《74》
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宙が運転し、欧華が同乗する車はどんどんひと気の乏しい方に向かい、ついに他の車両がまるで通らない辺境まで来てしまった。
ずっと滑らかで綺麗だったはずの道路が、通行注意の看板を境にガラッと豹変し、宙の軽ワゴン車一台分の巾しかない隘路になった。看板の先はダム湖周縁の山林のようだった。道路の両端は鬱蒼と生い茂る雑木林であり、敷かれた路面はアスファルトではあるものの、所々ひび割れたりへこんだりしており、また落石があったりして、その上を走る車はガタガタとかなり揺れた。
「ねぇ、宙」、と助手席の欧華が不安そうにリュックをギュッと抱いて呼びかける。「この道、合ってるの?」
運転手の宙はというと、未だ嘗て走ったことのない険路に来た緊張感から、初心者のように体とハンドルの距離が近く、そわそわしていた。
「合ってるはず。だってナビがこっちに案内するんだし」
進む車の前方の路面に鳥が数羽おり、車が来るとびっくりして飛び立つ、というシーンが何度か繰り返された。よっぽど交通量が少ないに違いなく、そのため鳥がわが物顔で車道に下りてきているのだろう。
宙としては早くこの悪路が終わることを祈ったが、結局車はたっぷり一時間も走らされ、その先には、まだ悪路は続いていたものの、脇に自然公園の看板が見え、宙はハンドルを切ってその方に進行した。公園内に入る道は舗装されておらず、でこぼこの砂利道だった。
……。
「着いた」、と宙。
欧華は茫然としていた。
迷路じみた道のりをずっと進んできた末に二人が辿り着いたのは、公園というよりは、ただの開けたところであり、古びた木の看板がある他は、すっかり原生の自然という感じだった。ひと気は当然のように絶無だった。
到着してまだエンジンのかかっている車の低いアイドリング音が、車内に聞こえていた。
宙も欧華も、緊張が抜けたのと、目の前に広がる美しいとは言いがたいが野趣に溢れた風景に、ポカンと口を半開きにしていた。
移動にかかった時間はおおよそ三時間。途中、宙たちは道の駅やコンビニなどで小休憩を挟んでなるべく疲れないようにしてここまで来た。
「時間」
宙はそう呟いてスマホホルダーのスマホで確かめる。ちょうど一時くらいだった。
「テント張らなきゃ」
そう彼女は言うのだが、グゥとお腹が鳴り、お腹に手をやって、先に食事すべきか迷った。
「お昼ご飯、先に食べよう」、と欧華。
「そうだね」
宙は特に逆らわず答え、エンジンを切り、静かになった車内で、二人はそれぞれリュックサックより、途中に寄ったコンビニで買ったおにぎりを取り出した。ビニールで包装された、海苔付きの三角おにぎりだった。
ペットボトルのお茶も用意されてドリンクホルダーに置かれると、彼女等は軽い昼食を摂った。
エンジンを切ってしまうと、後に聞こえるのは、鳥の鳴き声や、公園を流れる川の水声などの自然音だけになった。
宙は内心、何か違うという気がしていたが、あまり考えないようにした。ここまで来てしまった以上、とことんやるしかなかった。仮に来た道を戻ることを考えるにしても、相応の集中力が費やされ、数時間はゆっくりしないと回復しなさそうだった。
空腹のため、二人共あっという間におにぎりを平らげてしまい、そうすると、にわかに眠気がもたげて来、テント張りなどのやらなければいけないが、面倒くさい作業は億劫になり、後回しにされ、彼女等はシートを倒して仮眠を取ることにした。
「暗くなるまで寝ないようにしないとね」、と欧華。
「理想は二、三十分だけど。それで済むかなぁ」
「一時間は寝ちゃいそう」
「じゃあ、寝過ぎないようにアラーム掛けとこう」
そう言って、宙がホルダーに固定されたスマホを操作し、一時間後にベルが鳴るように設定した。同時に、彼女はアラームの設定旁、不安要素である天気をチェックしてみた。天気の概況を示す曇りマークと傘マークは変わっておらず、ただ降水確率が五十パーセントだったのが、四十パーセントに下がっていた。変化としては小さいが、励ましには充分だった。
二人はその後目を瞑ったが、しばらくすると、宙のスマホの音がなり、アラームではなく、何か受信したようだった。
眠る直前だった宙は、薄目を開けてスマホを取り、確認してみると、陽子のメッセージが来ているのだった。彼女の勤務する病院では昼休みなのだろう。
『ごきげんよう。旅の方はいかがですか?』
欧華はすでに入眠しているようで、宙のスマホの音には気付かず、片手をお腹に置き、顔は外側に向けて、深い呼吸を繰り返している。リュックサックは足元に置いてある。
陽子のメッセージは至極他愛のないものだったが、宙はなぜか微かに苛立ちを覚えるようだった。なぜかはよく分からなかったが、多分、眠いせいで気短になっているのだろうと思われた。
宙はメッセージに対して後で返信することにし、スマホをホルダーに戻すと、再び目を瞑り、欧華に遅れて仮眠に入るのだった。
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