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83.生徒会の二学期

 

 バレエ教室の誕生日会の翌日。

 ピアノコンクールに向けての練習を進めているが、学校に登校している間は生徒会役員だ。


 といっても、最近はコーラス部の助っ人と言い、コンクールのことと言い、かなり忙しい。


 今日も授業を終え、生徒会の二学期の活動に初参加だった。


「おーっ、輝君、昨日、一昨日と大丈夫だった?」

 僕が生徒会室に入ると、先に来ていた葉月が元気よく聞いてくる。

「うん。ありがとう。葉月。皆で色々と対応してくれることになった。詳しいことは、ピアノのコンクールの時までには話すよ。」

 と、僕は返す。


「良かった、良かった。原田先生たちが居てくれれば安心だね。」

 葉月はにこにこと笑う。

 そう、原田先生と、葉月はもともと僕と出会う前から面識があり、何なら、葉月も小さいころに原田先生のバレエ教室に通っていたのだった。

 葉月は小学生の頃にやめてしまったらしいのだが、加奈子と仲がいいため、関係は続いているのだった。


「ふうっ、葉月が気楽で良かった。」

 その言葉を聞いて、加奈子は少しため息。

「どうしたの?緊張しているけれど。」


「ああっ、その、対応の一つとして、茂木先生からの提案で、加奈子が譜めくりのサポートをしてくれることになって。」

「ああ、そうなんだ。ファイトだよ、加奈子。」

 葉月はニコニコ笑う。


「まあ、良いんだけどさ。いざ、考えてみたら、緊張してきてる。」

 加奈子は少しドキドキする。

 おそらく、慣れていないのだろう。好きなこと、得意なことは思いっきり前向きに取り組む加奈子であるが、こういう初めての経験は途端に奥手になる。


「ありがとう。加奈子。本当にごめん。」

「大丈夫。大丈夫。気にしないで。いちばんの目的は、譜めくりが合う、合わないの問題じゃないって、わかっているから。」

 加奈子は、大きく頷く。


「うん。本当に助かる。」

 僕は少し遠くを見るような、少し低い声で言う。


「ひ、輝。わ、私、頑張るね。」

 加奈子はそれを見て、大きく頷く。


 葉月も、僕のこの言葉や動作で察したのだろう。加奈子を譜めくりサポートにした真の狙いを。

 やはり、コンクールの最大の障壁はピアノの曲の難しさとかではない。何なら、僕が弾く予定の曲は既に一度、どこかで演奏している。

 最大の狙いは、僕一人で、安久尾や安久尾建設の連中に遭遇させないことにある。


「応援してる。輝君。」

 葉月は全てを察して頷く。


「うん。ありがとう。葉月。」


 そんなやり取りをしていると、続々と集まってくるメンバー。

 結花、史奈、そして義信。

 みんな僕のことを心配してくれている。


「いいっすね~。課長。頑張ってくださいよ。」

 義信はニコニコ笑いながらその場を和ませる。


 そして、そうこうしているうちに、生徒会の打ち合わせが始まろうとしていたのだが。

 開始直前に早織が生徒会室にやって来た。

 僕がいないときも早織は議事録を手伝ってくれていた。


 そして。

「それでは、生徒会を始めます。まずは、輝が二学期初参加ということで、コンクールで忙しい中来てくれてありがとう。私もサポートするし、皆も応援に行くね。」

 加奈子はそう挨拶を述べる。

「ありがとうございます。すみません、期末試験後の夏休み前から、いろいろと欠席が多くて。」

 僕は改めて、頭を下げる。

 ここは正式な打ち合わせ場所。自然と敬語が出てくるが、皆はその事情を百も承知のようだ。


「そして、輝君が来たので、みんな全員の前で、正式にお知らせがあります。」

 葉月が最初の話題を持ち掛ける。

 そして、発表を加奈子に促す。


「はい。ここに居ます。八木原早織さんが、家庭科部の兼部ではありますが、正式に生徒会役員メンバーに加わってくれることになりました。」

 加奈子は早織の方を見て会釈する。

 僕を含めて皆はそれを聞いて拍手をする。

 思わず恥ずかしそうな顔をする、早織。


「というわけで、早織ちゃん、まあ、皆知ってると思うけど、自己紹介と挨拶を簡単にどうぞ。」

 葉月が早織を促す。


「あ、あの。一年B組の八木原早織です。北條さんに誘われて、輝君、えっと、は、橋本君の代わりに議事録係で参加しているうちに生徒会に興味がわき、参加することになりました。よろしくお願いいたします。」

 早織は頭を下げる。

 パチパチパチパチ。

 と僕たちは拍手をする。


 勿論、早織のことは皆知っているし、最近は僕が出席できていない代わりに議事録を書いてくれていたので、かなり助かっていた。

 これには納得せざるを得ないし、歓迎だ。

 そして、生徒会メンバーも、今回、早織の正式な加入とあって、かなり嬉しそう。


「と、言うことで、早織ちゃんは輝君と一緒に書記ね。仕事内容は今まで通り、資料と議事録の作成、まあ、輝君が居ないときに協力する感じで。」

 と葉月は改めて説明する。

 同じく、加奈子も頷く。


「頑張って。期待してるよ。早織。」

 加奈子はにこにこと笑っていた。

「は、はい。」

 加奈子の言葉に気を引き締め、緊張する早織の姿がそこにあった。


 しかし、いざ、仕事に入れば黙々と取り組む早織の姿がそこにあった。


「さてと、今日は輝もいることだし、二学期最大にして、年間最大のイベント、文化祭と体育祭のテーマ決めの時間にします。夏休み前から、事前にアンケートを募集して、昨日締め切りました。まずはアンケートの紙を配るので、良さそうなのがあったら、各自、書いていきましょう。」

 加奈子はそう言って、全校生徒が書いたアンケート用紙を配っていく。


 勿論、全校生徒全員分のアンケートを見るのは、かなり時間がかかるので、一人、百枚から、百五十枚くらいの束にして渡された。

 パラパラパラと見ていく僕。他の皆も同じ。

 そうして、好きな言葉、気に入った言葉があれば別紙に記入していく形だ。


 因みにだが、この高校は、文化祭と体育祭は一つにまとめて行われる。

 十一月の初旬。第一週目か、第二週の土日を使う。

 花園学園の行事は、土曜日を登校日として、行う場合がほとんどなのだが、さすがに、文化祭と体育祭は、そう言うわけにはいかず、前々日の木曜日が準備デー。そして、金曜日に体育祭と文化祭の前夜祭。そして、土日に、文化祭を行うという流れだ。


 つまり、今配られているアンケート用紙の中から、選ばれるわけだが。

 その中から選ばれた、文化祭のスローガン、イコール、体育祭のスローガンということになる。



 何か、僕の心に、響くものはないか。

 そんな感じで、文化祭、体育祭のテーマ、スローガンを見つけていく。


 意外にもすぐに見つけられると思ったのだが、パラパラ見ていくうちにどれも良い言葉に見えてくる。

 適当に書いたものも中にはあって、そう言った用紙ならすぐに僕の中ですぐに絞り込むことがきると思っていた。

 しかし、ここは元女子校。乱暴に書くような男子生徒は皆無で、一つ一つの言葉が、丁寧な字で書かれているアンケート用紙がほとんどだった。


 どうしよう・・・。どれもよさそうに思える。

 中には、やはり、一年生や中等部の一年生なのだろうか、初めての文化祭になれておらず、よくわからなそうに、適当に書いたものもあって、僕の想定通り、絞り込めるものもあるのだが。

 そのような用紙は僕が想定したよりも少ない。


「おおっ、課長も同じっすか。なんか、あまり、絞り込めないっすよね。」

 僕の表情に、気付いたのか、義信も同じように迷っていた。

 乱暴に書くような男子生徒、おそらく、義信もそれに含まれていそうなのだが。そこは触れないことにした。

 おそらく、共学とかだと、もう少し絞り込んで、良いテーマ、良いスローガンが見つけやすいのだが。



「はい。苦戦しているなら。」

 ということで、加奈子から、別の用紙を渡される。それは去年までの文化祭のスローガンのリストだった。


 そうして、次に参考にするのが、加奈子から渡された、そのリストだった。

 僕は、それを見ながら、さらに作業を進める。そのリストを参考にすれば、大方絞り込むことができた。

 去年、もしくは直近の十年くらい前のテーマと同じようなものを除外していく。

 そうすることで、結構、絞り込めた。


 さて、ここから、僕の束から印象に残ったテーマを書き出していく。

 印象に残る言葉たちがいろいろある。


 そうして、見ていくうちに。

 【夢の箱舟】と記載されていたアンケートを見つける。

 【意味:夢を持つことは、誰にでも出来る、誰にでも与えられた平等な権利だと思うから。どんなことがあっても、その夢に向かって、頑張れるから。箱舟はどんな波が来ても、沈まないので。】


「・・・っ。」

 何だろうか。何かが熱くなる。

 こうなりたいと思う自分がある。そう。それに向かって、努力することは誰にでも与えられた平等な権利。


 僕はマユの顔が思い浮かぶ。そして、僕の心の内も。

 確かに、安久尾によって、こうなりたいと思うことの一つを、僕とマユは潰されてしまった。

 でも、願い続ければ・・・・。


 バレエ教室での、吉岡先生の話も思い出す。

 吉岡先生だって、苦しい思いをしていた。しかし、今は、先生として、バレエダンサーとして、立派にご活躍されているじゃないか。


「はい。皆、見終わったかな~。」

 葉月の言葉にハッとする僕。


「大丈夫?輝君、すごく考え込んで、ボーッとしてたようだけど。」

「あっ、すみません。すぐに見ます。というより、これに感動して。考え込んでました。」


 僕は素直に伝える。


「へぇ~。見せて。輝。」

 加奈子の言葉に、僕は先ほどのアンケート用紙を渡す。


「うわぁ。素敵。」


「これは今の輝と照らし合わせて、輝が考え込むのも無理もないか。」

 加奈子は思わず目を見開く。


「本当だね。輝君の束に、良いものがあったね。」

 葉月はニコニコ笑う。

 そして、一緒に居た結花、義信、早織も、その紙を見て。


「おお、何か、映えそう!!」

 結花は笑う。

「そうっすよ、課長。やっぱ、センスいいっすね。」

 義信はニコニコ笑う。


 その様子だと、義信が持っている紙の束の中には、彼が印象に残ったものは無かったのか、もしくは絞り込んでも、かなり難しかったのだろう。

 迷って苦労した表情も垣間見える。


「すごく、素敵。」

 早織もニコニコしながらそれを見た。


「とてもいいじゃない。そしたら・・・・。」

 史奈はニコニコ笑う。

 そうして、彼女はそのアンケート用紙に、副題を付けた。


 【夢の箱舟~With Friends~】と。


  「「「「おお~っ。」」」」

 声をそろえる僕たち。


「ねっ。」

 史奈はニコニコウィンクする。


「私の束、こういう、友情とかのテーマが多かったからね。」

 史奈がそうして、副題をつけ、ニコニコ笑っていた。


 文化祭のテーマは、この、【夢の箱舟~With Friends~】に決まった。


「さあ、私たちも、これから頑張りましょう。まあ、輝のコンクールが先だけど。」

 加奈子はそうしてニコニコ笑う。

 僕は頷き、大丈夫と加奈子に告げる。


「ふふふっ、テーマが決まってよかったわね。さあ。頑張りましょう。」

 史奈がうんうんと笑いながら頷く。


 そうして、文化祭のテーマ決めが終了し、この日の生徒会を終えた僕たち。


 僕は急ぎ足で、皆に挨拶を済ませて、生徒会室を出たのだった。



 




今回もご覧いただき、ありがとうございます。

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