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84.風歌と練習

 

 足早に出た僕を生徒会メンバーはニコニコしながら見送ってくれた。

 それもそのはず、この後の予定は何があるのか知っているのだろう。


 校門の前である人物と待ち合わせる。

 噂をすれば緊張しながらもどこか、軽い足取りで、すぐにその人はやって来た。


 コーラス部の練習を終えた風歌は楽しそうな表情で、こちらに向かってくる。

 大きく手を振る僕。


 少しドキッとしながらも、それに応える風歌。

「ご、ごめん、ひ、輝君、待った?」

 風歌は緊張しながらも、僕に声をかける。


「ううん。大丈夫。風歌、本当に、ありがとう。」

 僕はニコニコ笑いながら、だが、申し訳なさそうに、お礼を言った。


 風歌は大きく首を横に振る。


「あ、あの、き、気にしないで。ひ、輝君と一緒に、連弾出来て、嬉しい。」

 風歌は大きく頷く。


 僕は自転車を押し、歩く風歌の速度に合わせる。

 校門を出て、花園学園の建物が見えなくなるのを確認すると、風歌はギュッと僕の腕にしがみついてくる。


「へへっ・・・。こうしていたい。」

 思わずドキッとする僕だったが、風歌のかわいいところを見て、頷く。


 そうして向かう先は、岩島先生のピアノ教室だ。

 そう、風歌とともに、これから、連弾・二台ピアノ部門の練習だ。


 風歌は終始、僕の腕にしがみついて、ピアノ教室に移動するまで、ずっとこんな状態だったのだが。

 そうしているうちに、広い道から路地に差し掛かる。

 少し狭い道だ。

 この狭い道沿いに岩島先生のピアノ教室があるわけだが。


 僕はピタリと立ち止まる。

 そして風歌に、自転車の後ろを指さす。

 一度やってみたかった光景。だが、この北関東の地域は車の交通量が多く、かなりのタイミングで、パトカーと出くわすので、出来そうになく。他のメンバーと二人きりの場面の時でも眼中に無かった。

 それに、他のメンバーも自転車を持っていたり、二人きりになる場面が少なかったと思う。自転車と徒歩の組み合わせの場面なんかなおさらだ。


 しかし、風歌が終始、しがみついているし、この路地の少しだけなら。


「にへへっ、やったぁ。」

 風歌は僕の自転車の後ろに、座る。


 しかし、予想以上に進まないし、バランスがとりにくい。

 かなり力を入れないと・・・・。


「お、重い?」

「大丈夫。実は初めて。結構、力がいるんだなぁって。」


「そ、そうなんだ。あまり、やらないよね。それに、こっちの子なら、みんな自分の自転車持ってるし。」

 風歌は自分が原因ではないことを僕が話したからか、ふうっ、と一息入れて、安心する。


「恥ずかしい話だけど。練習が必要かも。これに関しては。」

「そ、そうなんだ。わ、私でよければ・・・・。」

 風歌は笑っている。


 そうして、距離にして百メートルに満たないが、路地の入口から、岩島先生のピアノ教室までの道のりで二人乗りをやってみたのだった。


 そして、やってみて、いかに、この二人乗りが危ないかわかった。

 距離にして短かったため、警察に見られたりはしなかったが。普段から、取り締まっているのがよくわかったのだった。


 そんなこともあり、自転車を止めて、岩島先生のピアノ教室に入る。

 夏休み前からずっと通っていた場所だが、そこは、原田先生のバレエ教室に近い場所にあった。

 隣の建物は写真館であり、岩島先生のご主人とそのご両親が運営しているのだそう。

 『岩島写真館・ピアノ教室』と看板には記載されている。


 僕と風歌は、ピアノ教室側の入り口からその場所に入る。


「こんにちは。」

「・・・こ、こんにちは。」

 僕に続いて風歌も挨拶をすると。


「こんにちは。今日も頑張りましょうね。」

 ニコニコと岩島先生が迎えてくれる。


「緑さんもよろしくね。短い時間かも知れないけれど。二人の実力なら、きっと大丈夫だから。」

 岩島先生は風歌を見る。


「は、はいっ、よろしくお願いします!」

 風歌は緊張しながらも、元気よく頭を下げた。


 早速、練習室に通される僕と風歌。

 今日は、二台ピアノ・連弾部門の練習のため、いつも使っている練習室ではなく、ピアノが二台置かれている広い練習室へ。


 練習期間は本当に短い。それに付きあってくれる、風歌と岩島先生に感謝しなくてはならない。

 密度のある練習にしようと、僕は意気込んだ。


 だが、幸いにも、二台ピアノ・連弾部門の方は、『上位の大会で、地区大会で披露したものとは別の曲を演奏しなければならない。』という、ルールはなく、課題曲の『二台ピアノのためのソナタ』、自由曲の『春の声』の二つで行ける。


 曲が決まって、楽譜をもらってからだろうか、僕も伯父の家の離屋で一人、練習をしていた。

 それに関しては、加奈子のバレエのコンクールの時から、この高校に入学してからずっとそうだった。だがしかし、今回に関しては、かなり力を入れていた。

 本当に、充実していて、ありがたい。


「とりあえず、全て通してできればOK。後は、二人で本番でどれだけできるかかなぁ。細かい調整は関東大会まででも間に合うから。」

 岩島先生が笑う。


 まずは、二人で基本に忠実になるところから始める。

 細かい調整は、岩島先生のいう通り、関東大会で間に合う。

 岩島先生や、茂木が前にも言っていたのだが、この部門の県大会の出場者は、例年少なく、県大会で演奏し、よほどのことがない限り、その場で賞を渡し、関東大会へ行ける仕組なのだそう。


 そういえば、僕が中学時代に出場していたコンクールも、この部門の参加者は少なく、個人部門の出場が多い感じだ。

 そう言う意味では、細かい調整は、関東大会の直前まででも間に合いそうだ。


 ということで、先ずは基本の基本。お互いに合わせるところから入る。

 風歌のピアノを聞き、風歌の演奏に合わせる僕。

 風歌も同じ感じのようだ。僕の音を素直に聞いてくれ、それに合わせに行ってくれている。


 風歌との合同での練習。その最初の演奏は、課題曲も、自由曲も良い感じに出来ていた。


「よかった、何とか、間に合いそうね。最初は茂木先生の提案に大丈夫かなと思っていたのだけれど。流石は実力者の二人だね。」

 岩島先生が、演奏を終え、ニコニコ笑っている。


「そしたら、あまりゆっくりできないので、次のステップへどんどん進んでいくよ。」

 そうして、岩島先生はこうしたらよくなるという点をいくつか指摘してくる。


 そう。先ほどの、県大会の仕組、関東大会の直前までの調整など、それに甘えて、ゆっくりできないことは僕も風歌も分っていた。

 関東大会になれば、当然、出場者も多くなり、優劣がつけられる。それまでに頑張らなければならない。


 皆からくれた、最大のチャンス。もう一度、舞台でピアノが弾ける最大のチャンス。逃してたまるか。

 そんな気持ちで、残りの時間の練習を過ごした。

 岩島先生の指摘を意識しつつ、僕と風歌はお互いの演奏を聞いて、合わせる作業をひたすら繰り返したのだった。



「よしよし。良い出来。今日はここまでにしましょう。レベルはさらに上がりそうだし、この勢いがあれば、県大会でも間に合うかも。この勢いで、家でも練習を進めてね。」

 岩島先生がニコニコ笑いながら、言って今日の風歌との練習を終えた。


「さてと、橋本君はこの後、裕子のところだよね。個人部門の曲は仕上がっているから、井野さんと息を合わせられるようにね。」

 岩島先生がさらに続けた。


「はい。ありがとうございます。」

 僕は頭を下げ、レッスン室を出て行く。

 風歌も一緒に頭を下げる。


「ありがとう。風歌。」

「うん。輝君なら、大丈夫。また、学校で。」

 風歌が抱きしめてくる。


 僕は頷き、風歌の背中に手を回す。

「うん。本当に、本当に、ありがとう。」

 僕はそう言って、お互いの身体が離れ、風歌と別れた。



本日もご覧いただき、ありがとうございます。

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