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90.最後の総仕上げ

本日もご覧いただき、ありがとうございます。

改定前からご覧いただいている皆様にはお気づきかと思いますが、第四章。文化祭の部分が抜けてるかと思いますが、ご安心ください。

文化祭は続編の第五章に登場します。ここの部分を大きく改訂しました。

勿論、続編五章で、メイド、バニーガールコスプレのヒロインたちも登場しますので、お楽しみに。

それでは、引き続き、第四章、ピアノコンクール編をどうぞお楽しみください。

 

 県のピアノコンクールが終わり、僕、そして、風歌は見事、関東大会に駒を進めた。

 そのコンクールから一夜明け、ゆっくりできる間もなく、来週、九月最後の週末に行われる関東のコンクールに向けて、練習を継続しなくてはならない。


 いつも通りに学校へ行き、いつも通りに生徒会の仕事をこなし、校門の前で風歌と合流する。


「ひ、輝君、お疲れ様。やったね。お互い、関東大会に行ける。」

 風歌はニコニコ笑っている。

 彼女にとっては僕と一緒に練習できることが嬉しいのだろう。


「ありがとう。風歌。ごめんね。まだまだ。予定、バタバタさせちゃっているけれど。」

 僕は風歌に頭を下げる。


「う、ううん。大丈夫。」

 風歌は首を横に振った。


 そうして、僕は自転車で、その横を着いてくる感じで、徒歩で風歌がついてくる。

 そんな感じで、僕と風歌は、岩島先生のピアノ教室へ向かう。


 広い道をとおり、岩島先生のピアノ教室へつながる狭い道。

 お互い頷き、自転車の後ろを指さし、風歌を乗せる。


 やはり二人乗りは危険なので、まだまだ、短い距離でしか出来なそうだが。


「にへへっ。輝君、慣れてきた。」

 風歌がニコニコ笑う。


「そ、そうなのかな。まだまだ、危ないように見えるけれど。」

 僕がそういうと。


「なんか、ぎ、ぎこちなさが、あんまり無くなってきた気がする。」

 風歌がうんうんと、頷く。


 そうなのだろう。やはり、毎日のように、この狭い道の数百メートルくらいの距離だが、それを繰り返していれば慣れてくる。


 今度は、少し広い場所でやってみようか。勿論、警察にバレないように、人気のない広い場所が必要だと思うが。


 そうして、僕と風歌は、自転車を降り、岩島先生のピアノ教室へと入る。


「こんにちは、輝君。」

「「こんにちは、先生。」」

 僕と風歌はそろって頭を下げる。


「うん、時間通りで、感心感心。でも、生徒会やコーラス部で忙しかったら遠慮なく言ってね。まあ、でも、ここからは練習の時は集中して欲しいのだけど。」


 岩島先生のいう通りである。


 二台ピアノ・連弾部門は関東大会からが本番だ。流石に上位の大会になると、参加者も増え、優劣がそれによってつき、順位が決まり、限られた者しか上位の、全国コンクールに出場できない仕組みになる。


 僕たちは早速、練習に取り掛かる。

 県大会では、八割ほどの内容を一気に総仕上げして、関東大会へ持っていく。


 お互い、総合力は高いのでいい感じに仕上がってきており、練習の回数が増えるごとに良い内容になって行った。


「よしよし。大丈夫そうね。一気に仕上げた感じで、大変だったけれど、ここまでよく頑張ったわね。そして、一進一退かと思ったら、一退の場面もなく、かなり進んで。本当に偉いよ。」


 岩島先生が大きく頷く。


「そんな。先生と、風歌のおかげです。僕一人だったら、無理でしたし、いまだにスランプの状態だったと思います。」

 僕は素直に言った。

 謙遜ではなく、その言葉は本当だ。


 一人だったら、今頃どうなっていただろう。

 安久尾の圧に飲み込まれて。ずっと寂しく伯父の農家で仕事をこなす日々だったかもしれなかったのだ。


 スランプの時期は、もう、当に越したといっていい。


「そ、そんな。わ、わたしは、輝君と、一緒に出来て、嬉しかったから。」

 風歌は一気に顔を赤らめた。


「ふふふっ、二人には、敵なしね。」

 岩島先生がニコニコ笑っている、それはどこか遠くを見るように。


 そうして、二台ピアノ・連弾部門の練習を終え、風歌と別れて、今度は原田先生のバレエ教室へ。

 今回からは原田先生のバレエ教室に岩島先生も同行することになった。

 バレエ教室のピアノで、加奈子のバレエの振付、加奈子との譜めくりを確認する作業が毎日のように続く。

 そんなこともあり、僕の個人部門の練習は、バレエ教室のピアノを使っていた。


「よっ、少年、お疲れ様だったな。」

 バレエ教室に行くと原田先生の出迎えを受ける。


「今日もよろしくお願いします。」

 僕は原田先生に頭を下げる。


「おう。コンクールもお疲れ様だったな。まずは、第一関門通過を素直に喜ぼうじゃないか。」

 原田先生はニコニコ笑って、手を差し出す。

 握手で応える僕。


「そして、今日はアキも一緒か。まあ、当然だよな。」

 原田先生は深々と頷く。


「あら、それだと、私がここに来るのが不服みたいな感じね。ヒロ。」

 岩島先生は半分冗談のつもりで、ニコニコ笑っていた。


「なに、そんなことは無いさ。いつもは来ないから驚いただけだ。」

 原田先生は頷く。


「私だって暇じゃないわよ。輝君以外にも生徒さんいるんだし。」

 岩島先生が少しそっぽを向いたような、当たり前でしょ、そんなこと、というような顔をして対応する。


 そういえば、原田先生と岩島先生は、昔からの知り合いで、かなり仲が良かったと聞く。


 このやり取りを見るに、実際そうなのだろうと感じる。


 そんな仲良しのやり取りの会話をしながら、僕たちは練習室へと向かう。

 いつものようにレオタード姿の加奈子が待機している。

 加奈子の方も、クリスマスコンサートの練習があったのだろう。少し汗の色が額にある。

 その汗のにおいを、僕が来ると分かっていたからだろう。

 おそらく彼女の誕生日に原田先生からもらった、香水スプレーで、においを消していた。


 それを原田先生は察したのだろうか。


「おおっ、いい香りだな。もらったスプレー使ったな。」

「あの、えっと。」

 原田先生の言葉に顔が赤くなる。


「恋は偉大だな。以前ならば、香水スプレーも使わず、汗を拭くだけだったのにな。」

 原田先生の言葉に加奈子はさらに顔が赤くなる。

 真面目で一生懸命打ち込んできた加奈子。おそらく、僕と出会うまでは、そう言ったものには無縁だったかもしれない。


「べ、別にそんなんじゃないです。頂いたから。その、使わないとと思って。」

 加奈子は顔を赤くしながらも、ドキドキしながら言った。


 原田先生はそれ以上聞かず、うんうんと頷いていた。


 早速、僕の隣に座って、譜めくりの手伝いをする加奈子。

 関東大会で弾く、課題曲。そして、自由曲『英雄ポロネーズ』を一通り弾いて行く。


「うん。行けそうね。基本的に、心配はなさそうだけど、本番、本当に何が起こるかわからないから。」

 一通り弾き終えた後の岩島先生の感想。

 関東大会の最大の課題はまさにそれだ。本番どれだけ対応できるか。最大の障壁は安久尾だろう。


「なーに。大丈夫さ。そのための加奈子ちゃんなんだから。」

 原田先生は大きく頷く。

 加奈子は少しプレッシャーに感じながらも、大きく頷いた。


「出来も、仕上がりも上々だ。技術面においては心配する要素もない。」

 原田先生は僕のピアノに対し、ニコニコと笑って頷く。

 その言葉には、加奈子は表情を一気に自身に満ち溢れた表情にして、さらに大きく頷く。


「輝、私、頑張るから。絶対に負けちゃだめだよ。」

 加奈子は僕の肩に両腕を回す。

 それにドキドキする僕、原田先生と岩島先生の前ですごく緊張する。


「ハハハッ、良い青春だ。頑張ってみな。」

 原田先生はニコニコ笑う。


「本当、橋本君がここに来てよかったわ。」

 岩島先生も大きく頷く。


 そうして、譜めくりを確認した後は、加奈子はバレエの準備を開始する。『英雄ポロネーズは』加奈子のクリスマスコンサートのソロステージで踊る曲でもある。彼女は、僕に負けじと、振付の確認作業を行っていた。


「ヨシッ。加奈子ちゃんも良い感じだぞ。良い彼女でもあり、良いライバルだな。」

 原田先生はニコニコ笑った。微笑ましく思ったのだろう。


 僕と加奈子はお互いに見つめ合い、親指を立てて、ニコニコ笑った。


 そうして、改めて、今日もお礼を言って、練習を終わらす。


「ハハハッ、真面目な所も加奈子ちゃんにそっくりだな。」

 原田先生はそう言って、僕の肩をポンポンと叩く。

 そうして、先生は僕の耳元に顔を近づける。


「お前に感謝している。このままいくと、加奈子ちゃんは雅ちゃんに抜かされるかなと思っていた。数年後、加奈子ちゃんが仮に上だったとしても、雅ちゃんが加奈子ちゃんの学年になったとき、今の加奈子ちゃんを上回るだろうと想定していたのだ。」


 原田先生は大きく頷く。


「だが、どうだ。お前が来てから、加奈子ちゃんの総合力は大きく上昇した。これからも、加奈子ちゃんは、トップダンサーとして、バレエを踊り続けるだろうな。」

 原田先生は僕にこういって、うんうんと、笑っていた。

 その言葉に少しホッとする僕。


 今の会話が加奈子に聞こえていただろうか。

 いや、聞こえていないだろう。加奈子は先に、練習を終えて、着替えに戻っていて、僕は楽譜やピアノを片付けている最中だ。


 そうして、原田先生、岩島先生に見送られ、加奈子とともに、バレエ教室をあとにする。

 すっかり、日も暮れ、辺りは暗くなっていた。


 日が短くなり、秋の音が聞こえてくる、今日この頃だった。


 やがて、『南大橋入口』の交差点に差し掛かる。

「ありがとう。加奈子。」

「うん、輝も本当にありがとう。夜道、気を付けてね。あそこ、伯父さんの家の周辺、危ないから。」


「うん。ありがとう。」

 少しホッとする僕。


「輝・・・・。」

 僕のことを見つめ続ける加奈子。

 日も暮れて、夜も暗いから大丈夫だろう。

 さよならのキスを交わして、加奈子と別れる。


 そうして、今週が過ぎ、そして、秋分の日も過ぎ、気付けば、九月最後の週末、関東大会の日を迎えていた。




ご覧いただき、ありがとうございました。

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