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面白いとは何か

作者: YB

1. はじめに


「面白い」と感じる瞬間は、日常のあらゆる場面で見られる。しかし、その“面白さ”の質がいつも同じわけではない。たとえば、繰り返し使われたギャグは“おもしろい”を通り越して飽きられてしまうこともある。一方で、突発的にアイデアがひらめいたときや、まだ言葉になっていない何かが明確化されるとき、“感動するほど”面白いと感じることがある。本論文では、こうした「面白さ」の変化や消費現象を整理し、“潜在記憶の言語記号化”という切り口から生まれる感動の仕組みを考察する。さらに、「cheap化」という概念と、潜在記憶にある動作観察記憶を言語化する「プラキシノスメモリー」の意義を示し、AIと人間の創造的活動の差異について論じたい。



2. 潜在記憶と顕在記憶の区分


潜在記憶とは、まだ言語化されていない、あるいは意識化されていない状態の記憶を指す。これは無意識に近い領域にあり、個人が過去に体験したが、明確な形で思い出されていない情報を含む。これに対し、顕在記憶は、言語や概念に変換され、明確に意識化されている記憶である。


たとえば、誰かのギャグを思い出して笑うとき、それはすでに言葉として形を持った記憶を呼び起こすプロセスであり、顕在記憶の活用といえる。一方、言語として整理されたことのない実体験や感覚は潜在記憶に存在していると考えられる。



3. 「面白い」と「感動するほど面白い」の差異


本論文では、顕在記憶の呼び起こしによる楽しさを「面白い」と定義する。一度言葉になったギャグやエピソードを思い出し、「またあれ面白かったな」と振り返るときの感覚である。これに対して、まだ言語化されていない潜在記憶が初めて形を得たときに生じる強い興奮や驚きを「感動するほど面白い」と呼ぶ。


この区分は「新鮮さ」の度合いに起因する。人間は意識化されていない領域に大きな情報の蓄積を抱えており、それが予想外の仕方で言語として立ち現れるとき、既存の枠組みを超えた体験が生じる。結果として、単なる笑いや興味を超えた“感動”を得ることができるのである。



4. 「cheap化」の概念と進行


一度言語化され、顕在記憶の状態になった「面白い」は、繰り返し消費されるうちに新鮮さを失っていく。これを「cheap化」と呼ぶ。テレビのバラエティ番組で何度も放送されたギャグや、SNSで使い古されたフレーズが、やがて飽きられて陳腐化していく現象が典型例である。


cheap化が進むプロセスは、「面白い」という感覚が生まれる仕組みが、ある種の“意外性”や“新規性”に頼っていることを如実に示す。周囲の人々が何度も同じ言葉を使い、それを認知し尽くすとき、もうそこには目新しさが残らない。こうして「面白い」は「面白くない」に不可逆的に移行する。



5. 「プラキシノスメモリー」――動作観察記憶と言語化


潜在記憶には様々なタイプが存在すると考えられるが、その一つが「動作観察記憶」である。これは、赤ちゃんが親の動きを見て学習するような非言語的プロセスの蓄積であり、行動や身体動作を通じて獲得される記憶といえる。これらは普段、意識的に言語化されていないため、潜在記憶として眠っていることが多い。


この“動作観察記憶”を言語記号化し、思い出す現象を「プラキシノスメモリー」と呼ぶ。赤ん坊の頃に自然に身につけた身体の使い方や、周囲の人間の所作を真似ることで得た知識を、成長したのちに言語的に整理できたとき、人は「なるほど、こういう原理だったのか」と大きな驚きや感動を覚えることがある。この瞬間こそが、潜在的な動作観察記憶の可視化=言語化による“感動するほど面白い”体験である。



6. AIと人間の創造性の差異


現在のAIは、基本的に過去に言語化・データ化されたテキストや画像等を学習し、その統計的パターンをもとに新しい情報を生成している。すなわち、AIが扱うのはすでに顕在化された情報(≒顕在記憶に近いもの)が中心である。


したがって、AIが新規性を生み出すことは可能でも、「まだ言葉になっていない潜在記憶を無意識から突然顕在化させる」というプロセスは難しいと言える。AIは学習済みデータの枠を越え、まったく未知の身体的・感覚的体験を独自に取得することができないからだ。


一方で人間は、潜在記憶(特に非言語的な動作観察記憶)を自らの身体経験と結びつけて発展させ、それを後になってから言葉として捉え直す機能を持っている。これが“感動するほど面白い”を生み出す鍵であり、AIと人間の創造性における決定的な違いだと考えられる。



7. 結論

本論文では、「潜在記憶の言語化」こそが“感動するほど面白い”を生み出す源泉であるという仮説を提示し、その具体例として「プラキシノスメモリー」を示した。これは、赤ちゃんの頃から培った動作観察記憶を、後に言語的理解へと変換する際に感じる大きな驚きや喜びのことである。


同時に、一度言語化された「面白い」は繰り返し消費されるとともにcheap化が進行し、やがて陳腐化してしまう。この不可逆的なプロセスは、世の中の多くの表現や流行にも当てはまる普遍的な現象である。また、AIが生成する面白さは、あくまで既存データ(顕在記憶)のパターン組み合わせに基づくため、潜在記憶特有の“初めて言葉にされた”際の鮮烈な衝撃を実現するのは難しい。


こうした考察から、“新しい感動”を追い求める人間の創造力は、依然として自身の身体感覚や非言語的体験を掘り下げることに深く根ざしていると言える。今後の研究においては、潜在記憶や動作観察記憶をより体系的に理解し、それを言語化するプロセスを解明することで、人間の創造性の核心に迫れる可能性があるだろう。


別に研究はしていないけど

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