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93.ホテルの夜(決戦の前夜)

 

 二台ピアノ・連弾部門が終了し、ホテルへと向かう僕たち。


「よく頑張った!!これからは自由時間になるが、会場のホールには行かないように。リフレッシュするなら、ホテルと会場のホールの目の前にある、公園とか、近くに大きな駅もあるので、買い物とかはそこで。」

 茂木の言葉に頷く僕たち。


 ホテルに戻ると、丁度、チェックインの時間だった。

 茂木の指示に従って各々の部屋に入る僕たち。


「君は出演者なので、備えのためにも、一人でこの部屋を使ってくれ。鍵はこれだから無くさないでね。隣の部屋には、出演する緑さんと、井野さんが居るから、LINEで連絡を取り合うなりして欲しい。」

 茂木はそう言って、僕に部屋の鍵を渡し、部屋に案内してくれた。


「ありがとうございます。」

「気を楽にね。ゆっくり休んでいいから。あっ、夕食は各自で。といっても、君の場合、誰かと一緒の方がいいから、適当に声をかけるように指示してあるから。」

 茂木はそうニコニコ笑って、部屋を出て行った。


 ホテルの部屋の静かな時間。

 深呼吸する僕。


 ホテルの部屋から午後の日差しが若干差し込んでくる。

 秋。昼の時間が少し短くなるのを感じる。


 ベッドに座って少し休む。

 明日、確かに心配だが、期待に応えなければならない、そう思う自分がここに居る。


 そのまま、ベッドに横になり、少し寝息を立てる。


 一時間ぐらい横になっただろうか。

 空はまだ明るいが、ほとんど薄暗い。


 僕はスマホの音で目を覚ます。

<輝、ご飯食べに行くけど、一緒に行く?>

 加奈子のLINEで、そこから着信が二回。


 慌てて加奈子に掛けなおすと、加奈子がLINEの通話に出てくれる。


「ごめん加奈子、連絡もらってたのに。」

 僕は加奈子に謝ると。


「ううん。大丈夫。今出るところ。風歌も疲れて寝ていたから。」

 加奈子はニコニコしながら、電話に出てくれた。


 急いで部屋を出る僕。

 そのタイミングで隣の部屋から出てくる加奈子と風歌。

「ごめん。ごめん。待った?」

 僕は加奈子に聞くと、加奈子は首を横に振る。


「ううん。別に、私も少しゆっくりできた。」

「ふわぁ~。大丈夫。私も少し寝てた。」

 風歌が眠そうな目でこちらを見る。

 本当であれば、逆の光景。加奈子が目覚めるのが苦手なはずだが、コンクール前日。いつもと違う雰囲気。

「それはよかった。ありがとう。誘ってくれて。」

 僕はそう言って、風歌と、そして、譜めくりをしてくれるということもあって、いつもと違うことすることに緊張する加奈子ににこやかに接する。


「「うん!!」」

 加奈子と風歌はニコニコと頷いた。

 加奈子と、起きたばかりだという、風歌。さらにこちらも起きたばかりの僕の三人で、外出。

 さすがにそれだとまずい可能性も出てきたので、原田と藤代さんを連れて、ホテルを出たのだった。


 ホテルと、コンクール会場のホールの目の前に大きな公園があって、その公園を抜ければ、商店街や駅へと向かうことができる。

 夕暮れの公園の石畳。噴水を眺める。


「綺麗なところ。次はもっと余裕をもってここに来てみたい。」

 僕はそう呟くと。


「そうだな、少年。ここは地元の人達からも結構人気らしいぞ。春の桜、今の時期は紅葉の始まり、散歩コースでな。」

 原田先生は笑っている。

「詳しいですね。」

 僕は原田先生に尋ねると。


「まあ、この会場で、バレエをやったことがあるからな。それに、今日も昼間も少し見たが、人が結構いたぞ。まあ、そんな余裕はお前には無かったと思うが。」

 原田先生は頷いている。

 確かに、今朝、少し横切った程度だが、人がちらほら居たような気がする。


「大丈夫。輝はまたコンクールとかで絶対来れるよ!!」

「うん。そう、だと思う。」

 加奈子と風歌はニコニコ笑う。

「はい。今度は私とも、ピアノ伴奏していただけると。」


「えっ?今なんて?」

「えっ?ちょっと。」


 藤代さんの言葉に、加奈子と風歌は一瞬藤代さんを見るが。


「あっ。申し訳ありません。加奈子先輩と同じように、橋本さんのピアノでバレエをやりたいと・・・・。」

 藤代さんは、加奈子と風歌を安心させるように言った。


「ふーっ。」

 と、風歌。

「そうだね。輝の都合が合えばね。」

 加奈子は深くうんうんと頷く。


「おお、いいねいいね。雅ちゃんも、丁寧なのは良いが、誤解の無いようにな。」

 原田先生は笑っている。

 藤代さんも頷いている。


 石畳と噴水の公園を抜け、春になれば一斉に花が咲くであろう、花壇のような場所を横切ると、繁華街に出る。


「地元の店にチャレンジしてもいいが、コンクール前日なので、慣れているお店がいいだろう。」

 原田先生の提案に僕たちは頷き。

 どこにでもある有名な定食屋の看板に目が行き、そこに入る僕たち。


 そして、農家の伯父のいる僕とバレリーナ三人。それに該当しない、風歌も、大食いという印象はない。


 それぞれが頼んだメニューもガッツリ肉オンリーというようなメニューではなく、野菜中心のどこか懐かしさを感じるものだった。


 緊張もあってか無言で食べる僕たち。

「どうだ?元気出たか?少年。」

 原田先生は笑っている。

 このお店は僕も、雲雀川や前の住んでいた反町の地域で行ったことがある。

 いつもと変わらない味に安心し、頷く僕。

 同じような感じで、風歌も、加奈子も、食べたことがある料理を注文したのだろう。

 少し表情が緩む。


「そ、そうですね、皆さん、さっきまで、緊張してましたね。」

 藤代さんのその言葉に一同が反応した。

 緊張がほぐれたのを安心する、僕たち。


「はい。ありがとうございます。」

 僕は一緒に付いてきてくれた、原田先生と藤代さんに頭を下げる。


「ありがとう、雅ちゃん、私も緊張に飲まれるところだった。やっぱり、譜めくりは慣れないから。」

 加奈子はそう言うと。

「いえいえ、むしろ、楽譜を読む力で、加奈子先輩はさらにレベルが上がってしまいました。」

 藤代さんはそれが嬉しいのか、嫉妬しているのかわからないが、少し微笑んでいる。


「ふうっ、私もちょっと安心した。」

 風歌も胸をなでおろす。


 ここからは他愛のない会話が続く。

 このお店にはよく来るのかとか、テストの結果、文化祭の話。

 いろいろと盛り上がることができた。


 それぞれが食べ終わり、原田先生が一括で会計を済ませてくれる。

 そして、ホテルへと戻る僕たち。


「それじゃあ、ゆっくり休んでな。少年。」

 原田先生は手を振る。


「ありがとうございました。」

 頭を下げる僕。原田先生はニコニコ笑っている。

 その瞬間、何だろうか、再び緊張で、何かに震える僕。


「輝、ゆっくり休んで、その・・・・。」

「輝君、ゆっくりね・・・・。」

 それを見た風歌と加奈子は隣の部屋に入ろうとしない。

 というより、風歌も加奈子も同じ表情だ。


 そして、僕の方に近づく。

「あとで、部屋に来てもいい?」

 僕の耳元で囁く。風歌と、加奈子。


「うん。僕もそう思ってた。」

 僕はその言葉に頷く。流石に今日ばかりは、頷かざるを得ない。一人部屋でゆっくりと思っても、ここはホテル。一人では静かすぎた。


 僕と加奈子と風歌で、ニコニコと笑い合い、ホテルの部屋に入る。

 シャワーを浴びて、部屋着に着替えて。


 加奈子からLINEのメッセージを受け取り、僕はそれにOKの返事を出して、部屋の扉を開けると、加奈子と風歌がやって来た。


「輝、ありがとう!!」

「お、お邪魔しまーす。」

 加奈子と風歌はにこにこと笑っている。


「ちなみに、今日はこの二人に譲ってくれるって。原田先生が葉月たちに提案したみたいで、葉月たちも了解してた。」

 加奈子はニコニコ笑う。

 風歌も内心嬉しそう。


 僕の部屋へ加奈子と風歌を招き入れる。

 ベッドに座らせ、胸の鼓動が高鳴り、二人と唇をかわす僕がそこには居た。


「輝も緊張してるの?」

 加奈子の声、コクっと頷く、僕。


「大丈夫。輝君なら。だけど、私も・・・。」

 ここから風歌は覚醒していく。


 風歌の胸の谷間も、史奈や葉月たちと引けを取らない大きさ。平均以上ある。

 加奈子の方はバレエの衣装の時に着る下着をたくさん持っているからだろう、下着と被らないように面積の小さな下着と、体のラインがいつもドキドキする。


 深く、深く、ギュッと抱きしめる時間が続いたのだった。


 生まれたままの加奈子と風歌。

 この日、僕は本気で求めたのかもしれない。

 不安な一日が明日、始まると思うと・・・。


「輝、いつもより・・・。激しい・・・・。」

「輝くん・・・・・、す、すっごい。」


 加奈子と風歌の淡い声。


 抱きしめれば抱きしめるほど、愛おしく、温もりを感じたのだった。





今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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