。
茶色の体表、強靭な脚、異様に膨れた喉袋。Dモンスター‘カウゲッコー‘だった。
「なぜこんな街中に……?しかも突然……」
リリーの声は震えていた。
受付嬢も外へ走り出し、その怪物を確認すると顔面が青ざめた。
「あれは……カウゲッコー。スワンの皆さん、どうか討伐にご協力を……!」
「言われるまでもない。急がないと街が壊される!」
ロウガが駆け出した。
「ギルド内にいるBランク以上の方も応援をお願いします!」
受付嬢は声を張り上げた。
カウゲッコーが跳躍するたび、地面が揺れ、人々が吹き飛ばされていく。
舌が鞭のように伸び、逃げ遅れた人々を捕え、そのまま巨大な口に放り込んだ。
「なんて迫力だ……!皆、一斉に攻撃しろ!」
ロウガの号令とともに魔法が飛び交った。
「ファイヤーボール!」
「ストーンボール!」
「ストロングトルネード!」
爆風と煙がカウゲッコーを包むが、怪物は怯むどころか反撃を開始した。
舌が矢のように飛び、数人のハンターが飲み込まれていく。
「ロッキングチェーン!」
リオが拘束魔法を放った。しかし、カウゲッコーは脚力で鎖を引きちぎり、再び跳ねた。
ドシンッ!
押し潰されたハンターが悲鳴を上げ、周囲の空気が凍った。
「急がないと飲み込まれた仲間が消化される!」
ロウガが歯ぎしりをした。
リオは拳を握りしめ、息を吸った。
「……新しい魔法を試す時がきたか。――スパイダーハント!」
白い糸が無数に飛び散り、カウゲッコーの体に絡みついた。
まるで鋼線のように強い糸は、怪物の四肢を束縛し、その場に封じ込めた。
「レッドバックスパイダー討伐の時に思いついた魔法さ。強力な粘着糸で、一度引っかかれば離れないんだ」
リオは胸を張った。
「今だ!畳み掛けろ!」
再び魔法が集中し、カウゲッコーが苦しげに断末魔をあげた。
「ロゼ、行け!」
「任せて!――ラージナイフ!」
巨大な刃が怪物の腹を切り裂く。
同時に、飲み込まれた人々が次々と救い出された。
「よかった……消化される前で……」
リリーが胸を撫で下ろした。
こうして、突如現れたカウゲッコーは討伐された。
ギルドに戻り報告を終えると、スワンの仲間たちはアジトのテーブルを囲んだ。
「なあ……おかしくないか?ここ最近のDモンスターの出現ペース。それに今回の前触れのなさ……普通じゃない」
ロウガの声は低い。
「Dモンスターは人里離れた場所に、極めて稀に発生するはずなのに」
リリーも眉を寄せた。
「それになんでフェンネルは出てこなかったんだ?ギルドマスターなら相当強いはずなのに」
リオが首を傾げる。
「用事があるって言ってたけど……街が危機なのに来られない用事って何?」
ロゼも疑問を重ねた。
「考えすぎだろ。いくらギルドマスターでもDモンスターを飼ったりできるわけない」
ロウガは言うが、その声音もどこか揺れていた。
リリーが小さく手を上げた。
「ねえ……今回の魔法って、なんか違和感なかった?」
「確かに、いつもより威力が上がっていた気がするな」
ロゼが頷く。
リオはぽつりと言った。
「……もしかしたら、Dモンスターを食べた影響かもしれない」
沈黙が落ちた。
ロウガの表情は険しいままだった。
「その線も調査が必要だな。簡単な話じゃ済まないことが起きているかもしれない」
翌日。
リオがギルドへ向かうと、受付嬢が駆け寄ってきた。
「リオ様、昨日は本当にありがとうございました。成長速度、魔法の威力、そして討伐への貢献――総合的に判断し、あなたをBランクに昇格といたします。おめでとうございます!」
「え……僕が、Bランク?」
受付嬢は満面の笑みで頷いた。
リオは喜びを噛みしめながらも、胸のどこかに得体の知れない不安が残っていた。
その裏側では、誰も予想しなかった新たな異変が、静かに起ころうとしていた。
スワンの仲間たちは、今回も力を合わせて街の危機を救いました。しかし、彼らが感じた違和感はまだ霧の中にあり、Dモンスターの異常な出現や、討伐後に残った微かな不安は、物語の先に続く伏線として静かに息づいています。リオの昇格は喜ばしい出来事である一方、裏で何が起こっているか、まだ誰も知りません。
街を揺るがす異変の影、姿を見せなかったギルドマスター、そしてモンスターを食べた影響――すべては今後明らかになる謎へとつながっています。
この物語が、次なる冒険の始まりを楽しみに思っていただけるきっかけになれば幸いです。




