8.冒険者との出会い
8.冒険者との出会い
「それでは、椅子に座ってください。出発しますよ。」
ハコブは、馬車の牽引を外した後、エリスさんを車内に招き入れた。
はじめエリスさんは興味津々の様子で、つり革や降車ボタンを押していたが、
ハコブのバス車内のスピーカにつなげたインカムの声を聴き、
運転手席の後ろの席に座った。
その様子を確認し、ハコブはバスを出発させた。
バスは人通りのある町中を走るため、10㎞/h位の最徐行で昨日入ってきた門まで進む。
門の所には列があり、カイルが警備をしていた。
ハコブはバスを止め、
車外マイクに切り替え、カイルに、
「これから町長たちの薬をクレメント町まで取りに行く、道を開けてくれないか?」
と話しかける。
カイルは車内の様子を確認した後、物珍しさに集まってきていた野次馬をどかしてくれた。
「カイル、ありがとう。」
バックミラーでカイルを見ると、手を上げていた。
その後、バスは町の門を出て、スピードを50㎞/hほどに上げる。
「は、早いわね、景色がすごい勢いで流れていくわ。」
と、初めてバスに乗った感想をエリスさんは話す。
「もう少しスピードを上げます。
席から立たない様にしてください。」
ハコブはバスを60㎞/hほどに上げた。
バスの横揺れは大きくなる。
ハコブは馬車の轍にとらわれない様、しっかりとハンドルを操作する。
街道にはところどころ、歩いている人がおり、まれに荷馬車が走っているが、
閑散とした田舎の森林に囲まれた泥道と言った感じだった。
泥道は徐々に登り勾配になり、ところどころ、道が細くなってくる。
ところどころ、冒険者も見かける。
やがて、フラン町から1時間ほどの所で、昨日馬車が襲われていた地点に到着した。
冒険者数名がその場所にいた。
ハコブはバスを止め、
「昨日ここで馬車が襲われていたんですよ。」
とエリスに話す。
そうしていると、1人の冒険者が近寄ってきて、
運転席横の窓をたたく。
ハコブは窓を開け、
「どうしたんですか?」と声をかける。
「昨日馬車を救助された方ですね。
ああ、エリスさん。」
「あら、銀の鍵のゲーリングさん、お疲れ様です。」
いつの間にか運転席の横に来ていたエリスさんが、
その冒険者に声をかける。
「彼のチームは、よく馬車の護衛をしてもらっている方です。」
「今回、警備の依頼を受けることが出来なくて、
あのようなことになってしまい申し訳ない、奥さん。」
「旦那も娘も命は助かったので、悪く思わないでください。」
「そう言っていただけるとありがたい。」
ハコブは町長達に使う薬を急遽クレメント町に取りに行くことを話した。
「昨日馬車を襲った、ボスと思われる、知能の高いメイジゴブリンの目撃情報がありますので、
気を付けてください。
ギルドにも、討伐依頼が出ています。
何なら警備を1人つけますか?」
「ありがたいわ、お願い。」
エリスが答える。
ゲーリングは冒険者の1人に声をかける。
「リリーが一緒に行くことになったので、よろしくな。」
ハコブは、ドアを開けると1人の女戦士の恰好をした冒険者が、バスに乗り込んでくる。
「これがうわさに聞いた新型馬車か。
リリーと言う、よろしくな。」
「よ、よろしくおねがいします。」
男っぽい挨拶をされたハコブは、少し引き気味になっていた。
ハコブは、リリーに席に座るようにお願いをし、
リリーが席に座るのを確認してバスを再出発させた。