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星空のスパークル  作者: Yuki_Mar12
四月
16/54

《16》

***




 汪海町より市街地の方面に向けて欧華は車を走らせ、おおよそ一時間かけて同乗の祖母、和子が行きたいという店に到着した。そこは、全国に展開する大手リテール企業のショッピングモールであった。汪海町の幹線道路を山手の方まで東進すると、トンネルがあり、連なる山々を貫通するその先は、県庁のある市になっていて、そこにショッピングモールがあるのだった。過疎化が危ぶまれる状況ではあるけれど、ショッピングモールに加え、大学やサーキットなどがあり、この地域にはまだ活気が残っていた。


 欧華は、日曜日らしく混雑したショッピングモールの駐車場で苦労して空きを見つけると、そこに車をとめ、和子といっしょに下車した。


 駐車場より歩いて移動する間、欧華は和子に買い物の詳細をザッと聞き、後で合流する時間と場所を決めると、それぞれ別々に行動することにした。買い物の予定が盛沢山の和子に随行するのは中々ホネが折れそうであった。勿論、日頃の恩返しとして手伝う気は満々だったが。




 とりあえずアパレルショップに服でも物色しに行こうかなどと思いながら、欧華は上階の駐車場で乗ったエスカレーターを下りていた。手摺に手を置いてぼんやりしていると、やがて階下の遊歩道が見えてくる。遊歩道では、日曜日の日中ということでひと気が盛んで賑やかである。


 アパレルショップのあるフロアまで来た欧華は、エスカレーター付近の柱を通りかかる時、そこに掲示されたポスターに何となく注意が行った。


 白い柱に対してその黒っぽいポスターは、くっきりしたコントラストで目に付いた。ポスターの黒は夜空だった。鮮やかに色付いた光の筋が、タンポポの綿毛のように無数に、夜空の中央より放射状に散って広がり、下方の水面には、その模様が美麗に映り込んでいる。


『花火大会』


 ポスターはその宣伝のためのものだった。


 しかしまだ春だというのに、すでに八月に予定される花火大会のポスターが掲示されるというのは、いささか気が早過ぎるのではないかと、ポスターの前で立ち止まる欧華は呆れて思った。ポスターの花火とその反映の写真は目を奪うほど綺麗だったけれど。


 だが、世間はせかせかしたものであり、例えばハロウィンからクリスマス、クリスマスから正月の切り替えなどは機敏である。その日が終われば、店はすぐさま次のイベントの商品を用意して売りだす。常に予定がないと不安で仕方がないとでもいう風に。


 花火大会の会場はこの市街地の海辺であり、汪海町ではない。きっと当日は恐ろしい人手で黒山が出来、人いきれや喧騒や混雑などで花火の観覧どころではないだろう。そういう風に、欧華には敬遠の念と共に予想された。


 この市街地に、汪海町は山を隔てて隣接している。ひょっとすると、汪海町の海辺からも、ポスターほどには見栄えがしないくらい遠くて小さいだろうが、花火が望めるかも知れない。そう考えてみると、見てみたいという気がしないではなかった。


 欧華は、花火大会の日時を一応記憶に留めておくことにして柱より離れ、アパレルショップに行って服を見て回った。試着などしてみて、気に入るものがないことはなく、別に買ってもいいのだが、やはり失業中の身で経済的余裕がないので、遠慮されるのだった。


 その内、スマホに着信があり、欧華が出ると、相手は和子だった。


 ちょっと荷物が多いのでそろそろ手伝いに来て欲しいとのことだった。


 孫娘は了解して電話を切り、手に持っていたワンピースのハンガーをラックに戻すと、言われた店の方に向かって歩き出した。




 さっきの花火大会のポスターのある柱のそばを通り、折れようとする時、ふと欧華はエスカレーターの方が気になって、振り向いて見てみた。


 すると、見覚えのある人物の、下りのエスカレーターに乗っておりていくその後ろ姿が見えた。重たい厚みのある黒髪。頭の中でその人物を星空の下に置いて、ヘッドセットを装着させてみると、おのずとイメージが浮上してくる。


 ハッとした欧華の記憶が示すその人物は、あの小雨の日、プラネタリウムで言葉を交わしたオペレーターの少女だった――天国宙。


 彼女は、一人の女性を伴っており、茶髪のボブカットで、ミドルのようだった。姉というには彼女は年齢が行きすぎているようで、母と思うと、欧華にはしっくり来た。


 欧華はじっと宙の後ろ姿を見つめていたが、あっという間にエスカレーターで下っていってしまった。エスカレーターはショッピングモール中央の広い吹き抜けの両端にあり、欧華は手すりまで行って吹き抜けのガラス越しに彼女を目で追ったが、どんどん小さくなり、やがてあるフロアで歩き去って見えなくなった。


 宙も買い物のためにわざわざ汪海町よりこのショッピングモールまでやってきたのだろうか。欧華はちょっと考えてみた。あるいは宙はこの辺に住んでいて、出勤で汪海町の科学館まで毎日行っているのだろうか。


 ……。




 その後、欧華は和子のいるところに行って合流した。和子はカートを押しており、カゴは買ったものがいっぱいで重そうだった。中身はトイレットペーパーやシャンプー剤などの日用品ばかり。


 この後更に食料品まで買うということで、和子の買い物の手伝いは、事前に聞いていたもののやっぱりホネが折れそうだと、欧華には些少の憂いと共に思われたのだった。勿論、彼女は誠意を持って和子の手伝いに励むのだったが。




***

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