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92.歌が聞こえる

 

 関東コンクールの会場に入り、二台ピアノ・連弾部門の受付を済ませる僕と風歌。

 本日は個人部門の一部も開催されるということになり、それと同時に、宿泊しているホテルの予約票を見せて、個人部門の受付を済ませる僕と風歌。

 個人部門の受付は明日でも大丈夫だが、今回は遠方からの参加者に対応するため、ホールの会議室や周辺の音楽教室を使っての、練習室の予約ができるためだった。


 ただ、体調の変化もあるので、明日また声をかけて欲しいことと、ホテルで体調が悪くなった場合連絡してほしい趣旨を伝えられた。


 プログラムで、出演時間を確認し、連弾部門も、個人部門も、それぞれ、出番の直前に練習室を押さえてもらった。

「そうしましたら、出演時間になりましたら、集合場所ではなく、練習室にスタッフが直接お声をお掛けしにまいりますね。」

 受付のスタッフがレッスン室の予約を押さえてくれ、受付が完了する僕。


 それと同時に、すんなり予約ができて、一安心する僕が居た。


 次に宿泊するホテルへと向かった。


「緊張しているか?」

 原田先生の声。


「はい。大丈夫です。すんなり予約出来て、安心してます。もしかしたら、ここでも、アイツの影響があるかもと。」

 僕は正直に話す。


「まあ、私も考えたさ。だが、今日はヤツの出番はないし、受付も連弾部門のスタッフだ。個人部門の時間は夕方だしな。だから、影響が及ばない可能性の時間を想定して、一括でレッスン室の確保をしただろ?今のところは順調だな。」

 原田先生は僕の肩に手を乗せ、緊張を和らげてくれた。


 茂木や大方の予想通り、安久尾の名前は、受付の時に渡されたプログラムで、本日行われる、二台ピアノ・連弾部門では確認できなかった。

 どうやら、安久尾は個人部門だけ参加するらしい。

 もちろん、明日行われる個人部門ではヤツの名前を確認することができた。

 演奏は僕と同じ、明日の日程だが、演奏順が離れており、そのため、出演時間が大きく異なっていることが幸いだった。


<順調だ。レッスン室の確保も丁度いい時間に抑えられた。安久尾の出演時間は少年よりも大きく異なっているし、今日のところは問題ない。>


 原田先生は、後続の車に乗っていた吉岡たちにLINEでメッセージを残す。

 そして、あとからこちらへ合流するメンバーにホテルに向かうように指示を出したのだった。


 ホテルに入る僕たち。

 まだチェックインの時間帯ではなく、むしろ、前日から今日にかけて宿泊した客のチェックアウトの時間ですら経過していなかった。


 荷物を預け、ホテルのロビーで待機する僕たち。

 広々としたロビーだった。


「ここで、練習室の時間まで待機しよう。」

 原田先生はそう笑って、空いているソファーに座るように指示を出した。


 その間に、後続の吉岡先生の車に乗っていた面々と合流した。

 さらに、ここまで、電車で来た面々とも合流、生徒会メンバーの、葉月、史奈、結花、早織、義信、さらにはコーラス部の心音、そして何と、加奈子とともにバレエ教室に通う、藤代さんの姿があった。


「ヤッホー、輝君。お疲れ様!!」

 葉月が笑っている。


「ついにこの日が来たわね。大丈夫よ!!でも何だろう、輝君以上に私が緊張しているかも。」

 史奈がニコニコ笑っているが、緊張を隠せない表情。

 何だろうか、自分のことのように一緒に居てくれる、こういう優しさに救われる僕。年上のお姉さんの彼女の母性。それに惹かれる僕。出会った時からそうだったかもしれない。


「真由子ちゃんは、今日は部活だけど、明日朝一で来るってさ。あっ、藤田先生も今日は別の音楽の部活で居ないけど、明日電車で来るって。凄いね~輝君。応援団がたくさんだね~♪」

 葉月はニコニコ笑っている。


「ハッシー、絶対ぶっ潰そう!!」

 結花が気合を入れている。


「オウ、そうっすよ。部長!!ここで力を出しましょう!!」

 義信も鼻息を交えてうん、うん、と大きく頷く。


「準備は良い?風歌もしっかりね。」

 心音は、僕と風歌それぞれの両肩に手を乗せて、ポンポンと気合を入れてくれた。


「橋本さん、仲がいいメンバーでとても良かったです。微笑ましく思います。」

 僕たちを見ている藤代さん。


 なぜだろうか、僕は、それを見ていると口元と目元が緩んでしまう。


「み、皆、本当にありがとう!!」

 僕は頭を下げる。

 皆は、うんうん、と頷いていた。


 だが、一人、緊張しているというよりはとても疲れていそうな人物がいた。


「大丈夫だよ、輝君。」

 早織は緊張しながらではあるが、笑っている。だがその表情は疲れた様子だったので。

「あっ、大丈夫。ここに行くの、ちょっと、家族に反対されただけだから・・・。いつもは無いんだけど。」

 早織はそう言って、笑ってごまかしている。


「あ、ありがとう!!早織。無理しないで。」

 僕はそう言うと。


「ううん。大丈夫。友達や大人の人達も一緒だからというので、最後は納得してくれたから。友達と一緒に居るという条件で。」

 早織は大きく首を横に振っていた。

 なるほど、定食屋のバイトとかの時間で抜けられなかったのだろうか。

 それでも来てくれた、早織に感謝しかなかった。


「素晴らしい青春だな。」

 それを見ていた茂木はにこにこと笑う。

 大人たちも同じように頷く。


「ヨシッ。今日のメンバーが全員揃ったところで、改めて説明すると、今日と明日は、少年と、風歌のコンクールだ。みんなで、最大の敵に挑むことになる。皆、少年の出番まではホテルで待機だ。勿論、リフレッシュに外に出てもいいが、会場のホールの建物には入らないように。いいな。とりあえずは以上だ。」

 原田先生はそう言って、皆に説明する。

 皆は大きく頷いた。


 僕たちはロビーで、僕と風歌の出番の時間を待った。

 皆、各々時間を過ごし、やがて、練習室に移動する時間になった。


「ヨシッ。時間だな。行くか。」

 原田先生はそう言って、僕と風歌に合図を出す。

 そして、吉岡先生と、岩島先生、茂木にも合図を出す。


「じゃあ、私たちは、移動するぞ。皆はここで待機して、出演時間になったらホールに来てくれ、たぶん、ここに居る茂木先生が迎えに来てくれると思うから!!」

 原田先生は来てくれたみんなに指示を出す。

 皆それに頷き、茂木も。


「ああ、案内しに、皆をもう一度迎えに行くよ。」

 茂木はそう言いながら笑っている。


 僕は改めてみんなに頭を下げる。


「「行ってらっしゃい!!」」

「「大丈夫だよ~。」」

「気合っすよ、部長!!」

 皆に見送られて、ホールにあるコンクール出演者用の練習室へ。


 幸いにも、午前中の時間帯。

 人の出入りは少なく、問題なく、練習室まで移動することができた。


 練習室で、最後の調整をする僕と風歌。

 二台ピアノ・連弾部門は、自由曲の変更のルールなどはなく、そのまま、モーツァルトの『二台ピアノのソナタ』と、吉岡先生の提案した、『春の声』が演奏曲になっていた。


 それぞれの曲が弾き終わり、互いに頷きあう僕と風歌。


「うん、うん、すごくいいよ。」

 岩島先生が拍手をする。

 茂木も、そして、原田先生と吉岡先生も頷いている。


「そうだね。おそらく、他の演奏者と互角に勝負できるだろう。大丈夫だ。」

 茂木は僕たちの演奏を見て頷いていた。


 時間はたっぷりあるので、残りの時間は明日の個人部門の調整を各々実施して、最後にもう一度、連弾部門の曲を合わせる。


 皆が頷く。僕も風歌もそうだった。


 そして、練習室の扉がノックされ、スタッフが迎えに来た。

「集合のお時間ですので、ご案内します。お連れの皆様も、途中までであればご案内できますが、どうされますか?」

 とのスタッフの言葉だった。


「それじゃあ、原田君と吉岡君、アキちゃんも行っておいで。僕はホテルの皆を迎えに戻るから。」

 茂木はそう言って、頷く。

 僕は茂木にもお礼を言った。


「ありがとうございます。茂木、先生。」

 また茂木とは距離が多少はあるが、以前よりは縮まっている。僕のことを大事に考えてくれるということが伝わっているからだ。


「今までよく頑張ったよ。改めて君に敬意を示そう。気を付けて行ってらっしゃい。」

 茂木先生に見送られ、スタッフに案内され、舞台袖まで移動する僕たち。


 練習室から、ホールのロビーへ行を経由していく僕たち。ロビーの景色を見た途端に、緊張してくる。

 原田先生達の配慮もあってか、僕たちは今回使用するホールの全貌を見ていなかったためだろう。


 先ほどよりもお客の入りが明らかに増えている。


「緊張しているな、少年。」

 原田先生が笑っている。


「はい。皆さんの配慮もあって、ホールの全部を見ていなかったわけですし、明らかに、人が増えていて。」

 僕は正直に言う。


「まあ、練習室も取りたかったので、早めに来ただけだからなあ。そうだな。確かに人が増えてるな。」

 原田先生はニコニコ笑っている。


 それに僕も頷いているうちに、少し緊張がほぐれてくる。何回も舞台を経験している僕と風歌。気持ちの切り替えが早い。

 改めて、こういう場所、そして、この日がやって来たと思い、深呼吸した。


 舞台袖の入り口でスタッフが立ち止まる。

「それでは、お連れの方はこちらまでになります。」

 スタッフの声で、原田先生達は立ち止まる。


 僕は振り返り、付いてきてくれた先生たちの顔を一人一人見回す。


「大丈夫、橋本君ならやれるよ。勿論、緑さんもね。」

 岩島先生が大きく頷く。


「輝君。本当によく頑張ったよ。楽しんでね。そして、一番重要なことだけど、演奏が終わったら、まっすぐここに戻ってくるんだよ。誰か出迎えの人を向かわせるからね。」

 吉岡先生は僕と風歌の目を見て、念を押す。余計な接触をしないための配慮だ。


「はい。ありがとうございます。」

 改めて、皆に頭を下げる僕。


「ヨシッ。行ってこい!!少年。これをもう一度持っていきな!!」

 原田先生は僕の肩をバシッと叩く。

 そして、原田先生と吉岡先生は、お互いの首にかけていたネックレスのようなものを差し出してくれる。

 これは、県大会の時でもいただいたもので、原田先生と吉岡先生は、首にかけていないときでも、肌に離さず持っているものらしい。


「そうだな、今日は、ヨッシーの方を首にかけられそうだったら、かけて行きな。」

 原田先生の指示で、僕は吉岡先生にもらった、ネックレスを首にかけ、その上からシャツのボタンを閉じた。原田先生からのネックレスは、何だろうか、県大会では、ジャケットのポケットだったが、今回は、より近くに、シャツの胸のポケットにネックレスを入れた。


「ありがとうございます。これでやらせて頂きます。」

 僕は原田先生と吉岡先生に頭を下げる。


「ヨシッ、完璧だ。頑張って来いよ。じゃあな!!」

 二つのネックレスを装備した僕を確認して、原田先生と吉岡先生は手を振ってくれた。


 僕は頭を下げ、風歌とともに、スタッフに案内されて、舞台袖へと向かった。


 舞台袖での待機。


 どうやら今演奏しているのは僕たちよりも二つ前の演奏者だ。

 そして、すぐ目の前に、僕たちの一つ前の演奏者が待機している。


 深呼吸する僕と風歌。

 演奏は間違っても気にしなくていい。とにかく、演奏の前と後で、大きなトラブルにならないように・・・。

 僕と風歌は本番前の少しの時間を整えていた。


 そして。二組前、一組前の演奏が終了し、僕と風歌の出番になった。


「それでは、そのまま、舞台へ案内します。司会のアナウンスが終わりましたら、このまま前に進んでください。」

 スタッフの案内で、舞台袖とステージの境目に行く。


 スタッフが大きく両腕で丸印を出して。

「続きまして、橋本輝君、緑風歌さんの演奏、曲目は、モーツァルト『二台ピアノのためのソナタニ長調 第一楽章』。ヨハンシュトラウスの『春の声』です。」

 司会の声。


 スタッフに合図され、ステージ上へ。


 僕と風歌が揃って一礼をする。

 風歌の顔を見る。

 いつも通りの笑顔で頷いていた。


 ―せーっのー


 息を合わせ、最初の音を出していく。

 大丈夫そうだ。いつも通りだ。


 そのまま。そのまま。


 僕と風歌はいつになく落ち着いていた。

 集中して、頑張っている。


「とても集中している。良いわね。」

 客席から、岩島先生が頷きながら見ている。

「今のところは大丈夫そうだ。このまま、無事でいてくれれば・・・・。」

 真剣な表情の茂木。


 原田先生も吉岡先生も、岩島先生と茂木の様子から、僕たちの演奏が順調に行っていることを悟る。


「やっぱ、ハッシー、凄すぎ。」

「うん。やっぱりプロだね。」

 一緒にいる生徒会メンバー。葉月、結花は食い入るように見つめていた。


 順調に演奏が終盤に差し掛かるころ・・・。


「ハックション!!」

 客席の誰かが、大きくくしゃみをする。

 別に大したことではなかったが。


「「!!!?」」

 僕と風歌は客席を一瞬気にしてしまう。

 ホテルで待機し、そのままステージに上がった僕たち、客席やホールの全貌は眼中に無かった。


 そのため、少し影響したようで。


「まずいな、少し演奏が不安定になったかな。」

 客席のことは気にしないように指示を出していた茂木。

 今のほんの一瞬で、客席の方を気にしてしまった、僕たちの存在に目が行く。


 気持ちを切り替えて、上手く立て直すことが出来たが。

 最後まで集中できるか不安になって来た。


 上手く立て直して、後半少し走り気味で、課題曲が終わる。

 僕は風歌の顔を見る。


 風歌も頷く。

 インターバルを少し長く取ろう。


 課題曲は二台ピアノ、自由曲は連弾にしているため、必ず一人がピアノを移動する。

 風歌が、こちらに向かって移動してきている。


 ―ゆっくり、ゆっくり、深呼吸しながら、歩みを進めようー

 心の中で落ち着かせて、ゆっくり歩みを進める風歌。


 風歌が僕の方のピアノにたどり着いたところで、僕は風歌の背中に手を当てる。

 風歌も頷いて、深呼吸する。


 大丈夫だろうか。少し走った後半部分で、減点されていないだろうか。


「大丈夫!!」


「!?」

 風歌の声だろうか。風歌の方を見るが、話しかけてはおらず、呼吸を整えている。


「大丈夫だよ。頑張って。輝君!!」

 何だろうか。僕の頭の中に直接声が聞こえてくる。

 優しくて何か一歩踏み出しそうな声。


 何だろうか。その声に導かれるように風歌を見る。

 風歌は頷いている。


 自由曲、ヨハンシュトラウス作曲『春の声』。

 導入部分。

 課題曲に続いて、少し走り過ぎでは・・・。


 いや、違う。一瞬にして、それは杞憂に終わる。


 歌が。歌が聞こえる。

 透き通った、優しさに満ち溢れた歌。

 春を告げる歌。


 『春の声』には歌詞があり、ソプラノの歌手とともに演奏が可能だ。


 何だろうか。ソプラノ歌手が一緒に歌っている。

 歌が聞こえていた。


 風歌もそれは若干感じ取れたようで。

 ―大丈夫、若干走っているかもしれないけれど、心地よく、素敵なテンポで合わせられそう。―

 風歌はそれを心から楽しんでいるようだ。


「す、すごい、すごいぞ、少年。」

 客席から原田先生は興奮状態で、見つめている。

「ああ。僕でもわかる。」

 吉岡は親指を立てて、笑っていた。


「「歌っている!!春の声が聞こえる!!」」

 原田先生と吉岡先生は顔を見合わせた。


 ー春の声が、少年にー

 ー春の声が、輝君にー

「「春の声が力を与えている。」」

 深く息を飲み、目頭が熱くなる原田先生と吉岡先生。



「ふふふっ。輝君と風歌ちゃん、すごく息がぴったり。」

「そうっすね、さすが部長です。」

「橋本君、すごい!!」

 史奈と義信、さらに早織もそれは分っているようだ。


「輝、さらに覚醒しちゃった。」

「はい。私も、踊ってみたくなりました。」

 加奈子と藤代さんもこのピアノのワルツで踊りたくなったのだろう。


 そして。

 フィニッシュを迎えた。


「やった。」

「やった。」

 僕と風歌は、顔を見つめ、笑顔で頷き一礼をした。


 会場からは大きな拍手が包まれている。


「ありがとう、輝君。頑張ってね!!」

 優しい声がする。


「!!っ。」

 僕はその声に反応する。


「どうしたの?」

 風歌は僕に聞いてくる。


「なんか、言った?」

「ううん。何も言ってない。」

 風歌の答えにそうか。と答えて。拍手の中ステージを退場していく僕。


 そのまま、まっすぐ風歌とともにロビーへ向かった。


 原田先生や生徒会メンバーの出迎えを受ける僕たち。

「ナイス!!良かったぞ、少年!!」

 原田先生はニコニコ笑いながら拍手を贈った。


「やったわね。きっと、良い所まで行けちゃうわよ~。」

 史奈が得意げになって笑っている。


「お疲れ様、輝、風歌。」

 加奈子も一緒になって出迎えてくれた。


「本当に、よく頑張ったな。あのアクシデントで、そのまま引っ張ってしまって、立て直し切れないと思ったが。」

 茂木はニコニコ笑いながら、僕と風歌に握手を求めてきた。

 その握手に反応しながら僕は言った。


「はい。信じられないかもしれませんが、歌が聞こえたんです。優しくて、温もりのある、声が、『春の声』を歌ってくれました。それで、立て直すことができて・・・。」

 僕の言葉に、吉岡先生が反応し、吉岡先生が僕を抱きしめてくれる。


「そうか。そうか、良かった。よくやったぞ!!僕は君の言葉を信じる。なっ。」

 吉岡先生は、両手を僕から離し、原田先生と茂木を見つめる。


「ああ。勿論だ。少年。」

 原田先生は、目頭が熱くなり、涙をこぼしそうになったが、それをグッとこらえて、ニコニコ笑っていた。


「まさか・・・。そんなことが・・・。」

 同じように少し感慨深そうになる茂木。


「改めて、礼を言わせてくれ。ありがとう。君は精一杯頑張ってくれた。恐ろしい敵に負けないで、戻ってきてくれたことに感謝しかない。」

 茂木は深々と頭を下げたのだった。

 だが、茂木の顔は少し涙目であふれていた、泣くのを我慢しているかのように。


「さあ、生徒会の皆が待っているよ!!先に行っててくれ。私は、ちょっと、トイレに行ってくるからな。少年。もう一回集合して、昼食の時としよう。」

 原田先生はそう言って、僕を生徒会メンバーの元に促す。

 他のメンバーも拍手で迎えてくれた。


 それを見ながら、目頭が熱くなる、原田先生や大人たち。

 大人たちは深呼吸して、少し呼吸を整えて、僕たちと合流してきたのだった。


 皆で、昼食を食べて、ホールに戻って来たときに、丁度結果が発表される時間となった。


 二台ピアノ、連弾部門は、上位三組が全国コンクールに駒を進められる。


 僕と風歌は、銅賞三位に滑り込み、ギリギリ、全国コンクールに駒を進めることになった。


「おめでとう!!」

「本当によく頑張ったな、輝君!!」

「部長、すごいっすよ!!」

「輝君、やっぱりすごい!!」

「風歌もお疲れ様!!」


 生徒会メンバーや大人たちの祝福に包まれて、三位、銅賞の賞状を受け取った僕と風歌を温かく迎えてくれた。

 僕たちは、喜びもつかの間、この後の可能性を考えて、すぐに会場を後にし、ホテルへと向かったのだった。

今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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