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同じだね…

作者: 星賀勇一郎





ボクは森という場所で生まれたらしい。


おかあさんがそう言ってた。


おとうさんのことは、よく知らない。


おかあさんもどこにいるのか、知らないって言う。


でもボクは平気なんだ。


毎日、花のにおいをかいだり、ちょうちょさんと飛び回ったり、そうやって遊んでいると楽しいからだ。






ボクは今日もいつものきりかぶに座り、おひさまがちょうど頭の上に来るのをまった。


おひさまが真上にくるといつもちょうちょさんたちがやってくる時間だ。


森のはずれにあるこの野原はボクたちの秘密の遊び場だ。


おかあさんやおねえちゃんたちにも教えてない。


あれ、おかしいな……。

ちょうちょさんたち遅いなぁ……。


おひさまはボクの頭の上をとっくに過ぎてしまった。


食べ過ぎてうごけないのかな。


ボクもそういうことがたまにある。


おかあさんが明日の分にしなさいって言うのにおいしそうでついつい食べてしまうといつも動けなくなる。


真っ赤なりんごやとれたてのお魚。


ちょうちょさんたちが来るまでりんごとお魚の夢を見よう。


ボクは目を閉じてお花畑に寝ころんだ。






ボクは鳥さんたちの声に目を覚ました。


あぶないよ。

あぶないよ。

早くしないとみんな焼けちゃうよ。


どうしたの、鳥さん。焼けるって何……。

なにがあぶないの……。


ボクは飛び去っていく鳥さんに大声で聞いた。


鳥さんたちにはボクの声は聞こえないみたいだ。


ボクは森を見た。

ボクの森は赤くなっている。


森がおこってるのかな。


イタズラをしたボクをおこるとき、おかあさんは少し赤くなる。


おかあさんより赤いや……。

何におこっているのかな。


ボクは森に聞いてみようと思った。






森へ入るとボクのカラダは熱くなった。


おひさまより熱い……。


赤いものが森の木や草たちをのみ込んでいる。


これが鳥さんの言ってた「焼ける」なんだ……。


ボクの目の前で「焼ける」が次々と木をなぎ倒していく。


そうだ、たいへんだ。

おかあさんたちがのみ込まれる。


ボクは「焼ける」に向かって走った。


でも「焼ける」はボクの前に、熱いかべを作って通してくれない。


ボクは「焼ける」におねがいした。


おねがいだ、ボクをおかあさんのところへ行かせて。


熱い……。

熱いよ、おかあさん。


ボクのカラダは言うことをきかないで、勝手に森から飛び出した。


おかあさん、おかあさん。






ボクはどこをどう歩いたのか覚えていない。


「焼ける」はボクの森を丸ごとのみ込んでしまった。


それから何日もボクはおかあさんを探して森の中をあるいた。


おかあさん……。

どこにいるの。

おなか空いたよ……。


ボクは気が付くと森のはんたいがわまで来ていた。


そこには見たこともない食べ物がいっぱい実っていた。


ボクはその赤い実をちぎって食べた。

幾つも幾つもちぎって食べた。






その時、バーンという音がした。


その音はボクのすぐそばにあった赤い実をぐちゃぐちゃにはじき飛ばした。


殺される……。


ボクは初めてそう感じた。


次の瞬間、森へ向かって走り出した。


ボクの後ろで何度も何度も、あの音が響いた。


ボクは振り返りもせずに森へと走った。






また森の中をボクは歩いた。


おなかが空いたら、おかあさんが教えてくれた、はっぱの付いたツルをひっぱり土の中のイモという実を食べた。


ノドが乾いたら水のにおいのする方へ歩く。


すると必ず小川や池がある。


これもおかあさんが教えてくれたことだ。






ある日、ボクは川で水を飲んでいると小さなリスさんに出会った。


リスさんはボクを見て、なぜかおどろいていた。


ボクのおかあさんを知らないかい。


ボクはリスさんにたずねてみた。


キミのおかあさんは森の火事で焼けてしまったよ。


ボクはリスさんの言うことがわからなかった。


火事ってなんだい……。


火事っていうのは、赤い、熱い、森を焼いてしまうものだよ。


リスさんはボクのまわりをクルクルまわりながら教えてくれた。






ボクはあの日の「焼ける」を思い出した。


あれが火事っていうのかい……。

でも、焼けてしまうとどうなるの。


ボクはクルクルまわるリスさんの真ん中に座った。


焼けてしまうとなくなっちゃうんだよ。


だからキミはもうおかあさんにはあえないのさ。


リスさんはそう言って近くの木の枝にのぼった。


おかあさんはいなくなってしまったんだ。


ボクは少し悲しくなった。

リスさんにばれないように少しだけ泣いた。






ねぇ、リスさん。

ボクと友達になってくれないかい。


おかあさんがいなくなってボクは少しさみしいんだ。


ボクはリスさんに勇気を出して言ってみた。


リスさんはボクを見て笑って言った。


じょうだんだろ。

ぼくはキミと友達にはなれないよ。


どうしてだい。

ボクの友達になって色々教えておくれよ。


ボクはリスさんに手をすり合わせてお願いした。


ダメだよ。

だってキミはいつか、ぼくを食べてしまうから。


リスさんはそう言うと枝から枝へ飛び跳ねるようにどこかへ行ってしまった。






ボクはリスさんを食べたりしない。


リスさんはボクの方がカラダが大きいから友達になるのイヤだったんだな。


ボクはそう思った。

そしてまた森を歩き出した。


おかあさんがいなくなったのならボクは友達を探そう。


寂しくないように友達をいっぱい探そう。


ボクの足は軽くなった。


次はどんな友達に会えるだろう。


キレイな色の鳥さんや頭にツノがある鹿さんにも出会った。


みんなボクに色々なことを教えてくれた。


ボクが熊っていう生き物だってこと。


今は夏という季節だってこと。


森の外にはニンゲンって生き物が住んでいるっていうこと。


そのニンゲンはボクたちを見つけると鉄砲という武器で攻撃してくるっていうこと。


そしてそのニンゲンは火っていうものを使うっていうこと。


おかあさんを焼いた火はそのニンゲンがつけたということ。






ボクが畑というところに入ってニンゲンが作っているトマトという実を勝手に食べて、おこったニンゲンはボクに鉄砲を撃ってきた。


やっとボクにはそれがわかった。


鉄砲にあたると何日も何日も、血が出て痛いらしい。


鉄砲に撃たれたことのあるイノシシさんがおなかの傷を見せながら言ってた。


ボクもとがった木の枝が刺さって血が出たことがあった。


そのときボクは泣きながら走って帰った。


一晩中おかあさんはボクの傷口を舐めてくれた。

それでも何日も痛かった。


もうボクのおかあさんはいない。

もう傷口を舐めてもらえない。


だから今はもっともっと痛いはずだ。


ボクは気をつけようと思った。






ボクのカラダは毎日大きくなっているらしい。


歌のうまい白鳥さんがいつもそう言う。


お魚が自分で捕れるようになったボクは、お礼にいつもお魚を分けてあげる。


ある日ボクは白鳥さんに言ってみた。


白鳥さん、ボクと友達になっておくれよ。


白鳥さんはすまして水浴びを続けながら言う。


もう友達じゃないか。

だけど私は水の中、キミのそばにはいけないよ。


どうしてさ、ボクのとなりで歌を教えておくれよ。


ボクはお魚を食べながら白鳥さんにそう言った。


私がキミのそばにいけば、キミは私を食べてしまうだろ。


白鳥さんはそう言うと羽を伸ばして飛び去った。






ボクは白鳥さんを食べたりしない。


白鳥さんはボクの方が大きなお魚を捕るのが上手いからいやなんだ。


ボクはそう思った。

そしてまた森を歩き出した。


ボクと同じようにお魚を捕るのが上手い友達を探そう。


ボクの足はまた軽くなった。


森をどんどん歩いて歩いて知らない場所に来てしまった。






少し行くと森はそこで無くなり、いつか見たような畑が広がっていた。


ニンゲンの住んでいるところだ……。


ボクは珍しそうに木の陰から畑を見ていた。


すると向こうからワンワンと吠えながら誰かが走ってきた。


彼はボクの前に来るとおこった顔をして言った。


ここはお前の来るところじゃない。

殺されたくなかったらさっさと森へ帰れ。


ボクは不思議そうに白い彼に言った。


キミがボクを殺すのかい……。


オレじゃない。

オレを飼っているニンゲンがお前を殺すんだ。


白い彼はボクの足元で大声でそう言った。


ニンゲン……。

キミはニンゲンと暮らしてるのかい。


オレは犬だ。

ニンゲンにお前たちが近づいたら知らせるのが役目なんだ。


早く森へ帰れ。

そして二度とここには来るな。


彼がそう言ったとき、あの時と同じバーンという音がした。


ボクは白い彼の方を振り向きながら森の中へ走り出した。






ニンゲンと暮らしている生き物がいる。


ボクはなぜか、少し嬉しくなった。


森で聞いたニンゲンは、鉄砲や火を使いボクたちを皆殺しにしてしまう恐いものだった。


でも白い彼はニンゲンに飼われていると言っていた。


よし、明日も彼の所へ行ってみよう。


ボクは星を眺めながらそう思った。






ボクは昨日と同じ木の陰に立った。


彼は畑のそばで丸くなって昼寝をしていた。


しばらく見ていると彼はボクに気が付き、今日はゆっくりとボクの方へ歩いてきた。


来るなと言っただろう……。


彼はボクに低い声で言った。


ボクは畑を荒らしに来たんじゃないよ。

キミと友達になりたくて。


ボクの声は弾んでいた。

ボクに二度も近づいてくれたのは彼が初めてだったからだ。


オレと友達に……。

はっはっは。

それは無理な話だ。


彼はボクの前を、右へ左へ歩きながら言う。


どうしてさ……。

ボクよりカラダが小さいからかい。


それともボクよりお魚を捕るのがヘタだからかい。


彼は呆れた顔でボクを見た。


そんなことじゃない。

オレとお前は違うんだよ。


何が違うのさ。

泣き声かい。

走る速さかい。


ボクは必死で彼に言った。


わかった。

君は体が白くて、ボクは黒いからだね……。


彼は少し困った顔をしていた。


とにかく帰れ、ニンゲンが気付く。


彼はそう言うと畑の方に帰っていった。






ボクと彼、何が違うのだろう……。


ボクは星を見ながら考えた。


ボクは仲良くなりたい。


リスさんとも、白鳥さんとも、彼とも……。


そして……ニンゲンとも。


明日またいってみよう。


彼にニンゲンと仲良くする方法を聞いてみよう。






次の日ボクは寒くて目が覚めた。


もうすぐ鹿さんたちが教えてくれた「冬」が来るのだろう。


「冬」は森を白くしてしまうらしい。


いつもの川で顔をあらう。


昨日よりも少し水が冷たい気がした。


近くの木の枝に下がる果物をちぎって食べた。


飛び上がっても届かなかった枝にも今じゃ楽に手が届く。


ボクは大人になっているのだろう。


ボクに足らないのは友達だけだ。


彼のところにいってみよう。






ボクは木の陰にまた立って彼のいた場所をみた。


今日は彼はいなかった。


おかしいな……。


ボクは辺りを見回した。


そのときボクのすぐそばでバーンと鉄砲の音がした。


それと同時に彼の声がした。


早く走れ。

ニンゲンはお前を撃つ気でいる。


ボクを。

ボクは何もしてないよ……。


ボクは森へ走りながら彼にそう言った。


いいか、もう来るな。

次は必ず殺されるぞ。


彼はボクのすぐ後ろを走りながら言った。


ボクはキミと友達になりたいだけなんだ。


ボクは森の中に何度も響く鉄砲の音を聞きながら走り続けた。






どのくらい走ったのだろう。

もう鉄砲の音も、彼の姿もない。


吐く息が白く、カラダからは湯気が出ていた。


小川を見つけ水を飲んだ。


ボクは小川のそばで寝そべって空を見た。


とっくに日は暮れ、空にはたくさんの星が出ていた。


彼が逃がしてくれたんだ……。


ボクにはそれがわかった。


しばらくニンゲンに近づくのはやめよう。


ボクはそう思った。






その日ボクは川でお魚を捕っていた。


水が冷たくなったからなのかな。

お魚がいない……。


それどころか、森の中の果物も木の実もなくなっている。


ボクはおなかを空かせて森の中を歩き回った。


誰かに聞いたのを思い出した。


「冬」が来ると食べ物が無くなるから、みんな暖かくなるまで眠るのさ。


ボクもそうしなきゃいけないのかな……。


でもこんなにおなかが空いてちゃ眠れないや……。


ボクは森の中を歩き回った。

何日も何日も……。






ふと、木の枝にリスさんを見つけた。


そのリスさんは手に木の実を持っていた。


いいなぁ、リスさん……その木の実ボクにも分けてよ。


ボクはリスさんを見上げながらたのんでみた。


冗談じゃないよ。

ぼくもこれから眠るのに食べ物を集めてるんだよ。

キミの分なんてどこにもないさ。


リスさんは意地悪そうにボクに言った。


次の瞬間、ボクは木の枝ごとリスさんを手ではじき飛ばした。


ボクは地面に落ちたリスさんをもう一度手で叩き……、口に入れた。






気が付くとボクはリスさんを食べてしまっていた。






ボクは自分のしたことが恐くなった。


友達になりたかったリスさんを食べてしまうなんて……。


ボクは泣きながら一晩中、森を歩き回った。


ボクはひどいやつだ……。


ボクなんか死んでしまえばいいんだ……。






ボクは大きな木の下で目が覚めた。


疲れてこんな所で寝てしまっていたのだ。


ふと気が付くと辺りは真っ白な世界になっていた。


「冬」が来たんだ……。


ボクは白い森を初めて見た。

少し嬉しくなって白い地面を踏んでみた。


水よりも冷たい……。


そして足跡をつけて一人で遊んだ。


手ですくってみた。


寝転がってみた。


カラダが白くなる……。


ボクは楽しくて楽しくて声をあげて遊んだ。


友達がいればもっと楽しいのに……。


ボクはそう思って、ふとある考えを思いついた。






ボクはいつかの木の陰に立った。


ニンゲンの畑も同じように真っ白だった。


ボクは彼に会う準備をした。


体中に白いものをつけた。


これで彼と同じだ。

今度こそ友達になれるぞ。


ボクはゆっくりと木の陰を出た。






彼は勢い良くボクの方に走ってくる。


これで彼はボクと友達になってくれる。

一緒に遊べるんだ。


ボクは両手を広げて彼に合図した。


これでボクもキミと同じだよ。


ボクがそう言った瞬間、彼はボクの脚に噛み付いた。


痛い。

何をするんだ。

噛み付くなんてひどいじゃないか。


ボクはそう言って彼を手ではじき飛ばした。


彼はボクに飛ばされて白いものも上に転がった。


しかし、彼はまた立ち上がり今度はボクの腕に噛み付いてきた。


何をするんだ。

友達だろ……。

ほらキミと同じ色になったよ。


ボクは彼をもう一度振り飛ばした。


それでも彼はまたボクに向かってくる。


ボクの振り回した手が彼の顔に当たった。


彼は短い鳴き声を上げてボクの前に倒れた。


彼は乱れた息を白くしながら、


オレには守るものがあるんだ。

ニンゲンに飼ってもらってる以上、ニンゲンを守らなければいけない……。

お前には守るものはあるか。


そう言った。


ボクには……、ボクには……。


ボクは言葉に詰まった。


それがオレとお前の違いさ……。


白い地面は彼からあふれ出る血でどんどん赤く染まっていった。


ボクは彼を助けようと手を伸ばした。


そのとき、バーンという音と共にボクのカラダに激痛が走った。






ボクは彼を下敷きにしないように地面に倒れた。


彼はボクの目を見てた。

ボクも彼の目を見て笑った。


ボクにも守るもの……。

あったよ……。

友達さ……。


ああ……、友達だ……。


彼は涙を流しながらボクに言った。


バンバンと何度も何度もニンゲンはボクに向けて鉄砲を撃つ。


その度にボクの背中に激痛が走る。

ボクは痛くて体をよじる。


でも鉄砲が彼に当たらないようにボクはかべになる。


ボクは友達を守る。

キミを守る……。


ボクのカラダからも赤い血が流れ出す。


彼の血とボクの血は白い地面をどんどん赤く染めていく。


ボクはその赤い血を彼と見ながら、嬉しくなって笑った。


そしてボクは彼に言った。






同じだね……。








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