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75/102

《75》

***




 セットされたアラームが鳴って、仮眠している宙はほとんどびっくりしてバッと跳ね起き、スマホを操作して音がやむようにした。


 宙は目蓋が重ったるくいかにも眠たげで、まだ寝ていたいようだった。まるで今いるところがどこか分からないという風にぼんやりしているのだが、時間が流れるごとに意識が鮮明になり、後でようやく、自分が旅のために見知らぬ土地まで来ているのだと思い出すのだった。


「あぁ、そうだ」、と宙が独り言めかして呟く。「わたしたち、星空を観に来たんだった」


 助手席の欧華は軽ワゴンの倒されたシートという限られた範囲の中で寝相を乱し、熟睡のため、アラームには気付かなかったようだ。


「欧華、欧華」、と宙は、彼女の腕を軽く揺さぶる。


 すると欧華はいささか不快そうに唸って、おもむろに半身を起こしにかかった。


「あれ、寝過ごした?」、と欧華がショボつく目を擦って言う。「アラーム、聞こえなかった気がするけど」


「今鳴ったところ」、と宙。


 彼女等の気分は、寝起きのせいか鈍重で、また変妙だった。彼女等は、果てしない隘路を抜け、辿り着いた場所で疲れのために仮眠したわけだが、パッと目覚めてみれば、遭難者はきっとこういう心境なのだろうという心細い気分になっていた。


 時刻は二時半頃。


 二人は車を下り、キャンプの設営にとりかかった。車のトランクに積み込まれた荷物の内、テントなどの先に必要となるものを下ろした。


 空は相変わらず曇っており、雨は降りそうであるが、地面はまだ乾いていて、パッと見では予測が付かなかった。


 二人という人員で来ているので、一人一人が分担して設営に当たるのが理想的だが、いかんせん宙も欧華もキャンプの経験に乏しく、一つのことを二人で悩み合って進めていかなければならず、進行は遅々としたものだった。テントの袋を下ろして中身を出し、骨組みやらテント本体やらペグやらを見ても、どれが何だかさっぱりだった。


 幸い電波が通じており、スマホを用いてインターネットで情報を検索したり、動画投稿サイトでのレクチャー動画を見たりして参考にすることで、ようやく宙たちはキャンプの設営が出来たのだった。


 テントを張る際、位置決めのためにその辺を歩き回っていると、宙は積み上げられた焦げ跡のある石を見つけ、人が確かにいたこと推測し、安堵を覚えた。


 おおむね一時間ぐらいした頃、テントが張り終わった。テントは比較的平らな草地に張られ、すぐ隣には炊事などのためのタープがたてられ、椅子やテーブルが置かれた。


 一連の作業はそれなりに労力を要するもので、宙も欧華も軽く汗をかき、粗方終わってしまうと、タープの椅子に座って休憩した。宙はお腹のところに組んだ手を置くという恰好で、欧華は椅子を傾け、足が伸ばせるようにして足を組んでいた。時刻は四時近くだった。


「何とかできたね」、と欧華。


「うん」、と宙は頷き、テーブル上の紙コップの飲料を飲む。


 タープに置かれたテーブルも椅子も、折り畳み式であり、こぢんまりとしてはいるけど、強度や剛性は申し分なかった。


「ずっと、何か違うって、違和感があったんだけどさ」、と宙。「今分かった。わたしたちのしてることって、旅行っていう感じじゃない」


「確かに、いわゆる旅行のイメージとは違うね」


「遠足っていう感じがする」


「言えてる」


 二人は苦笑を交わした。


「星、見えるかなぁ」


 宙が首を伸ばし、タープの覆いの向こうの曇天を見、誰にでもなく問う。


「さぁ、どうだろう」


 欧華は、楽観でも悲観でもない返事で答え、何とはなしに冷やかに微笑んだ。


 彼女の顔を見つめていると、宙においてあの女子高生の少女、結香が思い返された。ショッピングモールで宙が偶然出会った彼女は、家庭教師の欧華の生徒であり、その事実に面食らったのである。


「ちょっと聞いてみたいことがあるんだけどさ」


 宙が恬静に切り出す。


「うん」、と欧華。


「この前、欧華に教えて貰ってるっていう子に遭ったんだ。隣町のショッピングモールで」


 そのように告げると、欧華は驚きを示すように、一瞬ピクッと目を見開いた。


「誰だろう。わたしの生徒は二人しかいないから、ちょっとの特徴でもすぐに分かると思うんだけど」


「髪が長くて、脱色してるみたいに茶色に近い色。ギャルっぽくて、活発そうで」


「結香ちゃんだ」


 欧華は敏速に察する。


「花火大会のポスター見てたら、何人かで寄ってきてね、そこでたまたま口を利いたんだけどさ」


「花火大会……そういえば、もう来月なんだね。あっという間だ」


 欧華は結香より花火大会の方に意識が行くようだが、宙には、彼女について気になることがあるのだった。


「結香ちゃんってさ、まじめ?」


「うん。まじめな子だよ。見た目はギャルっぽいけど」


「そっか」、と宙。「彼女、ちゃんと授業聞くのかなってふと思ってさ」


 まじめさについて、結香の性質には疑いを挟む余地などないといった断定の口ぶりの欧華に対し、宙が疑念を持っている風だったので、欧華は怪訝に思ったようだった。


「何で?」


 そう聞く欧華の口調には、刺が含まれていて、追及の響きが聞こえた。




***

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