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ユールの黒嵐  作者: イチシメ ケイスケ
4/5

⚠️この話は読まないでください。

注意⚠️

この話は飛ばしてください。すみません、、、

明くる朝、セイリクはいつもより早く目を覚ました。

辺りはひっそりと静かで、心なしか街のざわめきも遠い。


胸に重くのしかかる不安を抱えながら、彼はダイニングへと向かう。

母はいつものように、黙々と朝食を用意していた。


今日は珍しく家族3人で朝食をとった。

若干朝食が豪華な気がする。

母親の、さりげない応援の気持ちだろうか。


隣国カーシュ侯国と緊張状態にあることもあり、

最近のカストルの軍隊はかなり厳しいという噂だった。

上下関係は激しく、訓練は生き地獄だと。

平気で死者が出るらしい。


思い出すたびに、胸の奥から「行きたくない」という声が大きくなる。


心の声に抗いつつ、入隊式用の正装鎧を身につける。鎧は重い。


「大丈夫。なんだかんだ、お前はうまくやる。そういう奴だろ、昔からな。」


「私たちはずっと応援してる。大丈夫。2年後にまた会えるよ。」


家を出る前、両親には激励の言葉を貰った。

言葉に嘘はなく、胸がじんわりと温かくなる。

素直に嬉しかった。

自分は恵まれているなと思う。


「じゃあね。」


セイリクはいつも通りの言葉を口にし、少し寂しそうに、家を出る。


入隊式は「黒翼ホール」と呼ばれるカストル城内中央の大広間にて行われる。

セイリクの同期およそ120人は、ホールの門前に集められる。


セイリクは真っ直ぐ黒翼ホール前の門に向かった。

セイリクがホールの門前に着いた時には、既に70人ほど来ていた。

そのほとんどが暗い表情をしている。

やはり皆、似たような気持ちのようだ。


兵士らしき男が2人、門の前に立っている。見た目がいかつい。雑談でもすれば殺されそうだ。


遠くにはシオンがいた。ピクリともせず立っている。側に行きたかったが、距離的に近づけなそうだ。見る限り、エリンコはまだ来ていないらしかった。


「只今より、点呼を始める。隊員番号と名前が呼ばれたら、大きな返事をすること!」


門の前に立っていた男の内の1人が叫んだ。


―― 「4701 。エリオン・カルン!」


「はいっ!!」


大きな声をあげて手をあげながら前へ出てきたのは、

あのカルン家の長男坊、エリオン。

01で終わる番号だから、おそらく新兵代表だろう。


カルン家は領主に次ぐ格式を誇り、

何代にもわたって政治・軍事の重職を務めてきた名門である。


エリオンの父親ギリオンはタルノリ領大評議会議員を務め、

カストル城および領地防衛の全般を取り仕切る。

カストル城内ではかなりの大物である。


ところでカルン家は、貴族にしては珍しく評判が良かった。

実際、ギリオンの活躍ぶりは度々噂になるほどだ。


そんなカルン家の長男、エリオン。顔を実際に見るのは初めてだった。


いかにも貴族らしい整った身なりをしている。かっこいい。洗練された感じがする。

おそらく小さい頃から父親に叩き込まれたのだろう。


―― 「4702。ブレン・タルマー!」


「はい!」


次に呼ばれたのはタルマー家の次男坊、ブレン。

タルマー家もまた貴族だが、家自体にカルン家ほどの知名度はない。


タルマー家が有名なのは、ブレンの兄、すなわちタルマー家の長男アドラニルの存在故である。


アドラニル・タルマーは、狼のような鋭い感覚と一度獲物を逃さない執念深さから『鉄の狼』という異名を持つ。

彼がまず有名になったのは2950年晩夏。

盗賊団壊滅作戦での出来事だった。


当時、タルノリ領東方の山岳地帯で横行していた山賊を殲滅するという作戦が実行された。


当時のアドラニルはまだ一兵士に過ぎなかったが、

作戦を無視して1人相手の陣地を突き止め、

片手刀と狼牙のような刃 “裂狼刃” を駆使してあっさりと首領以下百余名を討ち取ってしまったのである。


このたった一晩の出来事によりアドラニルの名は瞬く間に広まった。


アドラニルはその後みるみる昇格していった。作戦を無視したにも関わらず昇格したというのは異例の出来事であった。それほど彼の腕は立っていたのである。


しかし彼の戦い方は卑怯かつ残虐で、敵対勢力のみならず味方部隊内にも恐怖を植え付けた。


これらが、彼が『鉄の狼』と呼ばれ出した理由だ。


そんな兄を持つおかげで、ブレンは初めから有名人だったのである。


鋭い目つきで真っ直ぐ前を向いている。『鉄の狼』の弟、というのがしっくりくるような顔立ちだった。呼ばれた後、彼はエリオンの後ろに並んだ。


―― 「4703。レオニル・ヴァルデン!」


―― 「4704。…」


その後も貴族の者が呼ばれ続け、しばらくするとそうでない者も呼ばれ出した。


―そしてついに、その時は来た。


「4782。セイリク・ハルナード!」


「はい!」


可能な限り大きな声で返事をし、前に出る。この場にいる全員が同じことをやるのだが、何気に緊張する。セイリクはぎこちない足取りで、前に呼ばれた者の後ろについた。


点呼は続く。緊張のピークが収まったセイリクは、何か忘れている気がした。


「4798。エリンコ・エレストラ !」


そうだった…!エリンコの姿が見えない。

あれほど今日を待ち望んでいた彼だ。

来ていないのには、余程の理由があるに違いなかった。


ピリついた静寂が走る。

門の前の兵士はピクリともしない。


「4799。ロサン・マールト!」


次に移ってしまった。

エリンコは何をしているんだ!

セイリクは不安でいっぱいになった。

しかし何事もなかったかのように点呼は続いた。


「4818。シオン・ヴァレ!」


「はい!!」


シオンの番がきた。

普段は割と静かなシオンが想像以上に大きな声だったので驚いた。


シオンは最後の方で呼ばれた。孤児は最後。そういう慣例だ。


こうして4821まで、121名の点呼は終わり、ついにエリンコは姿を現さなかった。


一同は可能な限りピシッと並んでいる。誰も、音一つ立てない。


〈バシッ!〉


突然背後で大きな音がした。


「列が乱れているだろうが!!」


後ろの方で誰かが怒られている。鞭で叩かれたらしい。こわいこわい。セイリクは余計動けなくなった。


そろそろ門が開く。入隊式の始まりだ。いや、これは地獄の始まりなのかもしれない。

お読みいただきありがとうございます!

評価等、してくださると嬉しいです!

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