9.生徒会でお出かけ
週末の土曜日、百貨店前の交差点に僕はたどり着いた。
とりあえず、自転車を駅の駐輪場に預けて、そこから徒歩で向かった。
ここで待ち合わせれば大丈夫かなと。
今朝は何を着て行けばいいか迷った。
私服だよなあ。
私服・・・・・・。
とりあえず、襟付きのシャツと、ジーンズで良いだろう。
女性の人と出かけるので、いつもより、気を使っている自分がそこにいた。
「ヤッホー。輝君。お待たせ!!」
元気よく登場したのは、葉月先輩だった。
彼女の私服は、紺色のワンピースと白いカーディガンだった。
「ふふふ。制服の時とあまり変わらないね。少し安心しちゃった。」
葉月先輩は少し安心した顔になる。
「まあ、こういうタイプの服ぐらいしかもっていないし。こういう服装は好きなので。」
僕は少し緊張しながらも、葉月先輩の私服に少し見とれる。
さすがは理事長の娘であり、品のいいJKでもある。本当によく似合っている。
「お待たせ。輝。葉月!!」
加奈子先輩の声。
振りかえると、白いカットソーに、黒の細身の長ズボン。動きやすい、シンプルな服装ではあるが。彼女の細身の体をより清楚に際立たせている印象があった。
髪型は、今日はきっちり後ろでまとめられている。
なるほど、普段私服の時は、こういう髪型をしているから、広げたときに、縛った跡がついているようだ。
「服装も髪型も素敵ですね。」
僕は加奈子先輩に言った。
「ありがとう。」
加奈子先輩はニコニコ素敵に笑っている。
「ほらぁ。だから、学校に居るときもそういう髪型にすればいいのに。後ろで、まとめていると本当にスタイルいいよ。」
葉月先輩は笑いながら加奈子先輩に言う。
「ははは。まあ、努力はしているけど。朝早い学校だと少しね。もう少し寝ていたいと思うし、実は、二度寝しちゃったり、あっ、あと、いろいろ手間がかかるから。それに縛るといろいろ癖で気にしちゃうから余計にね。学校ではあんまり力まないで、気にせず居たいし。」
加奈子は笑う。
なるほど、確かに朝早いと、ゆっくり仕度もできないよな。
真面目で成績優秀な加奈子先輩が朝起きるのが少し苦手という意外な一言も聞けたが、そういう人はかなり大半なのではと思ってしまう。
それに、いつもあんな感じで、髪の毛をセットすると、確かに時間がかかる、と僕も思う。
「みんなお待たせ。」
一番最後にやってきたのは瀬戸会長だった。
瀬戸会長だけ唯一、普段の制服のままだった。
「お疲れ様です。部活だったんですね。」
葉月が言う。
「そうね。大会が近いから、午前中は練習。」
瀬戸会長が笑いながら言う。
「さて、お出かけしましょうか。橋本君は引っ越してきたのよね。そしたら、この町を私たちで、案内するわ。まあ、詳しいのは葉月ちゃんだけど。」
そういって、瀬戸会長と葉月先輩、加奈子先輩は頷いた。
確かに、この町の施設などで遊んだりするのは初めてだった。
基本は伯父の家にずっと引きこもって畑仕事をしていたし。散歩しても雲雀川より向こう、つまり、こちら側の町の中心部には遊びに行かなかった。
「まずは、この百貨店に入ろっかぁ。売っているものは少し高いけれど。この建物には、外部のテナントのお店がたくさんあって、そっちは安いはずだから。基本的にこの百貨店とそっちの家電量販店に行けばなんでもそろう感じかな。」
葉月がこの建物を指さして、説明する。
瀬戸会長と加奈子先輩もそれに頷く。
ということで、生徒会メンバーに連れられて、百貨店の中に入った。
店内は、どこにでもある百貨店という印象。
一階は化粧品。二階、三階は婦人服。四階は紳士服。五階は文具や雑貨。そして食品売り場は地下と本当にどこにでもある百貨店のフロア構成
生徒会メンバーはどんどんエスカレータを上に上がっていく。
「どう?この百貨店の印象は。」
葉月先輩が聞いてくる。
「正直に言っちゃえば、ここまでの印象は、どこにでもあるような、普通の百貨店という感じがします。後は若い人向けなのでしょうか。照明が明るかったり。ですかね。」
僕は葉月先輩の質問に答える。
それ以外に答えようがなかった。
「そうだね。でもここから驚くかもね~。」
葉月は笑っている。
「ふふふ。そしたら、ここから驚いてもらいましょう。次のエスカレータは橋本君が先頭にどうぞ~。」
瀬戸会長に促され、五階から六階へ向かうエスカレータに乗る。
その瞬間、葉月先輩もニヤニヤしながら頷く。加奈子先輩もうん。と頷いている。
僕の視界に広がった六階の景色。それに驚く僕が居た。
百貨店の六階は映画館だった。
「映画館。ですか?」
僕は生徒会メンバーに言った。
確かにこれは驚く、五階までの雰囲気とはまた違う感じの情景だった。
「ピンポーン。ここの六階から上は、映画館とか本屋さんとか、いろんなお店が入っています。」
葉月先輩はニヤニヤしながら言った。
「駅から近い場所なので、この百貨店の総面積は、郊外にある、大型ショッピングモールよりは少し小さいけど、それでも十分広いし、かなりフロアもいろいろあるから、色々楽しめるよ~」
葉月先輩はさらに続け、この施設のことを教えてくれた。
「ふふふ。それでは驚いてくれたので。最上階。十階のフードコートへ行きましょう。みんな、お昼ご飯はまだだったりする?」
「すみません、会長。午後からだったので、軽く食べてきてしまいました。」
葉月先輩が申し訳なさそうに言う。
「すみません。僕も、午後からだったので。」
葉月先輩に連れられて、僕も申し訳なさそうに言った。
確かに、会長が午前中部活だったことを考えていなかった。
農家の手伝いは朝早く、伯父に促されて、昼食を済ませてきたのだった。
もう少し時間が早ければなあと思ってしまう。
「私はまだです。午前中、あっ、・・・・・。えっと、予定があったので。」
加奈子先輩は最後の方は少し誤魔化すように言った。
おそらく、言えない予定があるのだろう。
「そう。そしたら、加奈子ちゃんは私と一緒にご飯食べましょう。二人は、そうね~。席を取ったら、葉月ちゃん、橋本君にいろいろ案内してあげてね。飲み物とかスイーツのお店もあるから。」
「はーい。」
瀬戸会長の言葉に葉月先輩が返事をする。
フードコートに到着するとビックリ。やはり、いろいろなお店が立ち並ぶ。
そして、多くの人でにぎわっていた。
『混雑のため、只今の時間のご利用時間は一時間以内とさせていただいております。』
という立て看板がいたるところに目につく。
見通しのいい窓際の席が空いていたので、先に席取りをして、そこに座る。
かなり明るい。
「じゃ、葉月ちゃん。橋本君に、案内よろしくね。」
瀬戸会長にそう言われながら葉月は照れたように笑い。
「はーい。それじゃあ、輝君。こっちだよ~。」
葉月先輩に連れられてやってきたのは、スイーツのお店だった。
看板には、『クレープ』と書かれている。
「有名なクレープの専門店だよ~。」
葉月先輩はそう言いながら、そのクレープの専門店の列に並ぶ。
いろいろなメニューがあり・・・。写真で見ると本当にどれもおいしそうだったので僕も葉月の後ろに並ぶことにする。
「え?クレープで良いの?もっと、いろいろあるのに。なんかごめん、私の大好きなお店に先に案内しちゃったから。どれが食べたい?って、聞いておけばよかったね・・・・。」
葉月先輩は、あちゃ~、という感じで、戸惑っていた。どうやら、先に注文しておいて、この後僕のために、いろいろとフードコートのお店を案内してくれる予定だったらしい。
「いえいえ。写真見て、おいしそうだったので。特にこの、季節限定の、ラズベリーソースのやつなんか。」
僕は素直に、クレープの写真の感想を言った。
「おっ。お目が高いね!!季節の限定メニュー、この店、美味しいんだよ~。」
葉月先輩はそう言いながら、僕と一緒に並んでいる列を進み、やがての注文の出番が来ると、彼女の分のクレープを注文する。
次は僕の番だ。こういうお店は初めてなので、先ほどの葉月先輩の注文のやり方を真似をし、彼女が注文した商品名の部分を、ラズベリーソースのクレープに置き換えて、店員にクレープを注文した。
数分後、注文通りに出てきたクレープはとてもおいしそうだった。
「じゃ。戻ろうか。」
葉月先輩の言葉に促され、僕は瀬戸会長と加奈子先輩のテーブルに戻った。
「あらあら。橋本君もクレープにしたのね。あそこは美味しいもんね。」
席に戻ると、瀬戸会長は笑いながら言った。
「はい。実際にすごくおいしそうです。」
僕は頷く。
実際に食べてみるととてもおいしかった。
春限定という、ラズベリーソースが、おいしさの決め手だろう。
そして、いろいろなベリーのつく果物がトッピングされていた。
ストロベリーと呼ばれる、イチゴに、ブルーベリー。そして、ソース以外にもラズベリーがトッピングされている。
「本当?よかった。」
葉月先輩は得意げになって笑っており、安心した表情を見せた。
瀬戸会長と加奈子先輩が注文した料理もおいしそうだ。
瀬戸会長は唐揚げ定食、さらに餃子付き。
加奈子先輩は健康的な野菜や魚の定食が並ぶ。
「やっぱり、お魚よりお肉が好きかな。今日は、ボリューム満点でジューシーの唐揚げにしてみたのよね。他にもハンバーグとか好きだけど、これにしたかった一番の理由は、この町に引っ越してきた橋本君にこれを見せたかったのよね。」
瀬戸会長はそう言いながら、一緒に頼んだ餃子を指さす。
「餃子・・・・。ですか?」
「ああ。そうそう、餃子。この町は餃子とイタリアンレストランで有名なんだよね。ホラ。」
葉月先輩が周りを見回してごらんと指さす。
フードコートに立ち並んでいるお店を見回す。寿司などの和食のお店、ステーキやうどんやそばのお店もあったが、一番多かったのは、餃子などの中華系と、イタリアン系のお店だった。
「餃子の専門店と、イタリアンの専門店の多さは、日本一なんだよ。この町。」
葉月先輩はにこにこと笑っていた。
「へえ、すごいですね!!」
僕は葉月先輩の言葉に頷く。
既にスイーツを食べている僕。明らかに味にあっていないので、餃子やイタリアンは次に来たときのお預けだ。しかし、僕としてはお寿司やお魚の方がとても気になるので、次来たときは是非そちらから食べたいと思う。
そう思いながらも、瀬戸会長は、身長の低さとは関係なく、かなりガッツリ食べる人だ。
唐揚げと、付け合わせの餃子を勢いよく食べていく。
「かなり良く食べますね。」
僕は驚く。
「まあ、部活でレギュラーではないけれど、皆と一緒に運動した後だからね。皆はどう?食べ物とか好きなものとかある?」
瀬戸会長がニコニコ笑って、僕たちを見回す。
「私は、いろいろと気を遣いますね。」
そういいながら、加奈子は本当に健康的な定食を食べながら笑っている。
「本当に、いつも見ているけれど、健康的よね。加奈子ちゃん。」
瀬戸会長も褒める。
「そうね。私も見習おうっと。」
葉月先輩がそれに続く。
「えっと、体重、気を遣わないといけないので・・・・・。」
加奈子先輩は恥ずかしそうに、顔を赤くする。
「輝君は何が好き?普段は何食べるの?」
葉月先輩が聞くと。
「どちらかと言えば、加奈子先輩が食べている料理が好きですね。和食と言いますか。今いる伯父の家がすごく大きな農家なんで、野菜がたくさん並ぶといいますか。今日も、引っ越してきてから農作業手伝っていたので、朝早くて、すでにお昼食べてきちゃって。」
「「「ああ~。」」」
この言葉に一同は頷く。
「そう。農家だったら、それは健康的な野菜が並ぶよね~。」
瀬戸会長は、頷きながら、笑っている。
「はい。前住んでいた家にも、伯父が定期的に野菜を届けてくれていたので。小さいころから・・・・・。」
皆、そりゃそうなるよな。という顔をしていた。
そうして、各々の注文した料理を食べ終える。
「さてと。食べた後は体を動かしましょ。」
瀬戸会長にウィンクされ、僕たちは席を立つ。
ということで、次に連れて来られたのは、フードコートと同じフロア。百貨店施設の最上階にある、ゲームセンターに入った。
最上階は、半分がフードコートで、半分がゲームセンターという感じだ。
そして、ゲームセンターの音が漏れないように、フードコートとゲームセンターの間には、自動ドアで仕切られていた。
クレーンゲームや、その他ここに設置されているゲームを一通りやった。
最後はみんなでプリクラを取り、その写真を『生徒会メンバー』と落書きをして、スマホに保存した。
「ふうっ。やっぱりここは何でもあるね。」
瀬戸会長はそういうと。遊んだ、遊んだというような大満足した表情で笑っていた。
「会長~。そろそろ本題に入らないとですよ~。」
葉月先輩が会長に向かって言う。
「ああ。そうね。輝君。どう?加奈子ちゃんの良さ少しでも見つかった?」
瀬戸会長が僕に向かって言う。
「はい。いろいろと。健康的な食事をされていることとか・・・・。」
「他には?」
瀬戸会長が言う。
僕は少し考えて。
「・・・・・。かなりスタイルがいいとか・・・・・・。」
「そうね。もっと何かが欲しいなあ。・・・・・。ということで、私も満足したし、ゆっくり話す場所が欲しいなあ。どこかないかしら。」
瀬戸会長が聞いてきたので。
葉月先輩がひらめいたかのように言った。
「そしたら、私の家なんかどうですか?ここから近いですし。輝君に会いたいという人も居ますし。」葉月先輩が提案してくる。
葉月先輩の家、つまり、理事長の家。
「えっと、そしたら、そこは理事長の家でもありますよね?」
僕は葉月先輩に言った。
「そうだね。でもパパ、今日は居ないから。みんなも、私の家でゆっくりできるよ。といっても、パパも輝君に会いたがってたけどね。まあでも、私の家に来れば去年の演説会のビデオとか残っていると思うから、参考にできるかも。」
葉月先輩はそう笑顔で言った。
「それ、いいわね。去年の演説会というと、私のスピーチなので、結構恥ずかしいけど。まあ、いいわ。行きましょう。葉月ちゃんの家に。」
瀬戸会長が頷いた。
加奈子先輩も黙ってうなずく。
僕たちは、百貨店を出て、葉月の家、理事長の家に向かうことにした。
百貨店を出て、交差点を役所の方面へ向かうと、すぐに水路が出てくる。
水路には、桜並木があり。さらに、水路沿いには公園があり、入学したばかりの四月のこの時期は、今日も花見客でにぎわっていた。
「あーっ、桜の季節だったね。ごめんね、輝君。ゲームセンターじゃなくてこっちに来ればよかったね。」
瀬戸会長が申し訳なさそうに言った。
「少し覗いて行かない?私の家は、この公園を横切ればすぐだから。」
と、葉月先輩が言ったので、僕たちはその提案に乗ることにした。
本当に桜は美しかった。
ピンク色の桜は本当にこの町と、この公園を彩っていた。
「ここはね。城址公園といって、昔、お城があったんだよ。」
葉月先輩が教えてくれる。
確かにところどころに城壁らしきものがある。
そして、公園のところにも一段高い場所があるのも納得だ。この高い場所が本丸か、天守閣の場所なのだろう。
「さっきの水路は城の濠。この公園やその先にある市役所とかを囲うように水路が流れているんだ。」
そういいながら僕に説明してくれた。
桜の花びらが、その濠の水に浮かんでおり、ピンクの絨毯を作る。本当に幻想的だった。
「本当に綺麗です。」
僕は素直に感想を言う。
「そうだね。小さいころから遊んでたな。この場所で。」
葉月先輩は笑いながら言う。
「私も、よく来た。」
加奈子先輩はそう言いながら同じように笑う。
素敵な場所に僕は見とれる。桜と城壁の跡、さらに濠が見事にマッチした風景だ。
「あっ、ちなみに、昔、県庁もここにありました。昔は、この雲雀川市が、この県の県庁所在地だったんだ。」
葉月は得意げになって説明する。
それに驚く僕。
「いろいろと土地のスペースの問題で、県庁は隣の市に移ったんだ。だから、社会科の授業、覚えられなかったでしょ。この県だけ、都道府県と県庁所在地一致させるの、こっちの方が交通は栄えているから。」
確かに、小学校時代を思い出す。新幹線の停車駅や電車の行き先に、雲雀川はあるけど、県庁所在地は隣の市だからね。と、先生に言われた。
「へえ、さすが葉月ちゃん。近くに住んでるから、よくわかってるわね。」
瀬戸会長が感心していると。
「会長も習いませんでしたか?小学校の社会科の授業で、自分たちの住んでいる県を調べるという時。」
葉月先輩は瞼を細めて、にやにやと笑う。
「あの、私も、それ知ってますし、聞いたことあります。」
加奈子先輩も頷く。
「あ、あら。そうなの?でも、ここは昔から、この地域の交通の要所なのよ。それは習ったし、あれ、ほら、ここの地域で独自にある、故郷のかるた、があるんだけど。ここは昔から交通の要所として、読まれているわ。私は、そのかるた大会の選手だったのよ。」
瀬戸会長は額に冷や汗を少しかきながら、首をいろいろな方向に振って、最後は頷く。
「それも、ここら辺の人は皆知ってますし、私もかるた大会の選手でしたよ。」
葉月先輩はニヤニヤ笑う。
「えっと、私も選手をやったことあります。」
加奈子先輩もそれに頷く。
「ふふふっ、それもそうね。でも、桜、綺麗よね。地元のトークで、盛り上がってごめんね、かるたも、橋本君さえよければ、見せてあげるわね。」
瀬戸会長は僕の肩をポンポンと叩いた。
「笑ってごまかしましたね。」
葉月先輩は、ニコニコ笑う。
「べ、別に大丈夫ですよ。いろいろ教えてくれて、助かってます。本当に、今日行った場所、全部初めてなので。」
「あら~、橋本君はとてもいい子、嬉しいわ。」
瀬戸会長はニコニコ笑って、さらに僕の背中をポンポンと叩く。
その後も、会話が続き、桜並木の城址公園を抜ける。
ここまで、生徒会メンバー三人の先輩を見て、仲が良くてうらやましく思う。
もう少し、僕もこの輪の中に入ってもいいのだろうか。少し不安になるが、演説会を通して、皆を、特に加奈子先輩のことを、知るきっかけになりたいと思った。
城址公園を抜けると、マンションを含めた住宅街に突入する。
おそらく、駅から近いこともあり、この町の中では一番の高級住宅街なのだろう。
マンションや周りの家も明らかに立派な門があったり、厳重なセキュリティがあるようなマンションの入り口が目立つ。
その中の一つ。
大きな門のある家に、到着する。
立派な木でできた表札には『花園』と名前が彫られている。
「ここだよ。どうぞ。」
葉月先輩はそう言いながら、門を開けてくれた。
といっても、大きな門は車専用の門であり、僕たちはその脇にある小さな門から入った。
さすがは理事長の家という佇まいだった。
僕が、その貫禄に驚いていると。
「まあ、代々花園学園を切り盛りしてきたからね。それに、周りの家と比べたら、私の家は、そこまですごくないよ。」
葉月先輩は笑いながら言っていた。
確かに、そりゃそうだよな。花園学園を代々切り盛りしていれば、それに相応しい、家だった。
門をくぐり、家の玄関に入る。
「ただいまー。お姉ちゃん。輝君だよー!!」
葉月は明るい声で呼ぶ。すると、葉月のお姉さんが出てきた。
「こんにちは、改めて、先日は助けてくれて、本当にありがとう。私も、子供もとても元気だよ~。」
葉月のお姉さん、つまり、僕が助けた妊婦さんは無事に出産して、元気になっていた。
「改めて、葉月の姉の、【大野弥生】です。結婚して、苗字も違うし、普段は違う家、丁度輝君の家の近くに旦那と住んでいるけれど、子供が生まれてからはしばらくここにいます。ゆっくりして行ってね!!」
弥生さんは笑いながら僕たちを迎えてくれた。
「本当に元気そうでよかったです。お邪魔してすみません。」
僕は頭を下げるが。
「気にしないで、私も会いたかったし。輝君ならいつでも、大歓迎だよ。今度はパパとママがいるときにまた遊びに来てね。会いたがっていたから。」
弥生さんはそう言いながら、僕たちを家に上がらせてくれた。
最初に小さなベッドがある部屋に上がらせてくれた。
ベッドの上には、弥生さんの息子、つまり生まれた赤ん坊もとても元気そうで、すやすやと寝ていた。
赤ん坊の可愛さに、ここに居る全員が共感する、生徒会のメンバー。
「赤ちゃん、無事でよかったわね。本当に橋本君。よく頑張ったわね!!」
瀬戸会長は僕の肩をポンポンと叩く。僕は少し顔を赤くする。
「か、かわいい。」
加奈子は赤ちゃんに見とれているようだ。僕と同じ、真っ赤な顔をして。
「さあ。ゆっくりして行ってね。葉月、お茶とか、お菓子とか用意するから、取りに来るのよ。」
弥生さんはそう言って、僕たちを二階の葉月先輩の部屋に通してくれた。
家の二階に上がり、葉月の部屋に入る。
葉月先輩の部屋はとてもきれいに整理整頓されていた。
女性らしいそんな部屋だった。
「さてと。まずは、生徒会選挙に必要なことをおさらいしておくね。」
そういって、葉月と瀬戸会長は僕にいろいろと説明してくれた。
「で、推薦人の演説なんだけど、輝君、今日のお出かけイベントの総まとめとして、先ずは、輝君の思うように話してみて。今日加奈子ちゃんのことをいろいろ知ったと思うから。」
瀬戸会長はウィンクして、こちらを見ている。
僕は頷き、緊張しながらも、少し喋ってみる。
「この度、加奈子先輩の推薦人となりました。一年B組の橋本輝です。加奈子先輩は今年から共学になり男子生徒が少ない中で、僕を生徒会に温かく迎えてくださり、本当にありがたかったです。
また、勉強も優秀で、食事にも気を使っており、勉学、体調管理も本当によくできる人だと思います。
どうか、皆さんの清き一票をお待ちしています。加奈子先輩が会長になれば、本当にこの学校が温かい雰囲気になると思います。」
少し早口になってしまったが、僕は喋ってみた。
「うん。うん。よくできました。初めて、そして、参考にする物がない中で結構よかったと思います。
ただ、温かく迎えてくれたのは、加奈子ちゃんだけじゃなく、私と葉月ちゃんも含んじゃうから、また、来週以降も、生徒会でやってみて、加奈子の良さをもう少しアピールする必要があるかな・・・・・。」
瀬戸会長の目は笑っていた。
葉月も同じで、うんうんと頷いている。
当の加奈子は、恥ずかしがりながらも、照れながら頷いていた。
「そしたら、輝君のさらなるスキルアップのために、去年の演説会のDVDがあるので、みんなで見ようとおもいまーす。テレビがあるのは隣の広い部屋なので、そっちに行きましょう!!」
葉月先輩はそう言いながら、僕たちを隣の部屋に案内した。
隣の部屋の扉を開けて、僕たちに入るように促すと。
「じゃあ。お姉ちゃんから、お菓子とお茶を、そして、パパの部屋から去年のDVDを取ってくるから、ちょっと待っててね。」
葉月はそう笑って大きな部屋を出て行った。