疑わしい関係
奥の寝室からプリシラが姿を現したとき、心底ホッとした。亜麻色の髪に空色のリボンをつけ、オズオズとこちらにやってくる。なんだかやつれた笑顔だ。
パトリック・ドトーに女主人を預けたことをずっと不安に思っていた。
「ああピーター、来ないんじゃないかって思ってたのよ。あなたがいなくて、どれだけ心細かったか……」
プリシラがいきなりピーターをひしと抱きしめる。
慌てて抱擁をとくと、彼女は涙を浮かべてピーターを見ていた。打ちひしがれたような、不治の病におかされた娘のような可哀っぽい様子だ。
それからパトリックと姉の刺すような視線。
ピーターは咳払いをして、まっすぐパトリックを見た。婚約者の前で王女が騎士と熱い抱擁など交わすべきではない。普段のプリシラなら、こんなことは絶対にしないのに。
一体彼女に何があったのだろう?きょうだいでプリシラをいびっていたのだろうか。とにかく、パトリック・ドトーとの生活は、よっぽどこたえたようだ。
「彼が軍隊を連れてきてくれたのよ。心強いでしょう?」
プリシラが弱々しい笑みを浮かべ、偽の婚約者に言う。
「彼と、ピーターと話したいわ。悪いけれど二人にしてくださる?」
パトリックは素早く部屋から退室した。マーガレットは優雅に立ち上がると、一瞬睨むように二人を振り向く。
二人っきりになると、王女はたちまちくつろいで、ニコニコと笑い出した。ピーターに会えたことが嬉しくてたまらないようだ。
プリシラの興奮をよそに、ピーターはなんだか不安だった。パトリックとその姉の悪意を感じ取っていたのだ。
「それで、プリシラ様は無事ですか」
「ええ、とてもよ。とても」
プリシラが上の空で答える。
「ねえ、奥の私の寝室に行きましょう。ここはドトー卿の部屋なの。なんだか居心地が悪いわ」
二人が部屋で話したことの一切が政治的なもの、実務的なものであった。というのも、プリシラは一刻も早くドトー卿の監視下から逃れて自分の地位を確かなものにしたかったのだ。
だが、ことはそう簡単にはいかないだろう。まず二人で相談して婚約解消の時期を見計らわなければならない……