平和国道
かつて友好関係にあったワッパ王国とシニミ帝国は、平和国道という道で繋がっている。
両国まで真っ直ぐと続く平和国道。その幅は100メートル。
いかなる身分であろうと、この道中で争うことは断じて許されない。昔は戒めとして機能していたこの法律は、今では違反したと決めつけた相手から金銭を巻き上げる機能と化していた。
現在、ワッパとシニミの関係は最悪だ。
両国民宿の誰もが、いつ戦争になってもおかしくないと不安に思っているほどに。
きっかけはワッパ国内でシニミ人が無差別な殺人を繰り広げたことだった。
犯人の男は送環後、親族と合わせて公開処刑が行われた。
しかしそれでも、被害者の親族の憤りは収まらなかった。早々に処刑したことには何か理由があると疑い、男はなんらかの任務を受けていたのだと唱えた。
疑いから出た嘘は真に変わった。
真を信じる者たちはシニミに対して強い嫌悪感を抱いた。
それによりシニミ人は報復を恐れて警戒心を覚えた。やがてシニミの脅威から国を守ろうとする意思は正義の意志へ変わり、ワッパを悪の国だと認識するようになった。
まだ戦争には発展していないが、必ずそうなる。
聡明な者たちは一足早く、国外へ避難していた。
「前進!」
たった今、ワッパからシニミに向けて商人を中心とする隊列が進み始めた。
関係が悪化して以降、商人を護衛するという名目で騎士が同行するようになった。
前述通り、平和国道での争いは御法度だ。
それなのに騎士を同行させるのはどうなのかと、最初の頃は言い争っていた。しかし今では騎士の同行は義務となっていた。
「…戦争、起こりますかねぇ」
「起こるだろ。俺たちは商人だが両国の関係を保とうと尽くした。結果、平和ボケしてるだの反戦派だの罵られて散々だ。国を守るためとか言って軍に金積んで、もう戦争したくて我慢が効かなくなってんだろ」
「言葉を慎め!」
雑談する商人たちに騎士が怒鳴って槍を向けた。
「申し訳ございません」
戦うしか能のない人種が、なぜ商人などに武器を向けられるのか。昔なら指摘されていただろう。
しかし武器を向ければ相手が怯えて言う通りになると判明してからは、それらの地位が高くなった。
彼らとはまた別の商人が、騎士たちに目を付けられた。
「なんだこれは?」
「そ、それは私たちの畑で採れた──」
「品種なんかどうでもいい。なぜ野菜をシニミに売ろうとしてるんだ。我々の国には腹を空かせた人間が大勢いるんだぞ」
「賃金を稼ぎ、食い繋いでいくためにはこうするしか…ぐへ!」
騎士は血税で用意されたガントレットを装着した拳で、商人を殴り飛ばした。
「この売国奴め!」
野菜を売ろうとしていた商人は徹底的に殴られた後、商品と共に国に送り返された。後日、都合のいい法律によって断罪されるだろう。
しばらく歩き続けると、シニミからの商人と騎士が正面に見えた。
ワッパの騎士は目を鋭くして警戒した。
シミニの騎士は商人より前を歩きながら、道を塞ぐように広がった。
「「止まれ!」」
ワッパとシミニがお互いに足を止めた。
「迷惑行為とは、流石はシミニだな」
「国道を出て道を譲ったらどうかね、愚かなワッパ人よ」
平和国道から出た者は、魔法の障壁によって中に戻ることはできない。道なりに沿ってどちらかの国に向かうことになる。だが国に属さない賊がいるため、道の外に出た者は命を奪われるのが基本だ。
「無謀な事を仰る。平和国道の外にはあなた方が排出した賊がいるじゃないか。それらの餌食になるような真似など…」
「何を言うか。犯罪の数はそちらの方が多いではないか」
「その犯罪にはシミニが携わっているが?いくら来るなと言ってもこちらに来て迷惑してるのだ。国から人が逃げないようにまともな政治をやれと、王族連中に言ったらどうだ」
両国の騎士は武器を構えた。
「困りましたね…」
「こうなると長いぞ」
騎士にとっては国の誇りをかけた口論かもしれない。
だが生きるために売らねばならない商人にとっては時間の無駄で、騎士を置いてそのまま進んでしまいたかった。
口論は3時間ほど続いた。
血が流れると感じたシミニの商人が、肉類が腐ってしまうと言って騎士の気を逸らしたのだ。
シミニの隊列は細く纏まると、動きを見せないワッパの横を通り過ぎていった。
「口論で済んでよかったですね…」
「全くだ。そろそろ別の国に逃げることでも考えるかな」
ワッパの隊列も、シミニに向かって進んだ。
平和国道。これを造った人々は今の光景を見て何を思うだろうか。




