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94.関東ピアノコンクール個人部門、その1

 

 さすがに、夜、全ての時間をホテルの部屋で、しかも生まれたままの姿で過ごすのは、体調を崩してしまう。

 本番の直前で、緊張しているなら、尚更だ。


 数時間ほど、愛おしい時間を過ごしたら、加奈子と風歌は自分の部屋に戻って行った。

 そして、僕も思いっきり熟睡して、ホテルの部屋から朝日を見ていた。


 ピロ~ンというLINEの着信。

<輝君、おはよ!!よく眠れた?>

 葉月からの着信。


<おはよう。大丈夫、ぐっすり寝た。>

 返信を送るとすぐに既読がついて。


<良かったぁ。昨日の夜、すごく寂しかった・・・。>

 葉月からの返信。


<ごめん。>

<べつに良いよ。輝君が元気ならそれで。だから、今日は私からモーニングコール。だって、加奈子と風歌は・・・。>

 確かに、朝起きるのが少し苦手な加奈子。風歌も似たようなものだから、まだ寝ている可能性が高い。


 葉月や史奈たちにもお礼しないといけないなあと思う。

 僕たちのためということで、昨日、いつもと違うホテルの夜を我慢してくれたのだから。


 しばらくののち、普段着に着替えて、僕は朝食の会場に移動する。

 そこには、元気よく手を振る葉月の姿。


「おはよ!!良かった。」

 少し安心する葉月。

 朝食のテーブルにはすでにみんなの姿が。


 自由に座っていいということなので、四人掛けのテーブルに座り、僕は葉月の隣。向かい合わせには史奈と結花という生徒会メンバーでテーブルを構成した。さらに隣のテーブルには早織と藤代さん、心音の姿も。


 みんな僕が元気そうで安心したようだった。


 朝食はビュッフェ形式のバイキング、各々が好きなものを食べる。

 ウィンナーや、ベーコン、オムレツ、パンを多めにとる史奈。


 洋食をバランスよく取る葉月と結花。


 食べ慣れた、和食とサラダを持ってくる僕。勿論、僕は、ご飯多めで。

 そんな時に。


「ふぁぁぁ。遅くなりました~。」

「おはようございまぁす。~。」

 眠そうな目をした加奈子と風歌が遅れてやってきて、一番端のテーブルに座る。

 そんな光景にニコニコ笑う。

 まあ、生徒会主催の、学校のイベントとかではなく、僕のために二人は来てくれているようなものなので、遅くなったことに関しては、誰も責める人はおらず、ニコニコと笑っていた。


 だが、二人が一緒だったら、確実に普段の学校でも遅刻しそうだなと思ってしまう。


「ついにこの日が来たね。輝君。」

 葉月はにこにこと笑いながら話しかける。


「うん。ありがとう。ここまでしてもらっちゃって。」

 僕はお礼を言うが。


「大丈夫よ。さあ、しっかり食べましょ。私も、試合の朝はいつも通りにしていたものよ。まあ、それが、試合に出ない日でも。」

 史奈がニコニコ笑って、そして、ガツガツと朝食を食べる。


 僕も、それを見て、しっかり食べるようにする。

 そして。


「朝食を食べ終えたようだね。」

 茂木の言葉に、僕は頷く。


「うん。それじゃあ、最大の関門だが、その足で、受付に向かおうとしよう。受付が終わったら再び部屋で待機。君の出番は午前中だから、部屋に居て良い。チェックアウトの延長料金も予約して、払っているから。」

 茂木はうん、うんと深く頷く。


 そして、岩島先生、加奈子、風歌、そして、原田先生を連れて、ホテルを出て、会場のホールに向かい受付へ。


 大人数だと思うが。

「人数が多いことに越したことはないさ。大丈夫だ。少年。必ず守って見せるから。」

 原田先生はいつにも増して真剣な表情。

 おそらく、バレエの時以上に真剣な表情。


 とても頼もしい。


「輝、絶対大丈夫だからね。」

 その表情を見て、加奈子も負けないと、真面目な表情。

 流石は、生徒会長で、学年トップ。原田先生と比べて、少し幼さはあるが、その瞳の色は原田先生と同じか、原田先生よりもキリッとしている。


「ひ、輝君と一緒にいるから。」

 風歌も、これから自分の発表があるのに、それは棚に上げて、僕のことを心配していた。

 それにはさすがに僕も。


「ありがとう。でも、風歌は大丈夫だから、自分の演奏に集中して。」

「うん。でも、輝君が無事でいてくれれば、同じ感じで、私もできるって信じてるから。」

 風歌は笑っていた。


 ホールにたどり着き、僕と風歌の受付を済ませる。

 昨日のうちから予約していた、個人の練習時間も変更はなく、時間通りに会場のホールの建物に併設されている、レッスン室に行けばいいことになり、僕たちはそのままホテルに戻った。


 ホテルのロビーで、昨日は来られなかったが、今日、ここに来てくれた人達と合流できた。


「ひかるん、おはよう。珍しく、部活も大会もない日曜日だから。来ちゃった。ちょっと怖いけど。」

 ドキドキしているマユこと熊谷真由子。


 彼女もまた、安久尾建設の犠牲者。安久尾の上司の反町の都合により、僕と同じで、県外の高校に進学した人物。

 出くわす可能性もあって、緊張している。


 そして。

「橋本君、おはよう。ごめんね。この時期はいろいろ忙しくて。」

 花園学園で、音楽を教えている藤田先生。音楽系のほとんどの部活の顧問を掛け持ちしている。秋は演奏会やコンクールなどなど、様々な行事が目白押しで、とても忙しいようだった。


「ありがとう。マユ。そして、藤田先生もありがとうございます。二人ともとても忙しいのに。」

 何だろうか。僕も少しドキドキしている。


「ううん。幼馴染の演奏会に行くのは当然だよ。小学校の時も来ていたよネ。」

 マユがニコニコ笑う。


「そして、連弾部門の全国コンクール出場おめでとう!!」

 マユがギラギラと歯を見せながら笑っている。

 藤田先生からもおめでとうの祝福を言われる。


「ありがとうございます。」

 僕と風歌はうんうんと、頭を下げる。少し恥ずかしい。


「これで、全員揃ったようだね。」

 その様子に、茂木はニコニコ笑っている。


「すごいな、少年、幸せ者だな!!」

 原田先生はバシッと僕の背中を叩く。それで、少し目覚めた僕、笑うようになった。


 そうして僕は、再びホテルの部屋に戻る。

「ゆっくりしてろ。時間になったら迎えに行くから。」

 そんな原田先生の言葉を聞いて、少し安心して、ホテルの部屋で待機することになった。


 舞台用の衣装に着替え、ベッドに座って目を閉じる。

 ベッドだと、寝てしまうので、移動して、机と椅子に座って少し目を閉じた。


 スーッ、ハーッ。

 この動作を何回繰り返しただろうか。


 だんだんと集中力を高めることができた。


 そして。

 ピロ~ンとLINEが鳴る。

<少年、そろそろ、時間だ、準備は良いか?>

 原田先生からのメッセージ、最後の調整の時間だ。


 僕は部屋を出て、原田先生の元へ。

 そして、ロビーで待機しているメンバーに挨拶をする。


 応援に来てくれたメンバー全員が、ここのホテルのロビーに集っていた。


「それじゃあ、行きます!!」

 何だろうか、これから戦争にでも行く、戦時中の出来事のようだ。


「うん!!頑張ってね、輝君なら大丈夫だよ!!」

 葉月の優しい、元気溢れる声。

「大丈夫っすよ、部長、何かあったらいつでも呼んでくだせぇ。」

 義信は両手で拳を作る。

「行ってらっしゃい。きっといい結果になるわ。」

 ニコニコ笑う史奈。

「気を付けてね、ハッシー!!いつもと同じで。」

 結花も元気よく笑っている。

「ひかるん、頑張れ。久しぶりに、ピアノが聞けるの楽しみにしてるから。」

 マユはとても楽しみな表情。

「行ってらっしゃい、輝君。」

 自分のことのように、ドキドキしている表情が伝わってくる早織。

「頑張ってね、輝君なら大丈夫よ、ホラ、風歌も!!」

 心音はニコニコ笑いながら、風歌に合図をする。

「ひ、輝君、一緒に、頑張ろっ。」

 風歌は緊張しているが、精一杯大きな声で、笑っていた。

「橋本さん、くれぐれもご無理なさらにように、原田先生もいますので。」

 藤代さんは丁寧にお辞儀をした。


「み、みんな、ありがとう!!本当にありがとう。」

 僕は皆に頭を下げる。


「大丈夫、輝は責任もって、守るから。今度は、私の番。」

 加奈子はポンポンと肩を叩く。譜めくりスタッフとして、僕の弾く曲の楽譜を丁寧に抱えていた。


「うん。」

 僕は頷く。


「それじゃあ、行こうか、少年。」

 原田先生の言葉に僕は頷く。


 皆に見送られ、原田先生、吉岡先生、茂木、岩島先生、加奈子と一緒にホールへと向かって行った。


 何だろうか、少し落ち着くことができた僕だった。








今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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